「あー……卯羅、これの報告書は?」
「は?」
宿泊亭で待機している間に他の仕事を片付けようと世話人に声を掛けた。しかし帰ってきたのは男の太い声。
「何で中也が居るの?」寝台に腰掛ける中也が答えた様だった。
「俺が手前と同室に振られてッからだよ」
「最悪。男と寝る趣味は無いんだけど」
「手前は十六になっても乳離れ出来ねェのか?」
「は?」今度は僕が文句を垂れた。「部屋変えてもらおう」
受付に繋がる内線の受話器を上げて、部屋を変えるよう指示する。流石は組織のフロント企業。話が解る。
「じゃあね、おちびさん!一人だとお化けが怖くて眠れないかな〜」
お別れの言葉を云って、新しい部屋に入った。仕事に付いてきた構成員が居た。まあ誰かしら居るのは仕方ない。中也よりはマシだ。相手にとっては居心地最悪だろうけど。
寝台に横になった。
静かだなあ。
いつもの小五月蝿い子は居ない。
静かだなあ。
「ああもう!静かすぎる!ねえ何か喋ってて」
「昔々あるところに……」
「そうじゃない!ああ……もう嫌だ……何あの子……」
天井を眺めた。
ちらつく顔。群青の髪と瑠璃色の眼。くりくりとしているのに、少しつり目で猫みたいで、扁桃みたいな形。
僕の事を追いかけ回して何が楽しいんだか。世話人というより僕が世話をしている気がする。仕事で怪我したら泣くし、泣きながら僕の手当てするし。僕が居ないと喚くし。
「ねえ君、それ。指の何?」
同室の構成員が手を動かす度に何かが光った。その原因は指輪だった。左の薬指。室内灯に反射して眩しい。
「あ、すみません。外します」
「そうじゃあない。僕の質問に答えてくれ」
実は先日籍を入れまして、と恥ずかしそうに答えた。
どうでも佳い答えだった。
自分の手を眺めた。
「本当鬱陶しい!」
「だ……太宰さん?」
「ねえ君、何時までもずっと四六時中、特定の子に追いかけ回されたことある?ずーっと説教したと思ったら泣き始めて、甘え始めて、此方が疲れる。漸く独りに成れたと思ったらその子の幻覚が見えるとか最悪だよ」
鬱陶しいが、その幻覚から離れたいとは思わなかった。
真逆、彼女の事をずっと考えている?そんな筈無かろう。そんな事を考えていたって何もならないもの。
「僕もう寝る」
寝台に深く潜った。それなのに声が聞こえる。
「太宰くん、今日は素敵な夢見られると佳いね」
うん。そうだね。
明日は呼べると佳い。君の名前を、君の顔を見ながら。