壁外調査を好きだと思ったことは無いけれど、今の時期に行われる調査は特に嫌いだった。
調査兵団には毎年少ないながらも入団者はいる。そして彼らにとって初めての壁外調査では特に犠牲者が多いのだ。
「また、たくさん死んじゃった…」
並べられた遺体(そう呼ぶことができないくらい損傷の激しいものも)をぼうっと眺めながらナマエはぽつりと言葉を落とす。ナマエの班に配属になった新兵もまた、今日でその短い生涯を閉じたのだ。
「ナマエ、早く体の汚れを落としてこい」
「ミケさん…」
「…泣きそうな顔だな」
「泣かないです…そんなに弱くありません」
「泣いても弱いことにはならない。泣いてまた進めるのなら泣け」
「っ…何で、せっかく我慢してるのに」
「……」
溜まっていた涙が一粒落ちるとそれを追うように次から次へと流れていく。ごしごしと袖で乱暴に擦ると痛かった。けれどこの痛みも、生きているからこそ味わえるものだ。
「…俺は、もう泣けない。だから大切にするといい」
ミケはナマエより長く調査兵団にいる。それは同時により多くの絶望と恐怖と悲しみを、その目で見てきたことになる。泣きたいのに泣けないのはどれ程辛いだろう。
「私がミケさんの分まで泣いてあげます。だからその時は、胸かしてくださいね」
「ああ、わかった」
生涯と云えない齢