第1回人気キャラ投票A
どうやら一票以上入れば順位をつけてもらえるらしい。次にステージ上に現れたのは座椅子だ。座布団よりちょっと格上ということだろう。
「同列八位は三人、一票ずつでーす。といっても一人はコメント付きだったのでー、実質的には八位一人と九位二人ですかね」
ふーちゃんがぽんっと手を振るとスクリーンが変わった。どうやってるんだろう、今の。
「というわけでコメントなし一票!」
「言い方酷くね?」
「桐椰遥くんと菊池雅くんでーす」
「俺か!」
「あー……」
まさか一票だけとは、と言わんばかりの雅が立ち上がり、無表情の遥くんはのんびり立ち上がる。並んでステージに向かう二人の身長差、実に二十センチ。
「まずは桐椰くんのミニサイズバージョンと名高い遥くん」
「なにそれ嫌だ」
「桐椰くんと休日にお出かけしてケーキを半分こするなど可愛い弟くんです」
「ほらね、どーせ俺は可愛い系ですよ」
ふん、と無表情のままそっぽを向く遥くん、本当に桐椰くんそっくりの顔なので可愛らしい。私には小さい桐椰くんが拗ねてるようにしか見えないので思わず頭をなでなでしたくなる。隣に座る雅は「小さいけど顔が桐椰だもんなー」と嫌そうな顔をしていた。
「そして菊池くん、最近はマシュマロで大人気! レギュラーになってほしいとの意見、月影くんと実は仲良し、そしてそして本編の都合上マシュマロにあまり登場しなくなった亜季の代打として最近はマシュマロレギュラーです」
「そうなんだよねー、やっと松隆が入れてくれて」
「チッ……」
松隆くん、ガラ悪く舌打ち。むむっと眉を吊り上げると、私の表情の変化に気付いた松隆くんは肩を竦めて返事をした。どういう意味だ!
「更にマシュマロだけに留まらず、九月時点の本編更新では御三家を差し置いて亜季とセットで登場しています。が、そのせいでびっくりなほどの莫迦っぷりまで暴露されています」
「待って、なんかトゲのある言い方じゃね、それ」
「中学二年生の菊池くんが作成した英文には小学生もびっくりでしょう。英語が得意な松隆くんに習うといいかもしれません」
「やばさのレベルが測定不能なのでご遠慮願いたい」
「俺が遠慮すんのかよ? あ?」
ステージ上と観客席とでバチバチと火花が散る。松隆くんの言い方は悪いけれど、雅の英語力が壊滅的なのも事実なので何も言えなかった。
「では続きまして、同列一票でありながらコメント付きということで八位、鬼瓦吉野さん」
「あら、嬉しいじゃないの」
バスの高さにして麗しい女性の言葉遣い、更に毛先がオレンジ色に輝くセミロングをなびかせつつもヌッと影ができるほどの長身──よしりんお姉様だ。彼方とは知り合いなのか「お、吉野さすがじゃーん」なんて親し気な声をかけている。なおよしりんさんがその呼び方を訂正することはなかった。
「さてさて、鬼瓦吉野さん、通称よしりんさんといえば初登場は桜姫のBCCでしたが、嘲謔では御三家の保護者的存在としても登場しています」
「そうねぇ、あの子達未成年だし」
言いながらよしりんさんが座る座椅子のお座布団は雅と遥くんのものよりもちょっと上等に見える。気持ち八位というわけだ。
「大人ぶっててもガキンチョだし。総ちゃんは甘えん坊だし遼ちゃんは奥手だし。駿哉ちゃんはまだ掴めないけど」
「吉野テメェ!!」
「よしりんだって言ってんだろうがガキ共!」
そして公衆の面前では口にされたくない評価を堂々とされてしまった桐椰くんと松隆くんが同時に怒れば、出会ったときからよく聞いていた怒号が飛ぶ。よしりんさんのことを色々な意味でやや恐れていた観客達はその怒鳴り声で一斉に飛び上がったように見えた。でも桐椰くんと松隆くんは悪ガキよろしく揃ってそっぽを向く。なんだかよしりんさんの前だと兄弟みたいで可愛いな。
「そんな吉野さんに宛てられたコメントは『ズバッと言ってくれるので、ぜひリアルで吉野さんがいたら全力で飲みに誘って人生相談をしたいです』とのこと。投票の場面以外でも度々相談に乗ってほしいとのコメントを見かけます」
