しばらく抱き合っているとミケの手がするすると背中を撫でる。大きくて、温かい手だ。ナマエはミケの首に回した腕をゆるめて彼の顔を覗き込む。
「…ほんとに、ミケだ」
「あぁ」
「記憶は…あるんだよね?」
「ある。俺がお前のことを忘れるわけないだろう」
「そっか…うん、ありがとう。…ごめんね」
ナマエは再びミケに抱きついた。最後のごめんは、あの頃のミケへの言葉だ。ナマエはミケより早く死んでしまったから。ただいまを、言えなかったから。
「謝ることはない。お前はよく頑張った」
「…うん」
「…痛かったな」
「うん、」
ミケはナマエの頭を優しく撫でながら遠い昔を思い出す。あの日、ナマエの遺体を見てミケは何も言葉をかけてやることができなかった。体は何処も欠けておらず、顔だって青白いばかりで綺麗なものだった。今にも起きて笑いだしそうだと、ただ閉じられた目蓋を見つめることしか出来なかった。
「ミケ…大好き。会えてよかった…本当に」
「あぁ。俺も…会いたかったよ」
苦しいくらいにきつく抱きついてくるナマエの体を少し離すとミケは少し屈んで自分の口を指先でとんとん、と叩く。ナマエは一瞬目を瞬いて、それからふにゃりと笑うとミケの頬に手を添えてそっと口付けた。ちゅ、と触れるだけで離れようとしたのをミケによって押さえつけられ当然のように入り込んできた舌と深く絡み合う。
「ん、ぅ…ちょっ、と…ナナバが入ってきたら…」
「平気だ」
「だ、だけど……あ!」
「ん?」
「今何時!?か、会社行かなきゃ…!」
「今日くらい休めばいいだろう。というか俺は離すつもりないんだが」
ぎゅう、と腰に巻きついて来た腕に不覚にもきゅんとした。ちら、と壁の時計を見ると既に始業まで5分を切っている。
「う…や、休んじゃおうかな…で、でも課長に何て言ったら…私あの人に嘘なんてつけない」
「…そんなに怖いのか、お前の上司は」
「あ、課長って…実はリヴァイ、兵長のことなの。他にもハンジさんとか団長も、あぁでも課長は記憶が無くて…えぇと、」
「…少し落ち着け」
「だって…あ、そうだ…エルヴィン部長に連絡すればいいんだ」
「エルヴィンは記憶があるのか」
「うん。ミケにも会いたいって言ってたよ」
「…そうか」
ミケは昔を懐かしむように少し目を細めた。ナマエはふと微笑みながら携帯を取りだし会社に電話をかけるとエルヴィンに繋いでもらう。
『もしもし、ナマエか?』
「はい。あの…すみません、連絡が遅くなってしまって」
『何かあったのかと心配したよ。無事なんだな?』
「はい、ご心配をおかけしてすみません。それと、今日はその…会社を休ませて頂けたらと…」
『体調でも悪いのか?君は一人暮らしだろう…ハンジにでも見舞いに行かせようか』
「いえ、あの…大丈夫です」
「ナマエ、少し替わってくれ」
「え?う、うん」
ミケに電話を渡すと少し間をおいて話し出す。
「……エルヴィンか」
『!………ミケ』
「久しぶりだな」
『あぁ……そうか、会えたんだな』
「あぁ」
『…お前とはまた、ゆっくり酒でも飲みながら話したいな』
「勿論だ」
『では近いうちに。私の連絡先はナマエに聞いてくれ』
「………」
『はは、連絡先ぐらいでそう怒るなよ。何も手を出したと言っている訳じゃないんだ』
「……」
ミケは渋い顔のまま無言で電話を返した。ナマエはそれを受けとるとまだ通話中なのに気付き慌てて耳に当てる。
「……もしもし?」
『あぁ、ナマエか。…良かったな。今日はふたりでゆっくりすると良い。リヴァイには私からうまく言っておくよ』
「はい…!ありがとうございます」
『じゃあ、また明日な』
そう言ってエルヴィンは電話を切った。それを見るや否やミケはナマエの手からするりと携帯を抜き取ると慣れた手つきで操作する。
「…ミケ?電話ならもう切れちゃったよ?」
「……エルヴィンと連絡先を交換してるのか」
「え?あぁ、そういえば…交換した、かな?会社じゃなくそっちにかければ良かったね」
「……」
「え、何で怒ってるの?連絡先は、仕事に必要だから入れてあるだけだよ?」
「…わかってる」
ミケは自分の連絡先を登録するとナマエのポケットに携帯を戻しぎゅう、と抱き締める。ナマエは訳のわからないままミケの背中に腕を回しぽんぽん、と子供をあやすように撫でた。
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