「では発表します、第四位、十三票獲得! 言わずと知れた煽りの強いヒロイン、桜坂亜季」
「あ、ここで私!」
それこそ煽りの強い説明だったけれど気にせず立ち上がると、ふーちゃんは「そして第四位は僅差、十五票獲得」と続けた発表に入る。
「登場当初は『なんだか苦手』とのご意見もありつつ最近はすっかりストーカーまでできてしまうほどの謎の人気を誇るクールな眼鏡キャラ、月影駿哉さん」
……もう“ストーカー”の単語が聞こえた瞬間に分かっていた。月影くんは忌々し気な表情で立ち上がって私に続き壇上に登る。向かって右が私、向かって左が月影くんの席だ。月影くんはアイボリーのクッションを脇に抱えるようにして座る。その顔はすごぶる不機嫌だ。
「えー、ではまずは亜季からいきましょうかね! 御三家に囲われるお姫様かと思えばその内実は下僕。今でこそなんちゃって下僕ですが──」
「待ってください、なんちゃって下僕どころか今は完全に友達です!」
「──当初はリアル下僕。有無を言わさず生徒会室への侵入を命じられるわ、呼び出されるわ、挙句文化祭では嫌々桐椰くんの彼女役をやらされる始末」
「ちょっと待て、俺の彼女に嫌々なったって言い方やめろ!」
そして司会のふーちゃん、私の言葉をスルーしたどころか、出力二倍で煽ってきた。私と同時に桐椰くんまで煽るとは、実は私よりも煽り強いのでは、なんて思わせる。想定通りに桐椰くんの怒鳴り声を聞いたふーちゃんは満足げだ。
「大体あの頃嫌々彼氏役をやらされたのは俺のほう……」
「ほうほう、“あの頃”! まるで今は違うとでも言いたげですねー、その点いかがですか?」
「ッせーよ!! 大体お前生徒会役員だろ! なんでさも仲間みたいな顔して御三家シリーズの番外編で司会やってやがる!」
「今更のご指摘ですね。よっぽど都合の悪いことを言われたのでしょうか?」
「あのクソ女ぶん殴る……!」
……さすがの私もあそこまでの煽りはできない。桐椰くんの耳だって怒りか何かで真っ赤だ。私の煽りはせいぜい桐椰くんのノリありきの煽りだから、ふーちゃんみたいに全力で苛立ちを掻き立てることはできない。肩を震わせ拳を握りしめる桐椰くんを松隆くんは呆れた目で見つめている。
「当時は誰も亜季と組みたくないということで誰がペアになるかは揉めたらしいですねぇ。因みに松隆くん、今だったら率先してペアになるのでしょうか?」
「どういう意図の質問かな、それは」
が、続けて松隆くんのこめかみにも青筋が浮かんだ。 ふーちゃんは「おやおや?」と楽しそうにわざとらしく首を傾げる。
「当時はただの下僕だった桜坂さんが友達になったことでそう嫌々彼氏をすることもないと思ったのですが? 意図をお尋ねするということは何か心境に変化でも?」
「遼を散々に煽ってたから俺のことも煽りたいのかと思って他意があるのか聞いただけだよ」
「チッ、松隆くんは中々尻尾を出しませんねぇ」
舌打ちした……。松隆くんも笑顔でこそあるものの確実に苛立ってるし……ふーちゃんが強過ぎる。あの松隆くんが怖くないのかな。
「というわけで第四位は亜季でしたー」
「あ、私の紹介これだけ、っていうか煽りネタにされただけ!」
「第三位は月影くんです。紹介するまでもなくファンが悉くストーカーです。以上です」
「月影くん短くない?」
「あんまり喋るとストーカーが湧くかと思ったのですが、仕方ないですねぇ、コメントは折角ですから紹介しましょうか」
五位以下は散々マシュマロを引用したりコメントを引用したりしてくれていたのに、どうも上位に限って扱いが粗雑だ。月影くんはそれで満足なのか、特にツッコミも入れなかったけれど、私の発言のせいで自分の番が長引いて恨みがまし気な目を向けられた。や、だって月影くんのファンに悪いもんね!
