竜頭

 それから二週間。広津さん達に混ざり、太宰治の痕跡を探し続けた。彼の日。救護の場から離れ、本来の仕事に戻った日。彼は姿を消した。晴れているのに雷が降り、私の“家”の一廓が崩れ去った。瓦礫を漁っても彼の姿は見えず、母様に頬を叩かれる迄、さ迷うように探した。けれど、彼の亡骸は見付からなかった。
 捜索が終わる──そんな事、決して無いけれど、一息付きたい時は、自然と彼の部屋に居た。恋しい、ってこういう事かな。寂しくて、独りで居ると、涙が溢れて。少しでも考えないようにしようと、夜な夜な死体が積み上がる街でマフィアを切り崩そうとする敵を死の淵へ案内する。
「おい尾崎!」
「中也さん、どうしたの?」
 太宰さんの部屋で手懸かりを探していた。広津さんと中也さんが入ってきて、中也さんが力任せに太宰さんが新調した顕微鏡を壊した。
「あの最低野郎、俺にしか判らねぇように仕込みやがやった。本当最悪な嫌がらせだぜ」
 中から出てきた発信器。
「尾崎、お前、通信機は付けてるな?」
「付けてるよ、太宰さんから貰ったやつ」
「お前は肝心なところで姉貴みたいにのんびりしてんな! お前は、彼奴の聞き分けが佳い犬だから、俺に付いてくるなんざ云わねぇだろうけど、此処で待ってろ。俺があの面ボコボコにしてから引き渡してやる」
「分かった」
「ですが、白麒麟は単身では勝てる相手では無いと……」
「いや、あれを使う」
 それだけ云って、中也さんは単車で捜索に出た。それを見送りつつ、試しに「太宰さん」と呼び掛ける。
『卯羅、ちゃんと寝ているかい?』
「寝れると思ってるの?」
『だろうね、あんまりお喋りしてる暇は無いから、次の指示をあげる』
 新たな指示を記憶し通信を切る。
「やるか……」
 新しい密着手袋を付け、気持ちを新たにした。戻って来さえすれば佳い。中也さんとその少し前に出た織田作。二人が居れば案ずる事はない。
『やあ、織田作』
 それを合図に私は図嚢に止血帯、消毒液、生理食塩水、包帯……取り敢えず必要そうなものを入れた。少し重いが、走るのには支障無い。
「どこ行くの?」
 中也さんに付いてくとか何とか云って、殴られたであろう姉が訊いた。中也さんを見送った帰りだろう。
「太宰さんの所」
 首領に持ち場を離れる事を伝え、上司の元へ急いだ。そうか、数日前、私を同行させた理由が解った。私なら、瓦礫を探して「太宰が消えていない」という証拠を探そうとするから。裏を返せば、私がどれだけ探しても死体が見つからない、と云うことは「太宰治は消えた」ということになる。
 着いた時にはもう全てが終わってた。摩天楼は崩れ落ち、其の瓦礫の中に太宰さんと中也さんが居た。“汚濁”を使ったんだと、一目で解った。太宰さんも口元が少し変色して、出血している。
「ほら中也起きて〜流石に卯羅も君を連れては帰らないよ」
 清潔なガーゼに生理食塩水を染ませ、口許を拭う。
「織田作は一緒じゃないの?」
「彼はいつも通りだよ」
 緩んだ目元の包帯を巻き直しながら訊く。
「君は何事もない?」
「拠点に籠りきりだもん。何もない」
 少しだけ、嘘をついた。
「君が無事なら佳い」
 今まで彼からそんな言葉、聞いたこともなかった。忘れて、とも云いたげに手を振られた。
「取り敢えず……」
 中也さんにも応急処置。あれだけ暴れて骨折れてないの凄いなあって思う。ただ、出血が酷く、心配だったから森先生に電話して、輸血の準備だけしてもらった。
「主犯は潰せた?」
「中也が暴れまわったからね、闇雲に。真相は霧の中」
 この暴力の限りを尽くし制圧した時から、裏社会にある噂が流れた。
 此の抗争で生まれた黒社会最悪の二人組──双黒。

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