パーシヴァルからこの仕事が終わればジークフリートに早々と引き渡すとは言われていたが、何故か仕事が終わってから未だにジークフリートの姿を見ない。そろそろグラン達がこちらに来る、としか言わない弟子達の言葉に渋々と従って待っていると、ルリアとビィがこちらの姿を確認すると駆け足で走り寄ってきた。
「ナマエさん!パーシヴァルさん!ランスロットさん!ヴェインさん!お待たせしました!」
「あれ?グランは?」
「それがよう」
ビィがひらりとヴェインの耳元に近付き耳打ちをした。耳にした内容に感嘆の声を大きく上げてしまいビィに窘められており、やり取りされている内容の見当がつかずナマエは顔をしかめた。すぐにランスロットとパーシヴァルがその耳打ちに呼ばれたが両者とも苦悩どころかランスロットにおいてはその目が輝いてしまっている為、悲報ではないが碌でもない事である可能性しか考えられない。そんな目の前で堂々と繰り広げられる最早隠す事すら忘れ去られていそうな隠し事を眺めていると、ルリアが嬉しそうな顔を浮かべながらナマエの隣に立った。
「はあ・・・碌でもない事でも考えてるんじゃないでしょうね」
「ふふーん、それは秘密です!」
「・・・まあいいわ、何れ分かる事でしょう。それにしてもランスロットは隠す気があるのかしら」
「あっはは・・・と、とにかく!秘密なんです!あ、お話が終わったみたいですよ!」
ランスロットが急にいつもの顔に戻っているのに強烈な違和感を覚えたが、どうやら話を終えた4人がこちらに戻ってきたので大人しく知らぬふりをしてやった。ナマエの様子にビィは苦笑いしていたが。
そうしているとパーシヴァルが額に手を当て溜息をつきながら口を開いた。
「おいナマエ、ついて来い」
「何、どこに連れて行く気なの」
「まあまあ先生、行こうぜ〜!」
「わたしもご一緒します!」
問いに答えず先を歩き出したパーシヴァルに首を傾げながら、ランスロットとヴェインに背中を押されてしまえばもう大人しく歩くしかなかった。隣に並んだルリアが心を弾ませ鼻歌を歌っているのを見ると、碌でもないが悪い事でもない事は分かった。




「わぁ〜!このユカタヴィラ、とっても大人っぽくて綺麗ですね!」
黙って着いて行った先は異国の夏の衣装を扱う店だった。どうやらユカタヴィラ、というらしい。フェードラッヘやその周辺では見ない形状をしており、涼しげな気分になれるそうだ。そういえば団員の中にこのユカタヴィラと似た系統のものを着用している者がいたが、東国の出身のものばかりだったか。
ルリアが手にしたユカタヴィラは白地に紺で彩られた柄が控えめに主張しているものだった。派手なものを好まないナマエの事を考慮してはいるが、それが似合うものなのかをナマエが判断できるはずもなく上手く反応を返せない。そうしているとヴェインらも選定を終えたようだが、柄は多少違えど三人とも紺色の控えめなものを手にしていて、ナマエは思わず小さく噴き出してしまった。
「多少デザインは違うけどやっぱりそうなると思った」
「似すぎにも程があるが、ナマエに妥当なものといえば、な」
「だよな〜先生こういうの好きそうだもんな〜。な?先生」
「っふ、く、ふふふ、貴方達面白いにも程があるわ、そうね、よく解っているじゃない、合格よ」
全く、彼らから自分はよく見られているらしい。ジークフリートを着飾る時は毎度揉め合いになるというのに、自分の場合は昔からランスロットとパーシヴァルの意見が大きく分かれる事は殆どなかった、とふと思い出してはまた小さく笑みを零した。彼らよりやや付き合いの浅いヴェインまでもが自分の好みを見抜いてしまうあたりきっと好みが分かりやすいのだろうが。
「はわ・・・流石皆さんです!ナマエさんが気に入る柄はありますか?」
「そうね・・・じゃあ、」
これにしようかしら。
帯や髪型を決めるのにもそう時間もかからず喧嘩も起こらず、和やかに時間は過ぎて行く。張り詰めたような険しい顔は自然と崩れ、愛おしい時間を過ごす事を喜ばしく思うように、ナマエの眼差しは柔らかくなっていたのだった。




「そういえば貴方達は買わないのね」
「おう!暗くなるまで海で遊び倒してえもんな!なっランちゃん!」
「なっパーシヴァル!」
「ねっパーシヴァルさん!」
「おい俺を巻き込むな」
パーシヴァルの眉間に珍しく消えていた皺がまた刻まれているのをくすりと笑いながら、東方の夏の装束を纏うナマエは手を引かれただ身を任せて歩く。
この後に起こる胸躍る出来事など知らずに。