「では紹介します、『好きです。』との端的なコメントに始まり『月影くん!!!誰よりも圧倒的に好きです!!!!らぶです!!!月影くん結婚して!!!!!いや養わせて!!!!!!』『わんわんと松隆くんのお兄様が羨ましくて仕方ないです。小さい月影くんの無邪気な顔を拝め、可愛がることができたなんて!!月影くんのお姉ちゃんに、とまでは望まないから月影くんの兄弟になりたかったです。』『ツッキーすきよ!!アイラブユーー!!!』」
あ、やっぱりストーカーだ……。遠い目をしているとふーちゃんは「なぜストーカーが生成されてしまうのでしょうね? 塩対応をされると余計に燃え上がるのが人の性というものなのでしょうか?」とわざとらしく首を傾げる。
「投票コメントはこれだけですが、マシュマロでは唐突に『つきもーん』と呼ばれたり、アップルパイを口実に住所を知ろうとしたり、洋服選びを口実に家に押しかけようとしたり、いつの間にかデートの約束を取り付けられていたりとやはりストーカー気質の方が多いです。中には学校への提出物に“月影”と書いた人も」
筋金入りだ。会場全員の顔が引きつった。さすが月影粘着派。しかもいつぞやのマシュマロで指摘されていた通り、月影くんが反応してもしなくてもファンは喜び庭駆け回る一方なので泥沼だ。底なし沼だ。月影くんは「はぁ……」と深い溜息を吐く。気のせいかもしれないけれど、観客席からは「ツッキーの溜息いぃぃ!」と謎の歓声が聞こえた。
「というわけでストーカー歓喜の月影くんでした。ではではみなさんお待ちかね、第二位と第一位の発表です! 残されているのは学校でも随一の人気を誇る桐椰くんと松隆くん。因みに校内での抱かれたい男ランキング一位は桐椰くんです」
「ちょっと待てなんのアンケートだそれは!」
愕然とした桐椰くんの隣で松隆くんが鼻で笑う。
「お前がコツコツ頑張ってるイメージの積み上げは上手くいってることがよくわかる」
「お前それどういう意味で言ってんだ……」
「そのままの意味だよ」
「一方で松隆くんといえば熱狂的なファンがファンクラブを形成するほどの人気っぷり、中には様付けで呼ぶ人もいるほど、女子にとっては王子様的存在です」
「王子様なのは顔だけだよ」
桐椰くんがお返しとばかりに毒づいた。私の前に座っているよしりんさんは「ふーん、あの総ちゃんと遼ちゃんがねぇ」と首を捻る。
「遼ちゃんは肉食に見せかけた草食だし、総ちゃんだって顔は王子だけど、性格は別にそんなでしょ? やっぱりドS系が好きなのかしら」
「遼はともかくとして、総くんは学校だとドS系ってバレてないんだろ?」
「バレるバレない以前に、総くんはどう見てもドSじゃん。俺のことでさえいじめるんだよ。つか総くんが優しいとかなんか企んでそうで怖い」
彼方と遥の評価が松隆くんの身内への態度を物語る。そうか、松隆くんはあのチビ桐椰くんのことでさえ虐めるんだな……。でも、桐椰くんでさえ揶揄ったら楽しいんだから、小さい頃の桐椰くんを彷彿させるであろう遥くんをいじめたくなってしまうのは分からなくもない。
鹿島くんは「まぁ松隆が上位なのは分かってたけどね」とあまり興味なさそうに頬杖をつく。
「正直、松隆が生徒会選挙に出なかったのもありがたかったしね。さすがに松隆の人気には敵わないだろうから」
「だからお前の喋り方が俺と被るからやめろって言ってる」
「俺は松隆みたいに口調が崩れることはないから安心しろよ」
バチバチと壇上と観客席とで火花が散る。確かに松隆くんと鹿島くんの喋り方はちょっと被るんだよね。ふーちゃんも「一緒に出てくると書き分け大変なんですからね、やめてほしいのはこっちのほうです」とよく分からないことを言っている。
「というわけで、お待たせしました、第二位、第三位とは九票の差をつけ二十四票獲得」
バンッ、とスポットライトが当たったのは──桐椰くんだった。
「御三家のママ、桐椰くんです!」
「ママって言うんじゃねーよ!!」
「というわけで桐椰くんには亜季と月影くんの間に座ってどうぞ、二位特典として柴犬のクッションを抱えることが許されます」
「許されるつーかこれ揶揄ってんだよな! どう考えても罰ゲームだよな!!」
イライラしながら壇上に上がった桐椰くんは本当に柴犬のぬいぐるみクッションを渡されていた。いつもは煽る側だから何も思わなかったけれど、はたからみると桐椰くんを煽ってる姿はこう見えるんだな……。
「そんな桐椰くんへは非常に温かい愛のコメントが多いです。『ほんとに遼くん大好きです!』『言葉に気持ちが上手く表せられないのが悲しいけどとりあえず好きです』『とにかく彼は可愛い性格の持ち主の方でもう本当に可愛い……こんな弟がいたら揶揄い甲斐のある刺激的な生活ができそうだと日々思っております。以上です』『とにかく可愛い、好き、ゲスくないところが最高に可愛いずっと推してます。。。』と。マシュマロでも桐椰くん派は桐椰穏健派と呼ばれるほど、イメージはお花畑で穏やかに微笑んでいるお嬢様方」
「あー、わかるわかるー」
うんうん、と頷く私の隣で桐椰くんは「なんでそういう可愛いとかなんとかいうコメントばっか……」と顔を赤らめながらぶつくさ文句を言っている。が、手の中にいる柴犬ぬいぐるみの触り心地がいいのか、段々と機嫌がよくなっている。それどころかぬいぐるみをもふもふと堪能し始めた。心なしか横顔も満足げ!