「ズバッと言ってほしいだけならいくらでもいると思うんだけど、なんで敢えて吉野?」
「そこがガキなのよねぇ、総ちゃんは。ストレートに言えばいいってもんじゃないのよ。大体三人の中で一番不器用な子が何言ってるの? 言わなくても態度で分かってもらえるとか思ってんでしょ? ん? そんなのアンタの兄貴か遼ちゃんと駿哉ちゃんくらいよ?」
松隆くんの細やかな反撃は、よしりんさんにぶった切られるどころかカウンターパンチまでお見舞いされる。ぴくぴくと苛立ちで痙攣する松隆くんの指先を見ながら、桐椰くんと二人で「あーあ」と呆れた。御三家がよしりんさんに適うわけないのに。
「さぁさぁ、続きまして第七位の発表です! こちらも票数的には同列七位なのですが、一人はコメントがあったので気持ち六位ですかね。ということで、第七位、桐椰彼方さん!」
「はいはーい」
飄々とした彼方は壇上に上がり、椅子に座る。八位以下とは視線が違うだけで座り心地は大差なさそうなので、はたして七位にふさわしい扱いなのかは疑問があった。
そしてふーちゃんと彼方は初対面らしい。ふーちゃんは彼方の顔を覗き込んだ後に桐椰くんを見た。
「桐椰彼方さん、例によって御三家の桐椰くんのご兄弟ですが」
「例によってってなんだよ」
「似てませんねぇ」
「うん、俺だけ母親似だからー。いやー弟を可愛がるのに違う顔でよかったよ。もちろん俺のミニバージョンでも可愛いと思うんだけどね、やっぱり違う顔で弟感あると余計可愛いじゃん?」
「といった感じのブラコンであるというのは作中でもしばしば語られている通りですね」
初対面なのに彼方の溺愛コメントをさらりと流す。さすが二次元に溺れているふーちゃん、ちょっとやそっとのキャラでは驚かない。
「更に彼方さんの有名なポイントといえば女好き!」
「その言い方酷くない? 俺には女の子がみんな可愛く見えるだけなんだけど……」
「でも心底可愛いと思って口にしているだけで、女の子を惚れさせて遊んでやろうという悪気はない。お陰で元カノとは恨まれるよりも良い友達になるパターンも多いのだとか」
「え、なんで知ってんのこの子、怖い。超美少女で可愛いけど怖い」
「でもたまーにリアルに後ろから刺されそうになることもあるようです。女好きもほどほどに!」
終始にこやかに答える彼方と、それに対し一定のテンションで答える司会。なんだか奇妙な組み合わせだった……。食えない人同士の会話はどう聞けばいいのか分からなくなるからあまりよろしくない。
「ではでは、同列二票でありながらコメント付きということで気持ち六位、我らが生徒会長、鹿島明貴人」
ムッ、と私と桐椰くんと松隆くんが揃って顔をしかめるも、観客席からは「鹿島くーん!」「せいとかいちょー!」と黄色い声が聞こえた。本当に人気あるんだあの人! 鹿島くんは女子の声に手を挙げて応えながら(すると当然女子からは「キャー!」と返事がきた)悠々と壇上に登る。そしてやっぱり気持ち六位、彼方と同じ椅子なのにクッションが置いてあった。
「ご無沙汰してます生徒会長、私と鹿島くん、実は本編では殆ど絡みがありません、同じ生徒会役員なのに」
「確かに、薄野とはあんまり話さないなぁ。本編に書かれてない本筋ではちゃんと話してるんだけど」
「そうそう、今花高図書室に漫画が多いのは鹿島くんがゴーサインをくれたお陰なのです。感謝してます、鹿島くん!」
ふーちゃんと鹿島くんは朗らかに話す。御三家と──というか私と──は敵同士なのに、こうしてみていると鹿島くんが悪い人に見えないから不思議だ。妙なものを見せられている気分になって、居心地が悪くむずむずした。
「そんな鹿島くん宛てのコメントがこちら、『鹿島くんの考えていることが分からなすぎていい』」
「ただの痴漢だろ。考えてることが分かって堪るか」
横やりを入れた桐椰くんの声には苛立ちが混ざっていた。確かにいきなりのちゅーは痴漢だな。あの時は嫌悪感しかなかったけれど、今思えばあれが痴漢というものか。突然現れて無意味に不快感を与えて去っていくもの!
