揺れるスカートの向こう側

卒業式が終わってしばらく経った。4月から私は女子大生になる。高校とは違って毎日私服だし、化粧を多少濃くしたって咎める人はいない。校則なんてものはないのだから。卒業式の次の日、私は思い切って耳に穴を開けた。その次の日髪を染めて、そのまま友人たちと服を買いに行った。大学生になるってお金かかるなぁ。そう思ったのでアルバイトも決めた。駅近くのファミレスで来週が初出勤になる予定だ。

高校生活は全てバレーボールに捧げた。あのチームが大好きだった。中学の時はプレイヤーとしてコートに立っていたけれど、中学三年生で怪我をしてしまい、プレイヤーを続けるのは諦めた。それでも大好きなバレーに関わりたい、そう思ってマネージャーとして入部を決めた。同輩にも先輩にも後輩にも恵まれたと思う。小さないざこざは当然あったけれど、全員で乗り越えた。いいチームだった。胸を張って言える。

自室で卒業アルバムをパラパラと捲りながら感傷に浸っていると、ベッドに置いてあった携帯が鳴った。メッセージの送り主は同じバレー部で三年間を共に過ごしたチームメイトだった。

「明日暇?」
「暇」
「みんなで高校に顔出すんだけど来る?」
「いく」
「1時に駅集合」
「了解!」

短いメッセージのやり取り。三年間も一緒にいると淡泊なやり取りになるな、なんて思っていると、「新しい友だち」の欄に後輩の赤葦が追加されていることに気が付いた。そういえば卒業式の日に連絡先の交換をした気がする。特にメッセージのやり取りはしていないし、卒業してしまった以上、これから先もやり取りをする機会は少ない気がするけれど、連絡先を聞かれたあの瞬間は後輩に慕われているのだと思えて嬉しかった。赤葦ってあまり人に懐いたりしないんだろうな、と思っていたのに。

「明日顔出すね」

気付けば新しい友だちにそんなメッセージを送っていた。
春休みに行くって宣言しちゃったし、一応ね。電源ボタンを押して携帯を手放すが、すぐにピカっと画面が明るくなってメッセージの受信を知らせた。

「待ってます」

返事はそれだけ。たったの五文字だけど、彼らしくて少し笑えた。

赤葦という一年生は一年生らしくない男だった。セッターをやっていました、と自己紹介で話していた時、木兎が嬉しそうな顔していたのを私は覚えている。彼の最初の印象は、落ち着いているクールな奴。しばらくして、会話の節々から頭のいい奴だということも分かった。そして、実は熱い部分を持っているということも。多分そうなった原因は木兎だったのだろうけど。「ちょっと練習付き合ってくれない?」これは悪魔の囁き。木兎の「ちょっと」は普通の人の「ちょっと」の感覚ではないのだ。どこまで木兎に付き合うのかな、そんな興味本位で少し離れたところから二人を見ていた。見事、赤葦は最後まで付き合ったのだ。来年は強くなる。そう思えたのと同時に、赤葦という一年生の今後がとても楽しみなった。

「赤葦はもうちょっとパワーをつけた方がいいよ」

夏合宿中に私が何気なくいったこの一言、彼は覚えているだろうか。
去年まで中学生だったのだからパワーがなくて当たり前だという人もいるかもしれないけれど、全国に行くチームの未来のセッターだ。いつまでも「去年まで中学生だった」男の子では困る。この時の彼の反応はうろ覚えだけれど、きっと彼なりに努力をして少しずつパワーをつけたのだと思う。その証拠に卒業式の日目の前にいた赤葦は去年よりもずっと逞しい体つきだった。

「よし、明日何着て行こうかな」

夜10時。クローゼットを開けて明日の洋服を選ぶためのファッションショーを開始した。



(揺れるスカートの向こう側)


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