「はい、見ての通り桐椰くんは見た目に反して可愛らしいんですね。『わんわんすき!!!』とのコメントもある通り、わんわんです」
「だから犬じゃねーって言ってんだろ!!」
「非常に女子力も高く、『好きです。来世は彼の妹になってデレデレに甘やかされるか、もしくはツンデレになって兄である遼を振り回したいです。』と妹志望の方もいます。因みに『クールで時々可愛くてとっても優しい御三家の良心。好きです!』と言われる通り、不愛想な月影くんと俺様な松隆くんの間にいる良識人です」
それも否めない。わかるー、とうんうん再び頷いた。
「そしてなんとびっくり、最近茶髪になった桐椰くんは中学生の頃から金髪を貫きいかにもやんちゃして遊んでますの体でありながらピュアボーイ」
「おい!!」
そして再びそれに関する桐椰くんいじりが始まる……。桐椰くんが立ち上がって抗議するも、ふーちゃんは「えー、だって桐椰くんピュアですよねー? ゲスくないですもんねー? 松隆くんのえげつない下ネタを亜季の前では言わないよう止めてあげてるの桐椰くんなんですよねー?」なんて“ピュア”という多義的な言葉を上手く利用しようとしてくる。本当にちょろいな桐椰くん。その手は柴犬ぬいぐるみを離さないし。
「それに何も悪くなくないですか? 『素敵じゃないですかピュアボーイ』と言ってもらってますよ?」
「……そういう問題じゃねーよ」
がっくりと項垂れて桐椰くんは再び座る。その手が悲しそうにもちもちと柴犬ぬいぐるみを触っていた。
「というわけでー、お待たせしました! 分かりきってる第一位、なんと三十一票獲得、持っているものは家柄、金、そして才能、顔面偏差値も文句なし、努力せずとも持てるもの全てを使って暴力を振るうことが簡単にできてしまう、松隆総二郎さんです!」
「なんか妙な紹介だったけど、触れないことにするよ」
鹿島くんのときとは比べものにならない歓声。松隆くんが立ち上がるだけで「松隆さまー!」「愛してます松隆様!!」とアイドルもびっくりな黄色い声。ただし松隆くんは涼しい顔をして壇上へ、そして運ばれてきた仰々しい玉座に着席。
「……なんか二位以下と扱いが違いすぎません?」
「一位ですから」
下位の私達を見下ろし、にこやかに答える松隆くん──否、松隆様。ふーちゃんが「一位の松隆くんには王冠が送られまーす」と口にすれば、ガラガラという音と共に、何やら銀色に輝く台が押されてきて、その上に載っている王冠が松隆くんの頭に乗せられた。深紅を基調にした金色の枠と宝石みたいな装飾……。スポンサーが花高なのであの王冠はもしかしたら本物なのかもしれない。
そして松隆くん、王冠が、似合う……。
「ではそんな松隆くんへ寄せられたコメントを紹介します。『松隆くんは安定の推しです…』『好きです。』『すてき*』『愛しかない』『もうぜんぶが好きです』『好き』との端的なコメントから『一言で言うと「しんどい」です。』『信者レベルで好き!!!大好き!!愛してます!!』と、ご覧の通り熱烈なコメント……」
「松隆のファン怖ッ」
「一票は黙っててくれないかな」
「なんであれがモテんの!? なぁ!?」
雅のコメントを一蹴する松隆くん、確かになぜあれがモテるのか。でも観客席にいる松隆くんのファンは「ああいうクールなところも素敵」とばかりにうっとり松隆くんを見つめている。確かに松隆くんのファンは怖い。雅は座椅子の上で頭を抱えているけれど、確かに雅って取り巻きが多いだけでモテはしないって嘆いてたもんね。なぜか二番目の男にされるって言ってたもんね。
「そんな松隆くんは自他共に認める変態なわけですが」
「俺は認めてません」
「犬は飼い主に似るというヤツでしょうか、松隆くんのファンも中々に変態が多いです」
今回もふーちゃんは華麗にスルー。ふーちゃんのスルースキル、見習っていきたい。
「桐椰くんが激しくお怒りだったマシュマロがこちら『(略)松くんいますぐ行きましょ。今更童t……なんかに遠慮しなくていいんですよ!世の中経験ですから!顔と金と経験ある松隆くん最強!いぇい!!今すぐ亜季を部屋に閉じ込めるんだ!そして押し倒せ!!!!!!』と」
「出たよ暴言マシュマロ!!」
「なんだそのマシュマロ!!」
