「卯羅、おるか?」
お休みだから部屋でゴロゴロしていた。母様が外行きの格好で訪ねてきた。
「何処か行くの?」
「ちと買い物にな」
「行く!」
特に用があったわけでも、欲しいものがあるわけでもない。ただ、母様と居たかった。
「ねえ、母様」
「何じゃ?」
こうして歩いていると、本当の母娘みたい。あまり覚えていないけれど、母様は、本当の母様じゃない。お友達のぬいぐるみ──可愛い耳の垂れた犬のぬいぐるみをくれたのは、別の人。
「母様が、母様なら、私のお父さんは誰?」
母様は暫く考えた。
「広津か、鴎外殿か……父など要らぬ、私だけで善い」
母様が善いと云うならそうなのだろう。思考の“要らない物区域”に考えを追いやった。
「そうじゃ、卯羅の加入祝いを何も贈ってやらなんだ。何か欲しいものはあるか?」
何だろう、また考える。焼売、炒飯、月餅……食べ物ばかりが思い浮かぶ。
「マフィアにはのう、面倒を見る者が、新入りに何か身に付けるものを買い与えるという慣わしがあるのじゃ」
じゃあさっきのは無し。炒飯も焼売も身に付けられない。食品模造なら身に付けられるけど。
「そうじゃ、宝飾品が善かろう。私の娘だと直ぐ解れば、この世界でも安泰であろ」
「宝飾品……」
そんなもの、付けたこと無かった。すれ違う同じ年頃の女の子は、それを身に付けて、どこか誇らしそうに歩いていた。
「それに着飾るのも女の嗜みじゃ」
百貨店に着くとそのまま宝飾品売場へ。どれもキラキラしている。眩しくて、眼が眩む。
「あまり派手でないのが好いのう。お前の髪は黒にも蒼にも見える、朱なぞ似合いそうじゃ」
首飾り、指輪、耳飾り。色々な宝石、色々な形。豪華さもだけど、値段にも目を見張る。私の知っている桁は越えている。
「母様……これ何桁……」
「子供が気にすることではない」
好きなのを選べ、と母様は促してくれた。けれど、何れが似合うのか、何を選べば正解なのか解らない。どれも綺麗で、私なんかには……。
「卯羅」
肩に手が添えられる。
「お前は美しい。何も臆するな。これなぞ、どうじゃ?」
丸い硝子に紅葉の模様。満月の様な金の飾りが揺らめいている。それと金具を繋ぐのは、二重の花。
「可愛い……母様、此れが善い!」
「善いのか?私が選んだ物だが」
「母様が選んだのが善いの」
そうか、と云って頭を撫でてくれた。
母様からその小包を受け取り「ありがとう」と礼を云った。
「これもうお前は誰が何と云おうと、私の娘じゃ」
左の耳元で揺れる、母娘の徴。私の大切な、御守り。