同世代

「なあ、お嬢も誘わないか?」
「度胸試し、という訳ですね」
阿呆鳥の思い付きで、尾崎の妹も連れて飲みに行こうという話になった。俺は止めた。あの陰険野郎がしゃしゃり出るに決まっている。だが、あいつなら何とかなると思ったのか、俺と冷血以外は、そりゃあもう楽しそうだった。事に広報官は、自分に興味を持たない尾崎にちょっかいを掛けたいらしかった。

「食事会?」
本部楼閣の廊下で、突然のお誘い。私は首を傾げた。若手会の皆とは、仕事で偶に一緒だったりするから、知らない仲ではない。
「どうです?」広報官が相変わらず胡散臭い笑顔で、目線を合わせてくる。皆、太宰くんの笑顔の方が胡散臭いって云うけども。「貴女も、私達と同世代、中也さんとは同い年でしょう」
「じゃあ、太宰くんも一緒が善い」
阿呆鳥があからさまに、不味い物を口にした様に顔を顰めた。外科医も、ピアノマンも、広報官も。中也さんと冷血は呆れたように事の成り行きを眺めているだけだった。
でも事実、太宰くんは私と同い年。正確に云えば、私は一月生まれで、太宰くんは六月だから、太宰くんの方が少しお兄さんだけど。だから太宰くんも居ないと、同世代で、という誘い文句はおかしい。
「幽鬼とばかり居て、休めていないでしょう。偶には、肩の力を抜いて、羽を伸ばしては如何でしょう」
「お嬢だって、この組織の医療者の一員なんだから、その方面に就いての議論も交わしてみたいと思ってね」カラカラと点滴棒が乾いた音を立てる。外科医の顔よりも残量の少なそうな輸液に目が行った。
どうしようかなぁ。確かに、同世代の構成員から得られる情報は大きい。特に、ピアノマンや中也さん、そして太宰さんみたいに、幹部への道が期待されている人達からしたら、相手の手の内を探る機会ではある。
だとしたら。「私、行かない」
「えー!何で!お嬢も来てよ。僕、お嬢と沢山お喋りしたい!そうだ、お嬢、若手会に入ってないよね?じゃあ今日を入会祝いにしない?」阿呆鳥が中也さんの方へと私の背を押す。それによろけて、足を一歩前へ出した。
「その辺にしておけ。何時彼奴が出てくるか解んねェぞ」
「その通りだ。幽霊は何時、何処からやって来るか解らない」
中也さんが苦虫を食い潰したような顔をし、若手会の面々が声の方へ視線を動かした。太宰くんがいつもの、何でもないような、真っ暗な目で私を見ていた。
「卯羅、森さんが呼んでる。行くよ」
「解った!」
私は、ごめんね、と彼らに手を振り、太宰くんに着いて行った。
「広報官の面でも、お嬢は無理かぁ……」鳥の鳴き声が少しだけ聞こえた。
何時もよりも速足で歩く太宰くんに着いて行くのがやっとだった。それに、森先生の所へ行く昇降機には乗らず、先生から与えられた小さな執務室へ向かっていた。
「先生の所、行かないの?」太宰くんは答えないで、居心地が悪そうに部屋をうろうろした。「私、太宰くんの事、お化けとか、鬼だとか、思ったこと無いよ?偶によく解んないけど、それが太宰くんだし」
どうして先生が、私と太宰くんをこういう関係に置いたのかは解らない。太宰くんがそれをどう思っているのかも解らない。でも私は此処の居心地の善さを気に入っている。太宰くんは私に干渉してこないから。それに、きっと、傍に居ないと、きっと彼は何かを踏み外してしまうだろうから。





前の話目次次の話

Latency