壁外調査を終えて本部へ帰還した。皆自分が生き残ったことを喜ぶ余裕など有りはしない。たくさん、たくさん犠牲が出た。ナマエの恋人も、今回その中の一人だった。
「ナマエ」
ぐ、と肩にかかる重みとすぐ耳元で聞こえた声に思わずびくりとする。振り向くとそこにはエルヴィンの姿があり、何故か後ろから抱き締められていた。
「だん、…ちょう…?」
「彼のことは聞いたよ。残念だったな」
「……はい」
「…私を恨んでいるか?」
「え…?」
「彼を初列に配置したのは私だ」
「…いいえ、団長を責める気はありません。悪いのは巨人です」
「…そうか」
エルヴィンの腕の力が強くなる。そっとそこに手を添えるとからだの向きを変えられ今度は正面から抱き締められた。肩口から見える丸まった背中からは団長の威厳は感じられない。泣いているようなその背中に、ナマエは思わず腕を回した。
「…情けないだろう」
「そんなことないです…団長は、誰よりも立派です」
「…ありがとう。ナマエ…君は優しいな。甘えたくなってしまうよ」
「……いいですよ。誰にも、言ったりしません」
エルヴィンはナマエに埋めるようにしていた頭を持ち上げる。いつも、いつだって輝きを失うことなく凛々しく光っていた彼の目が今だけはとても弱々しく見えた。彼もやはり人間なのだ。ナマエが少しだけ目を伏せるとエルヴィンも同じように視線を落として、そっと触れるだけの口付けを交わした。亡くなった恋人に悪いとか、そんな気持ちは一切湧かなかった。何故なら、お互い自分のことしか考えていないからだ。今回の壁外調査で無くしたものをどうにか補おうと、ただ何かにすがりたいだけだ。少なくともナマエはそうだった。だからー。
「……ナマエ」
名残惜しそうに離れていくエルヴィンの口元が弧を描いているのは、きっとナマエの見間違いなのだ。
君だけの熱だったのに