「人聞きが悪いなぁ。俺も俺なりに色々考えてることも苦労してることもあるんだけど」
そんな誹りを受けても鹿島くんが動じる気配はなく、これまた朗らかな返事。ふーちゃんは「我が校で五本の指に入るブルジョワジーですからね、その苦労は我々の想像を遥かに超えることでしょう」とうんうん頷いている。ふーちゃんと鹿島くん、特に絡みもなにもないと言っていたけれど、仲が良いのだろうか……。体育祭でもポジキャンみたいなことをされたし……。鹿島くんの人間性に疑いがあるせいで思わず首を捻ってしまった。
「他にもマシュマロで度々名前をお見掛けします。『悪役なはずなのに!!!!敵なはずなのに!!鹿島くん!好きです!!!!大好きです!!!!』と熱烈な愛の籠ったコメントから『ただ単に性格も人格も善い鹿島君て全然好きくない。無いです。心の底から無いです。』と推しポイントのよく分からないもの、更に『鹿島くんの情報網どうなってるんですか。それ故鹿島くん本当に無理です本当に。』とのアンチのご意見も」
「人気者にアンチはつきものだから」
「本気で言ってんのかアイツ」
冷ややかな松隆くんの声こそアンチ。鹿島くんは無視だ。
「というわけで第七位と第六位でした。第五位は獲得票数三票、私、薄野芙弓でーす!」
「お前も投票対象だったのかよ!」
ピースしてみせるふーちゃんにはスポットライトが当たり、桐椰くんが驚いてツッコミを入れる。ふーちゃんは首を縦に振りながら「ツッコミありがとーございまーす」と手を振った。
「というわけで自己紹介しますね、好きなものはアニメと漫画、大体なんでも読む雑食ですが最近の一押しは『響』です! NLもBLもGLもどんとこい、バッドエンド大好きなので虚淵好きな人は語ろうね!」
「もう何言ってんのか分かんねぇんだけど……」
自己紹介が既に呪文、と言いたげな桐椰くんの顔がひきつっている。でも遥くんが「『響』なら俺も読んでる! あれクソ面白い!」と頷いていた。
「因みに創作活動もしてます、最近はウェブで煽りの強い主人公と学園のアイドル三人組との闇あり谷ありのラブコメを書いてるのでよろしくお願いします!」
「マシュマロでも言ってたけど、どこかで聞いたことある話だよね、それ」
頬杖をついた松隆くんが興味のなさそうな顔のまま相槌を打つ。確かにどこかで聞いたことあるな、なんだろうな!
「あと最近こっそり始めたのが御三家をモデルにした二人の薄い本です、よろしくお願いします」
「ちょっと待て!」
そんなふーちゃんの自己紹介を淡々と聞いていた二人が飛び上がった。が、ふーちゃんは無視。それどころか「えいっ」とスクリーン画面に向かって手を振り──どでかいスクリーンにとんでもないものを映し出す。観客女子からは悲鳴が上がった。
「漫研で売ってまーす。いま完売してるので、欲しい方は暫くお待ちください」
「いやいや待て待て」
「なんで俺達が表紙なんだよ!」
そして私の隣からは悲痛な叫び。月影くんは目を逸らし、私は唖然として開いた口がふさがらない。まさに筆舌に尽くし難いとはこのこと、そんなイラストがスクリーンに映し出されている。あんなものが学校の講堂に映し出されていいのか!
だが製作者のふーちゃんはどこ吹く風だ。
「はぁん? 何のことでしょう? モデルは御三家ですけどあくまで別人です、彼らの名前は桐椰遼太くんと松隆総二くんです」
「清々しいほどに俺達じゃねーか!!」
「これからも新刊を書いていく予定なのでよろしくお願いします」
「よろしくじゃねーよ今すぐやめろ」
「というわけで第五位は私でした!」
「あの女……!」
松隆くんと桐椰くんを終始無視したふーちゃんは無理矢理締めくくる。松隆くんと桐椰くんの肩が怒りで震えていた。そうだよね、今まで受けたことないタイプの屈辱だよね。
「では、残るキャラもあと四人、亜季と松隆くんと月影くんと桐椰くん! 誰が一位に輝くか、気になるところですね。まず第四位と第三位から発表しましょう」
もったいぶるように一位と二位を遺し、ふーちゃんは壇上の役員に指示をする。鹿島くんと彼方の座る椅子の後ろに、段とソファが運ばれてきた。ソファは三人掛けで、左側にはクッションが置いてある。なるほど、三位はクッションがもらえるというわけですね。
to be continued...