あれおかしいな、当事者なはずなのに私そのマシュマロ知らないな……。検閲でも入ってたのかな……。そっと目を逸らす私の隣と前で桐椰くんと雅が憤慨している。
「まぁ松隆くん絶対上手そうですもんね、分かります」
「昼間からなんつーこと言ってやがるあの女!!」
「花高ってこういう節操ない場なの?」
「ちげーよ!」
あぁ、なんだか遥くんに悪影響を与えてしまうような気が……と思ったけど男三人兄弟で今更悪影響も何もないか。いやでも桐椰くんがお兄ちゃんにいると悪影響を与えないようにちゃんと教育上配慮されているような……でも桐椰くんだって男の子だし……ううん……。
「そんなマシュマロの過激さに比例して松隆くん自身の発言も過激さが増している今日この頃です。さすがに悪ふざけが過ぎたのか『わたしはやっぱりいつでも松隆くん派ですよ!!!!!マシュマロを除き気味でいくと!!!!!』と反って評価が下がってしまったかのようなコメントも」
「当たり前だろ、やりすぎだ」
「人気投票はこのような過激なマシュマロが増える前の出来事でしたからね、『松隆くんの太腿を見たいです(・∀・)』『愛してる。何もかもを手にしているようでそれでも一番以外は意味はないと思考と、根本的な問題で勝つことができないと桐椰間に対する劣等感とか、そういう全ての松隆君を含めて好き。きっと欲しいものを大きな声では言わないであろう松隆くんがあれだけ言ってるんだからはやく亜季とくっついてほしい。』とのコメントももしかしたら今ではもうないのかもしれません」
「いやいや待て待て後半の重い愛のコメントは何だ」
なんでもないように紹介された後半のコメント、確かに桐椰くんのツッコミ通り、重い。松隆くんを理解した上でなお愛してあげるコメント、完全に本物の彼女。ドラマチックに恋に落ちていてもおかしくない。それなのに最後のコメントは私とくっついてほしい、だと……。
動揺する私や桐椰くん、雅とは裏腹に、ふーちゃんは淡々と続ける。
「亜季とくっついてほしいとのコメントは多々見かけますねぇ、投票コメントでも『亜季ちゃんと結ばれますように。』と言われていました。で、そこのところどうなんですか?」
「どうって何?」
玉座に座り、頬杖をつき足を組んで悠々と座る松隆くんの笑みが怖い。弱味を握られまいとしているのか、ふーちゃんの煽りには一切反応しないスタンスのようだ。ふーちゃんは残念そうに眉を八の字にして、「いえ、最近の御三家のご様子をお尋ねしたかっただけでした」と無理矢理その話題を締める。
「さて、こんな俺様何様松隆様な松隆くんにも弱点はあります」
「なにそのキャッチコピー」
「じゃじゃーん、お兄様です!」
クールに返事をしていた松隆くんがガタガタッと背後で慌てふためく気配がした。振り向けば、スクリーンを振り向いた松隆くんと、スクリーンに上半身だけ映った男の人がいる。アッシュグレーの髪はふわふわ跳ねていて、優しい奥二重の瞳は茶色い。弧を描いた唇は穏やかな笑みを湛えるようで、うっとりするような優しさに溢れていた。一体誰だろう……と見つめていて、そのイケメンさを引き立たせる程度に気持ち鉤鼻だと気付く。
もしかして、と私が口を開くよりも、私の背後で別の人が口を開くほうが早かった。
「栄一じゃん。何やってんの?」
やっぱり、松隆くんのお兄さんの栄一郎さん……! 彼方の声に反応した松隆くんのお兄さんは「あー、彼方じゃん、久しぶり。なんか呼ばれたんだよね」と飄々と答える。桐椰くんと月影くんも知り合いなんだろう、桐椰くんがスクリーンに向かって小さく手を振りながら「やっほー」なんて言っている。
ただ一人狼狽えているのは、松隆くんだ。
「な、なんで兄貴が……」
「マシュマロでも度々お呼び出しされていますが、紹介しましょう、松隆くんが唯一たじたじになってしまうお相手、お兄様の松隆栄一郎さんです」
「イェーイ」
イェーイ? ピースで映るお兄さんに我が目を疑った。本当に松隆くんのお兄さん? いつも飄々としている松隆くんからは想像もできないノリの良いお兄さんに驚いているのは私と雅と、ついでに鹿島くん達だけだ。桐椰くんと月影くんと彼方と遥くんは無反応。あの兄からどうやってあの弟が……?
