辛い。

さにわつらい。春は大阪城、夏は拡充計画、秋には秘宝の里、冬になれば連隊戦、合間合間に江戸城攻略……そして毎日任務の嵐。いや、私なんかより命をかけて戦っている男士達の方がもっと辛いんだってわかってる。本題はそこじゃないんだ。仕事で忙しいのはもう慣れたからいいんだ。ただ、大義の為だけでは限界なんだ。

人の温もりが欲しい。エブリデー激務なおかげさまで現世の彼氏にフラれてから何年が経ったでしょうか。考えるだけでも寒気がする。独身の男に出会えていない。男士ならその辺にゴロゴロ居るけれど。でも彼らは憑くも神であり、大事な部下である。私が彼らを求めたらその行為はただの夜伽になる。違うんだ、そんなのは駄目なんだ。

何も彼氏じゃなくたっていい。そこに情熱がなくたっていい。愛が欲しいんだ愛が。ぶっちゃけ生きてる抱き枕が欲しいだけなんだ。おねえさんでもいい。ふくよかな胸に包まれたい。いや、ちっぱいでもいいけど。むしろ動物でもいい。大型わんこを抱きしめたい。にゃんこに尻尾で叩かれたい。こんのすけは……あいつはただの狐型ロボットみたいなもんだからな。なんか違う! 私はな、生き物の暖かみと鼓動とハートを直に感じたいんだ!! 優しく癒されたいんだああああああああ「独り言はまだしも、叫ばれるといい加減五月蠅いんですが 」

ん?

ふと我に返るとそこは私の仕事部屋。なんか政府の配布資料読んでた気がするけど、いつの間にか脱線していたらしい。背後には心底どうでもよさそうな顔をした宗三左文字が座布団の上にお行儀良く鎮座していた。そう言えばこの人近侍だったわー。いや、そこじゃない。

「私、もしかして、声に出してた感じ? 」

「ええ。それはもう、はっきりと 」

「ちなみにどのあたりから……?」

「人の温もりがどうたらと仰っていたのは覚えていますね」

「わあ☆ ほぼ全部じゃないですかヤダー! そうだ鬱だ死のう 」

「貴方はろくでもない事にすぐ走る。一度その癖、直された方が良いと思いますよ 」

「ごべんなざい 」

パニクって荒縄をとり出し天井に引っかけていざ逝かん! しそうになった所を宗三が華麗に救ってくれました。何故かついでに首を締め上げられた。 ぐるじがった。 畳の上で這いつくばる無様な主人を見下ろしつつ、宗三左文字は呟いた。

「なんだか知りませんけど、要は人の形をした刀相手でもいいから甘えたいんでしょう? 貴方は主なのだから僕に命じれば済む話じゃないですか 」

「ゲホゴホォッホ、チミぃ! 聞いてるようで聞いていなかったな!? 私は刀剣男士にセクハラダメ、絶対。を信条に生きているんだ! そんな私利私欲を満たす為だけの命令を出すだなんて自分を許せない!」

「それは確か、相手側が苦痛と感じなければ不問になる、個人の主観によってはどうとでもなり得ますよね。僕がセクハラだと受け取っていなければ別に良いのでしょう。だったら問題ありません 」

「なくもない。だがしかしウェイト。いまこの流れからすると宗三が私に『好きにして良いよ(はぁと)』って言ってるように聞こえるんですが自惚れでしょうか 」

「括弧の中身は余計ですけどね。別に構いませんけど?」


? ? ?


わけがわからないよ。どうして急にデレたのこの人。普段から侍らすだけで文句言う癖に。戦に出ることが一番の幸せな癖に。信じられないものを見る目で凝視すれど、イケメンは照れるどころか微動だにしない。

ハッ! わかったぞ!

勢いよく立ち上り、宗三に人差し指を突きつける。よい子は人に指差しちゃだめだよ。お姉さんとの約束だよ。

「あっぶねー! 騙されるところだった! そう言えばあなたわりと悲観的だし自己犠牲もしちゃいそうなタイプじゃないか! どうせ心の中ではそんな扱いされるなんて嫌とか思ってるんでしょう!? もっと自分を大切にしなさいバカバカバカ! 」

「はぁ……なんなのでしょう。このわからず屋。もしかして僕が嫌いだからわざと話をそらしているのでしょうか 」

「はぁ!? んな訳あるかい!! 大事な刀の内の一人ですううう! 誰一人として嫌いになるわけないし、お前の事だって溺愛してるわ! 」

「僕も好きですよ。一人の主として 」

「お、おう。ありがとね……?」

何だこの恥ずかしい会話。なんで急に告白タイムになったんだ。しかもただの主従関係じゃね? 意味あるのこれ?

すると宗三はゆったりとした動作で私の肩を抱くように引き寄せた。すっぽりと腕の中に収まる私。あまりにも吃驚して声が出せない。綺麗な鎖骨が目の真ん前にあるぞ。眼福かよ。

「これくらいの事、どうとも思わない程度には貴方に気を許していますから。 疲れている時くらいもっと頼って下さい 」

「耳元でそんな事言われたらなんか勘違いしそうだからやめい!」

私の顔はさぞ赤くなってるのだろうな。あついのを誤魔化す為に抱きついた。神様も意外とあったかいんだよね。めっちゃ心地いい。これだこれ〜

すっかり大人しくなった私を見ながらくすくすと笑う宗三。気後れする事もなく頭に触れてくる。髪を梳いて貰って、頬を指で優しく撫でられて……どんどん絆されていく気がする。あと、主従逆転してない? 大丈夫?

「気が済むまで抱きついて下さって結構ですからね。その代わり、さっさと書類の整理、終わらせて下さいますね?」

「はぁい 」

もうなんでもいいや。

まくらのそうざ

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