少女の審神者と小夜左文字の愉快な話
日没前、土手の上を歩く小さな人影が二つ。
「もう戻らないと」
「いや! 小夜はついてこないで!」
「帰れなくなっても知らないよ」
「いいもん。歌仙に会いたくないもん」
「もう怒ってないと思うけど」
「でもおしりたたいたからやだ!」
「歌仙もやり過ぎたって言ってたよ」
「知らない! もう審神者なんてやめる!」
「……はぁ」
審神者の少女は行き先も決めずにどんどん道を進んでいった。それに合わせてますます光が薄れて行く。
この川岸には灯りが一つもなかった。辺りが暗闇に包まれたなら足元さえ見えなくなった。さすがにこれ以上踏み出すような勇気を幼い子供が持ち合わせている訳もなく。立ち止まり、振り返ってみれば、後をつけていたはずの小夜と呼ばれた少年が居ない。帰ろうにも元の道がわからない。
恐怖と疲れが一気に押し寄せ、とうとう彼女は泣き出した。
「だから言ったのに」
「っ……小夜ぉー……」
存外すぐ側に潜んでいた小夜は、そっと彼女に触れる。夜目がきくので頬を伝う涙を器用に拭り去ることができた。
「小夜……っ、あのね」
「うん」
「歌仙にあやまるから、だから、いっしょに復讐してくれる……?」
「……いいよ」
「じゃあ帰る」
「わかった」
その場にしゃがんだ少年は、彼女の手を掴みとり自分の肩に掴まるよう促した。寄りかかった少女を背負い、彼は来た道を引き返す。
自分と同じくらいの背丈である小夜に担がれるのは不思議な感覚であった。しかし、限界が来ていた少女はその安堵から意識を手放した。
二人が家である本丸へ無事に帰った数日後、歌仙兼定の箪笥から下着がごっそり消える珍妙な事件が起きた。その奇抜さから審神者は疑われず、内部に変態の盗っ人がいるのではないかと言う噂で持ちきりになった。本丸全体が疑心暗鬼の空気に包まれた中、小夜左文字はいつも通りの無表情であった。
「お小夜! 僕の褌を知らないかい!?」
「さぁ?座敷童が悪さでもしたんでしょう」