「では折角ですからお兄様、自己紹介をどうぞ」
「えー、ただいま大学二年生でアメリカに留学中でーす。大学受験に失敗して私立に進学することが決まって以来非常に痛い母親の目から逃れて気ままな一人暮らしをしてたわけですが、それさえ逃れてアメリカで楽しくやってます」
星マークでもついてきそうな軽薄な口調とは裏腹に内容が……。松隆家において重視されるものが何かを物語っている。しかも私の記憶が正しければ松隆くんのお兄さんはナンバーワン私立に通ってるはず……。それでも許されないんだな、松隆家……。
「趣味旅行だからフラフラしてたらどこかにいるかも。愛想のいい弟を連れてたら多分俺」
「愛想のいい弟……?」
「首を傾げないで、桜坂」
「あ、ミス、恥ずかしくて本性を見せられないせいで他人には愛想よく振舞ってしまう弟」
「だからそういうこと言わないでいいんだよ!」
あ、松隆くんのお兄さんだ……。あの松隆くんを手玉に取っている……。狼狽しきった松隆くんは既に王冠を被る余裕もない。
「ではでは、そんなお兄様に寄せられているマシュマロも折角なので紹介しましょう。『総くん兄に、総くんの甘えん坊姿を語ってほしいですねぇ』」
「やめろ!」
「それに対するお兄さんの生答えがこちら」
「小学校のお泊り会の話したんだっけ? あの頃の総くん、俺にべったりでさぁ、一晩留守にするって言っただけですげー嫌がってついてくるって聞かなかったんだよね」
「だからやめ……」
「でも小学校のお泊り会じゃん、連れていけるわけないじゃん。ダメだって弓親さんに諫められてるうちに泣き出して、慰めるのが大変だったなぁ」
「…………」
真っ赤になった松隆くんが玉座に手をかけて打ちひしがれている。あんなに哀れな松隆くんの背中は初めて見るし、今後見ることもできないだろう。因みにそんな松隆くんを見る大体の人はニヤニヤと満足気だ。観客席からは「松隆様が可愛い……」とやはりうっとりとした声。愛は盲目ってやつだ。
「因みにどうやって泣き止んだんですか?」
「え、知らない。最後は面倒くさくなって泣き止む前に家出たし」
そしてここが彼方との違いか……。サラリと冷たく言い放ったお兄さんに松隆くんが特段ショックを受けることもないということは、冷たく突き放されるのも日常茶飯事なんだろう。
「ではお兄さん、最後にキャラ投票一位の弟さんへのコメントをどうぞ!」
「一番になれてよかったねー。またアメリカおいでね」
「……行く」
……いい具合に飴と鞭を使いこなされている。
「というわけで、アメリカからお送りしました!」
「……薄野許さねぇ」
玉座に座りなおす松隆くんの口から、ボソッと不穏な呟きが聞こえた。怖い怖い。
「以上、めでたく一位を獲得した松隆くんでした」
でもやはりふーちゃんはスルー。今回分かったのはふーちゃんが大物だということだけだ。
そしてどこからともなく楽し気なクラシックが流れ始める。なんだなんだときょろきょろしていると、隣の隣の月影くんが「ドビュッシーだな。確かゴリウォーグのケークウォークだ」と呪文のような曲名を唱えた。私と桐椰くんが顔で“?”と作ると呆れた顔で「子供の領分くらい知っているだろう?」と言われた。知りません、すみません。
「はい、というわけで第一回キャラ投票でした! いやー楽しかったですね、読者のみなさんは本編では見ることのできない推しを見ることができたのではないでしょうか!」
「楽しんでたのはお前だけだよいい迷惑だ」
「たくさんの投票とコメントをありがとうございました! 年に一回の開催予定のキャラ人気投票ですが、そんなに長く連載も続かないでしょうし、気が向いたら今年中に第二回を開催しますね」
「ちょいちょいとんでもないこと言ってるよな、アイツ」
「ではでは、ご清聴ならぬご清読ありがとうございました! またお会いしましょー!」
END