襲撃

その空間で異質というか、異物は私だけだった。彼らの集う酒場に何故か連れられ、時間を共にすることになった。
私の左に座る太宰さんは何時も以上に軽快に話すし、坂口さんはその話に突っ込みを入れながら、右に座る織田作はそれに時折相槌を打ちながら静かに聞いていた。私は特に口を挟むでもなく、店主の後ろに並ぶ酒瓶を眺めながら、ひたすらに話を聞き流していた。
「……外が騒がしいですね」
寡黙な店主が一言。私は壁に掛けておいた長外套に手を伸ばそうとした。「私が見てくる」
太宰さんの手が私の手を包んだ。
彼は地上へ続く階段を音を立てず慎重に登りながら、様子を窺う。
「卯羅、発つ支度を。あと銃貸して。安吾、車回せる?織田作は私の援護をしてくれ」階段を降りながら、太宰さんが指示を出す。私は残弾を確認して彼へ銃を渡した。
「解った。安吾、裏から尾崎と出ろ。乗り込むまで俺が後ろに居る。全力で走れ」
「きっとこの間起きた小競り合いの残党だろう。目的は此処ではなく、組織の関係者らしい。卯羅、余計な事は考えないで。そうだな。文句は帰ったら聞くよ」
額に口付け。それから抱き締められて。
「卯羅さん、行きましょう」
織田作が外を窺いつつ裏戸を開け、安全を確認する。織田作の合図と共に外へ飛び出す。走りながら銃声の方向を探る。「尾崎!後ろは気にするな!」
人の気配───明らかに違和感のある気配が背後から近付いてくる。「坂口さん、ドリフトは出来て?」
「はい?!」
私は後部座席に乗り込み、戸を半施錠のままにした。
「織田作と太宰さんも乗せて帰る」
「首領にこの騒動を知られたら」
「大丈夫大丈夫」座席帯を手首に巻き付け、長めに引き出し、強く引っ張り固定した。「此方には幹部襲撃の大義名分がある」
坂口さんは溜息を吐きながらも、アクセルを強く踏み込んだ。

尾崎と安吾が車に乗り込むのを見届けて、俺は太宰に合流することにした。
「闘魂逞しい人達だね。私が昔見た、君達と同種の人間は組織再建に奔走していたよ」
太宰を囲う相手は四人。俺は銃嚢から物を取り出し、一人の脚を狙って構えた。すると嫌な予感がした。車が突っ込んでくる予感だ。
「お前の部下は大道芸人か、太宰」
安吾の運転する車が後部を大きく振りながら迫ってくる。座席から身を乗り出し、地に異能を走らせる尾崎はアクション俳優さながらだった。相手の脚に着弾すると、そこから腹へと茎を伸ばし、一気に開花した。
「何してるのあの子」
「凄いな。あの姿勢で確実に異能を敵に当てている」
「そうじゃなくて。帰れって云ったのに」
「織田作!乗って!」
どういう体幹をしているんだ。
安全帯を手首に絡げたまま、尾崎は車体をよじ登り、屋根へと移動した。俺は太宰を抱え、車に飛び乗った。「何なの?!脳筋しか居ないのかい?」
「太宰くんが絡んだ卯羅さんを、僕ごときが止められると?」
太宰が掃除屋へ連絡を入れていると、尾崎が屋根から降りてきた。開け放していた戸を閉めたことを確認すると安吾は車を更に加速させた。
「手、痛い」
「馬鹿なの?子供じゃないんだからはしゃがないでよ」
「昨日見た映画の真似したくて」
悪びれなく云うのだから、太宰も怒るに怒れない様子だった。
相変わらずこの二人の関係は不思議だ。昔から同じ距離を保っている訳ではない筈なのに、昔と接し方が変わらない。
「首領には何と報告を?」
「窮地の諜報員を救出した」
「それでは僕が剰りにも間抜けでは?」
「じゃあこれはどうだ」俺は一番適切そうな答えを提示した。「捕らえられそうになっていた姫を救出」
俺以外の全員が黙った。尾崎に至っては、姫君の自覚は無い様子だった。
「織田作、真逆、このお転婆が姫?」
「ならお前が姫になるか?」
「嫌だよ!卯羅、姫になって。幼い頃憧れていたろ?」
「じゃあ誰が王子様?」
太宰だろう。
ええ太宰くんですね。
俺と安吾はまだ自覚の無さそうな二人を笑った。





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