「……遼、お前何言ってんの」

「え、待て、いや、待て、俺何言ってんだ、え、何」

「桜坂が可愛いのは分かるけど、お前そういうキャラじゃなくない?」

「ちょっと松隆くん!?」


 なんで突然私の口説き大会が!? 狼狽えて思わず立ち上がってしまった私と、両脇の二人を、月影くんがいつものげんなりとした顔で見つめてくる。


「お前たち……ついに気が触れてしまったのか……?」

「私もそう思う!」


 あれ? 今私は「そんなこと言うなんてひどいよツッキー!」と口にするつもりだったのに……。あれ……?


 桐椰くんは顔を真っ赤にして口を手で覆っている。松隆くんは「ん?」と少し不可解そうに首を傾げている。そうだよね、松隆くんはそんなことで照れたりしないよね!


 そしてふーちゃんは愉しそうににやにや……。黒幕はアイツか!


「ちょっとふーちゃん! 私達に何したの!」

「えー、やだなー、何もしてないよーう」

「白々しすぎて笑うんだけど。薄野が女じゃなかったら殴ってでも腕折ってでも吐かせるんだけどな」

「待って、松隆くんの今のなにそれ本音!? 外見キラキラ王子様のくせに中身とんでもない破落戸ごろつきなんだけど何!? 女の子に配慮するのだけ紳士なのも何!?」


 あ、また思ったこと素直に言っちゃった。


「……薄野、お前、紅茶に何か混ぜたんじゃねーだろうな……」


 ギリギリと拳を握りしめた桐椰くんが、絞り出すような声で訊ねた。なぜケーキの可能性を疑わないのか、と思ったら、ケーキは私達がどれを選ぶか分からなかったからだ。一方で紅茶は、ふーちゃんだけ別のポットから淹れた。そういうことか!


「え、やだなぁ、変なものは混ぜてないよ?」

「真実薬からは到底程遠いものと思慮するが、おそらく暫くは心中を包み隠しながら会話をすることはできなくなったのだろうな、諦めろ」

「なんでお前が答えてんだよ! まさかお前か淹れたの!」


 なぜかふーちゃんじゃなくて月影くんが答えるし、月影くんはさらりといつも通りに淡々と喋るし、桐椰くんじゃなくてもそのツッコミは入れていた。でもやはり月影くんの顔は冷ややかだ。


「莫迦か? だったらなぜ思慮するなど言うんだ。この状況から客観的に判断しただけだろう。桜坂を口説き損ねて頭に血が上っているとしても少しは冷静になれ」

「口説いたんじゃねーよ思ってることが口に出ただけだろ! …………」


 桐椰くん、撃沈。慌てて口を閉じて、ゆっくりと椅子に座る。そのまま膝の上で拳を握りしめて黙った。耳まで真っ赤だ。ここまで隣で照れられると、張本人の私が全く照れることができない、それどころか心配にしかならない。


 うんうん、とふーちゃんはやはり愉しそうに頷く。


「いいねいいねー、その調子! あのね、効果はそんなに続かないと思うから、今のうちにたくさん喋ってね!」

「この状況で喋ると思う? 感情に任せて口開くのは遼だけだよ。幸いにも、口を開かなければ思ったことが口に出るわけじゃないみたいだし」


 あれ、松隆くんは通常運転に近いな……。さっき私のことが云々と言ったこと以外、特に変化がない……。もしかしてまだ紅茶を飲んでないのかな、とじっと松隆くんを見つめると、にっこり笑われた。


「普段から言ってることと思ってることが同じなだけだよ」

「え、嘘じゃん、松隆くん絶対思ってること口に出さないで適当に相手が喜ぶ言葉とか言って適当に流してるでしょ」


 あ、また本当のこと言っちゃった。


「そうだね、そういう相手が多いけど、桜坂に可愛いって言ってるときはちゃんと本気で言ってるんだけどなぁ」

「ちょっとやめてくださいよそういうこというの!!」


 それどころか嘘を吐けない──本音しか言えない状況を逆手に取るときた! 思わずバンッと机を叩いてまで制止した私を、松隆くんまでにやにや愉しそうに見ている。この腹黒王子!


「やっぱり松隆くん怖すぎだよ! 何考えてるか分からないその王子様な顔本当に怖い!」

「あ、本当に怖がってたんだ? てっきりネタだと思ってたんだけど。大丈夫だよ、怖がってる桜坂見るのも俺の趣味だから」

「やだこのドS王子! いつかふーちゃんが二次元でしかドS王子はウケないって言ってたけど本当にそうなんだからね!」

「本音って分かってるぶんそういうのやめてくれる? これでも本命にモテない遺伝子とか言われたの気にしてるんだけど。好きな子に好かれないと意味ないのに寄って来る女に限って好みじゃないし、遊びたいときは丁度いいかもしれないけど。…………」


 あ、松隆くん、後半にかけて口を閉じるタイミングをミスったな。突然口を閉じたし、何より“遊びたいときは丁度いい”なんて口が裂けてもこの場で言うはずがない。


「……これみんながみんな自分の知られたくない中身の暴露することになるだけじゃない? やめない? 私も知られたくないこと多いし……」


 しまった、知られたくないことを口にするところだった。慌てて口を閉じると、ふーちゃんが可愛らしく人差し指を口元にあてて、「んー……」と悩む素振りをみせた。


「でもー、薬が効いてくるのはこれからだし……」

「十分効いてるんですけど?」

「だって、今は口を閉じたら本音聞けなくなっちゃうでしょー? 効き目がピークになったら、ちゃんと口を閉じてても喋っちゃうから安心してね!」


 なん……だと……。隣の二人が愕然としたのが気配で分かった。