「先生〜!こっちこっち!」
艇から降りたナマエに真っ先に気付いたのはヴェインだった。暑さに負けず変わらず声を張り上げ手を振る弟子に安堵の溜息をつくと、ヴェインの声掛けに気付いたランスロットとルリアがヴェインに続きこちらに手を振っているのを確認する。艇の搭乗口付近に移動する一行を捉えながら地上に足を降ろすと、合流を喜ぶ弟子や団長達に迎えられた。
「おう!元気そうだな!」
「ナマエさん!お久しぶりです!」
「久しぶりねルリア。貴方達も暑さに負けず元気だこと」
無邪気に笑うルリアの頭をひと撫ですると、ルリアはその優しい手つきに目を細めた。弟子達に目を向けると、まるで長い間会わなかったかのような眼差しを返されてしまい額に手を当てた。
「そんなしばらくぶりかのように見ないでちょうだい」
「えー!だって先生と会える事自体最近少なかったから噛み締めさせてくれよぉ!」
「ナマエさん、最近ジークフリートさんとずっとご一緒してましたしね」
「ランスロット。にやけたその顔をやめなさい。」
悪戯っぽく笑うところは昔から変わらない。ランスロットのちょっとした揶揄いには慣れたが、師の恋愛沙汰を時折ニヤリとしながらつつく事に楽しさを見出さないで貰いたいものだ。そう団らんとした会話をしていたが、そういえば、あの二人の姿が見えない。
「そういえばジークフリートさんとパーシヴァルの姿がさっきから見えないんだけどなーにやってんのあの二人」
「パーシヴァルが後から合流するって言ってたジークフリートが中々来ないからって探しに行ったはずだけど・・・」
「また一人にしたのね。分かってたはずでしょうに」
「えっと、あはは・・・」
ランスロットとグランが苦笑いを漏らす後ろで聞き覚えのある声が聞こえてそちらに視線を移すと、タイミングよく噂の二人がこちらに歩いてくるのが見えた。相変わらずのびやかで澄ました顔をしたジークフリートと小言を並べながら溜息をつくパーシヴァルにやれやれと呆れた顔をすると、それを見たグランとルリアは顔を見合わせてくすりと笑った。
「ジークフリートさんなーにやってたの、先生もう来ちゃってるぜ」
「すぐ一人にするとこうだ、全く・・・俺は言った筈だが?」
「すまんすまん、探し物をしていてな。ナマエ、そら」
ジークフリートが持っていた袋の中身が目の前に差し出されたと思うと、そこには瓶に入り透き通った薄茶色が氷の隙間から陽の光を招き入れていた。
「アイスティーだ。レモンでよかっだだろう?」
「あら、たまには気が利くのね」
「暑かっただろうと思ってな。それでも飲んで少しクールダウンをしたらどうだ」
「ふふ、そうね。有り難くいただこうかしら」
「そら、お前達の分もあるぞ」
その言葉にその場にいたパーシヴァルを除いた面々の顔が一気に華やいだ。それぞれの好みを考慮され配られた冷たい飲み物に頬を緩ませる様子にジークフリートも満足気な表情を見せた。
「あら、ベリー系の飲み物はどうしたのかしら?」
「おい」
いつの間にか隣に立っていたパーシヴァルを揶揄う。その手に何も握られていないのならきっとあの袋の中に隠しているのだろう。それと同時にルリアが何かに気付いたようにその袋の中を覗き込めば、「それ」に目が行くのは必然の事で。
「あっ!これはいちごですか?もしかしてもしかして、パーシヴァルさんの分ですか?」
「おいルリア」
「何だパーシヴァル、今さらこの面々の前で何を隠す必要がある」
「ジークフリート・・・・・・!」
「え〜?俺見た時すぐに分かったぜ、これはぜってーパーさんの分だって」
「駄犬貴様今話がある」
「ってうええ何で俺だけアタリキツいのお?!」
和やかな空気に久々の集結も偶には悪くない。もしも誘いを断っていたらきっとこの平穏を噛み締める事は出来なかっただろう。仕事が終われば直ぐにでも帰国してやろうかと一時は思っていたが、何もかも忘れて彼らと休暇を楽しもうと今は純粋に思えるのであった。