ゆらゆらと体が揺れる。ふと目を開ければ映ったのは見慣れた調査兵団のエンブレムだ。どうやらナマエは誰かに横抱きにされているらしい。ぼうっとする意識をそのままに顔をあげればそこには前を見据えて歩くエルヴィンの姿があった。


「えっ、あれ!?」

「…起きたか」

「だ、団長…何で、」

「暴れると落ちるぞ。もうすぐ私の部屋だから、少し我慢しなさい」


エルヴィンはまた前に視線を向ける。ナマエはというと今の状況に頭がついていかずに放心していた。団長室に入るとそこを通り抜け奥にあるエルヴィンの私室に向かう。ベッドにナマエを降ろすとふう、と息をついて隣に腰かけた。


「…あ、あの……何で私…」

「その前に確認させてくれ。君はミケとも寝ているのか」

「え!?」

「体の関係があるのかと聞いているんだ」

「……そ、そんなの、ありません」

「……そうか」

「ほ、本当です…本当に、あ、さっきはただ寝てただけで、ミケさんが起こしてくれるって…、じゃなくて、えっと…とにかくミケさんとは何も…!」

「わかったから、少し落ち着くんだ。仮にミケと何かあったとしても、私はそれを咎めたりしないし…出来ない」


エルヴィンはナマエの頬に手を滑らせるとそこをゆるりと撫でた。ナマエの肩がぴくりと揺れ頬に赤みが差す。エルヴィンの大きな目と視線が絡み合うとゆっくり近づいてきた顔にナマエは恥ずかしそうに瞼を伏せた。重なりあった唇はだんだんと深くなりそのままベッドに倒れ込む。


「……ナマエ」

「…んっ、ん…、」

「ナマエ、」

「、だ、だんちょ…んむ、ん…っ」


キスの合間に何度も名前を呼ばれる。恥ずかしくて、やめてほしいのに、嬉しくて。少し顔を背けると許さんとばかりに顎を掴まれ戻される。


「んん、ぁ…だんちょう…、」

「その顔…、たまらないな」

「っ…だ、たって…団長、が…」

「…私が?」

「団長が、こんなキス…するから、」


ナマエの腕がエルヴィンの首に回り顔を引き寄せる。ぎゅう、ときつく抱き込まれて、ナマエの熱い吐息がエルヴィンの耳を掠めた。


「お願い…もっと、して、ください…っ」


どく、とエルヴィンの心臓が一際胸を打つ。ナマエから求められたのは初めてだった。誘うのも、その行為自体もエルヴィンが求めれば応えてはくれるが、それ以上はなかったのだ。エルヴィンは勢いよく顔を上げると真っ赤になって涙をためるナマエと目が合う。


「…好きだ」

「………え、?」

「愛してる。ずっと、…誰でもよかった訳じゃない。君だから抱きたかった」

「で、でも…つき、合おうとか…言ってくれなかったじゃないですか…好きだっていうのも…今、初めて…っ」

「君に、見てもらいたかった。ミケを追いかけるその瞳が自分に向いたらどんなにかと…いつも思っていたよ」

「う、うそ…」

「嘘なものか。好きだと言わなかったのも、自制のつもりだった。君ははじめから体だけだと割り切っているようだったからね」

「……割り切られてるのは、私の方かと思ってました。終わったらいつも背を向けて、寝てしまわれるし…私、寂しくて、…逃げるように自分の部屋に帰るのが、すごく…」

「そうか…私も寂しかったよ。君がベッドを抜け出した後、冷たくなったシーツを何度撫でたことか」


ふと視線を落としたエルヴィンは自分の掌を見やると自嘲気味に笑う。ナマエはその時初めてエルヴィンの目の下にうっすら隈ができていることに気が付いた。エルヴィンも自分同様に眠れない夜を過ごしていたのかと思うと胸が切なくなる。ナマエはエルヴィンの手をぎゅっと掴むと自分に引き寄せた。


「私…私も、好きです。もう黙って部屋に帰ったりしません」

「あぁ…帰さないよ。さて、では続きをしようか。君が煽るから、さっきからもう…我慢できないんだ」


固くなった股間をナマエの下腹部に擦り付けるとエルヴィンは怪しく笑った。ふたりがいつも以上に濃密な夜を過ごしたのは言うまでもなく、翌朝二人仲良く(特にエルヴィンが)寝坊したのはしばらく兵士の間で話のネタにされたのだった。


愛を飼ってはいけ

(あれ、そういえばミケさんは…)(さぁ…まだあの部屋で寝てるんじゃないのか)(えっ)(…………っくしゅ、)