がつん、と勢いよくカウンターへと打ち付けられたグラスから酒がこぼれ落ちる。ナマエはそれを横目で見ると勘弁してくれとため息を吐きながらおしぼりでそこを拭いた。


「隊長、飲み過ぎですよ」

「…うるせぇ」

「うるせぇったって…そんなんで帰り歩けます?歩けないですよね?いつも私が引きずっていってんの知ってます?」

「……うるせぇ」

「はぁ…」


カウンターの向こうで苦笑している店主にぺこりと頭を下げて代わりのおしぼりをもらう。よく絞られたつめたいそれを隣で項垂れているケニーに投げつけると見事に横っ面にヒットし彼の頭が勢いよく上がった。


「おいおいおい、俺の顔にこんなもん投げつけたのは誰だ?てめぇか?」

「私ですよ隊長。マスターは無実です」

「あぁ?てめぇこら、…誰だ?」

「部下の顔もわからないとか…ほんっと飲み過ぎですよ隊長」


カウンターに足をかけ無実の店主の胸ぐらを掴むケニーの服を引っ張り着席させる。ケニーはひっく、とひとつしゃっくりするとほとんどからになったグラスを高々と持ち上げおかわりを所望した。


「もう帰りましょうよ、隊長」

「うるせぇぞナマエ!お前みたいな小言女と飲んでると酒が不味くなるぜ」

「じゃあ次からはトラウテさんでも誘ってくださいよ、彼女に言っときますから」

「馬鹿か…それこそ酒が不味くなるだろうが!」


部下に向かって(ナマエに対しても、トラウテに対しても)失礼な言葉を吐くとケニーはすっかり怯えてしまった店主に酒をよこせと叫んだ。

ナマエがケニーと酒を飲むのは彼自身に連れていかれるからだが、ケニーがそうする理由はいたってシンプルだった。ナマエは酒にめっぽう強い。どんなに飲んでも顔が赤らむことさえなければ記憶が飛ぶなど彼女には考えられない。いっそ気持ちよく酔ってみたいとすら思う。そしてケニーは大酒飲みだ。ナマエとは違い飲んだ分だけ酔っぱらうし、記憶をなくすこともある。しかし、ケニーも今や憲兵を率いる立場にある。身の振り方に気を付けなければ己の夢から遠ざかるだけだ。そこで目をつけられたのがナマエだった。ケニーは隊長という立場を利用しナマエを酒の席に同行させ酔うだけ酔った自身の世話をさせているのだ。


「迷惑な話ですよね、ほんと…」

「何だと?ありがたいの間違いだよなぁ?」

「うっわ酒くさ…次は絶対一緒に来ませんから」


首を絞める勢いでナマエの肩を組むケニーは酒を片手にご機嫌に笑う。がくんがくんと揺さぶられながら遠い目をするナマエを、店主はただただ不憫そうに見つめていた。

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