シーナの美しい街並みをナマエとエルヴィンは並んで歩いていた。はぐれてはいけないからと言われ腕を組んだが時間が早いこともありそれほど人はいない。
「欲しい物は決まっているかい?」
「…考えたんですが、思い浮かばなくて。お菓子とかだったら皆さんも食べるでしょうか」
「ナマエは甘いものが好きなのか?」
「食べますが、そこまで好きではないです」
「では別のものにしようか。今日は君のための買い物なんだから」
さあ、と腕を引かれ歩く。ナマエは正直困っていた。確かにパーティーに参加する代わりに好きなものを買ってもらうという約束をしたが、ナマエはその為にエルヴィンの頼みを聞いたわけではない。ドレスもプレゼントしてもらったのだからやはり遠慮すると何度も断ったがエルヴィンは首を縦に振らなかった。
「あ、…ちょっと良いですか」
「ん?何か気になるものを見つけたかい?」
「あそこ…紅茶のお店ですよね。ちょっと入ってみて良いですか?」
「……ああ、行こうか」
店に入るとふわりと紅茶の香りが鼻に抜ける。店内を見回すと色とりどりの缶に入った紅茶の茶葉が置いてあるがナマエにとってはどれも同じに見えた。
「団長は紅茶お飲みになりますか?」
「たまに飲むこともあるが……リヴァイに送るのか?」
「はい。兵長は紅茶がお好きだと聞いたので」
リヴァイとはあれ以来顔を合わせていないが、故意でないにせよ失礼な態度をとったことにはきちんとお詫びをしたいと思っていた。エルヴィンに尋ねたときははっきりとした答えが返ってこなかったが幸いナマエの周りにはリヴァイファンが結構居るので情報には事欠かなかった。
「紅茶ってこんなに種類があるんですね。違いが全然わかりません」
「これなんてどうだ?値段は手頃だが、香りが良い」
「じゃあ、それにします。買ってくるのでちょっと待ってて下さい」
女性の買い物は長いものと相場が決まっているが、それに反してナマエはさっさと商品を決めてしまった。彼女らしいなと思う反面、会計を済ませるナマエの背中を見つめエルヴィンは複雑な気持ちでいた。ナマエにはエルヴィンなどそこら辺に居る男と同じに見えるのだろう。こうして二人きりで買い物をしていてもただの付き添いくらいにしか思われていないのだろうし、増して目の前で他の男に送る物を買っている始末だ。ふりだとしても恋人という関係になれば何か変わると思っていた。そしてエルヴィンも、自分でも気づかぬ内にそれを望んでいた。
「お待たせしました」
「いや、行こうか」
「はい」
結局ナマエは欲しいものが思い浮かばず、この日は何も買わずにシーナを出た。洋服や普段身に付けるような装飾品も彼女は興味がないようだ。代わりに今度一緒に食事をしようということで話は落ち着き、二人はまた来たときと同じように馬車に揺られて兵団へと戻る。馬車から荷物を降ろすと何だかどっと疲れが出てきたが、ナマエはともかくエルヴィンは執務室に戻れば仕事が待っているのだ。
「あの、団長…よろしければこれどうぞ」
「…これは?」
「ハーブティーなんですが、疲労回復に良いそうですよ」
忘れない内に、とナマエはさっき立ち寄った店の袋から小さな包みを取り出した。リヴァイへの紅茶を会計するとき目に留まり、それを見た店員に勧められたものだ。疲労回復に良いと聞いて真っ先に浮かんだのがエルヴィンの顔だった。
「何故、私に…?」
「何故……でしょう?」
「……」
ナマエは首をかしげて考える素振りをする。そういえば、と理由を考えてみるが自分でもよくわからなかった。
「じゃあ、ドレスのお礼です」
「じゃあって…」
「すみません今考えました。…店の人に疲労回復に良いと聞いて団長の顔が浮かんだんです」
「…そうか」
エルヴィンは緩む口元を手で覆うことで隠しナマエの手からそのハーブティーを受け取った。
「ありがとう。大切に飲むよ」
「喜んでいただけたなら良かったです。それでは私は兵舎に戻りますので」
ナマエは敬礼をするとエルヴィンに背を向け兵舎へと歩いていった。その姿を見送るとエルヴィンは手にあるハーブティの包みを見つめ大事そうに鞄にいれる。荷物を抱え、仕事が待っているであろう執務室へ向かう足取りは心なしか軽かった。