魔力を孕み続けるその鮮血に舌を押し当てる。熱を帯びたその紅は全てを暴かれ紅潮した肌のように熱く、男の舌先を灼かんと牙を剥いた。ああ、ちと火傷をしたか。そう漏らし全身を大きく脈打たせる力の奔流を取り込む。己の体内に焦がれた女を宿し、男はくつくつと灼けた喉を鳴らした。

ジークフリート/無題





これまで手駒だと一度たりとも感じた事がないという主張さえひらりと躱す彼女を、いつこの手で抱き寄せられるのだろうか。
「私の心に踏み込むなんて物好きね」
鋭利な刃を生み出す唇を今すぐ塞いでやりたいのに、今その口の端を彩る赤さえ拭ってやれない俺は臆病者なのかもしれない。
「私はいつ死んでもいいわ。でもどうせなら、貴方の為に死なせて」
俺は君に死んで欲しくないんだ、その言葉もまた彼女はひらりと躱す。
「それが私の幸せよ」
そんな苦しい幸せなど、幸せと言うものか。その言葉を吐き出せないもどかしさを、頬に伝う雨粒は洗い流してはくれなかった。

ランスロット/命を抛つ幸せについて