・ヘルエスが選びました

「お姉さま!先日は大変だったとお聞きしました。でもお姉さまがご無事で何よりです!」
「心配を掛けさせてしまいましたね。こうやって傷ひとつないのも皆のお陰です」
「私、お姉さまに傷がついてしまっていたら泣いていたかもしれません」
「武人として傷は避けられませんよ。そんな事では貴女の涙が枯れてしまいます。もっと強くありなさい」
「うう・・・お姉さまぁ」
「ふふ、可愛い妹だこと。ほら、セルエルと・・・スカーサハ様とノイシュはいないようですね。ほらナマエ、セルエルに披露してくるのでしょう?」
「うう・・・そう、そうですね、この水着、お姉さまが選んでくださったのですから文句は言わせませんよ!」
「さあ、それはどうでしょう。セルエル!ナマエを連れて来ましたよ」
「おや姉上、やっと戻られましたか。それにナマエさん・・・・・・も」
「何です、その間は」
「いいえ、別に?」
「セルエルさーん!お久しぶりです!見てくださいこの水着!とても上品でしょう?」
「はあ」
「お姉さまに選んで貰ったんです!お姉さまのセンスは素晴らしいですね、セルエルさん!」
「姉上のセンスはともかく、悪くはありませんが少し胴回りが心許ない気がします」
「セルエル」
「そうですか?お姉さまがたまにはこういったタイプもいいでしょうー、って。でも悪くないってことは喜んでもいいのですね!」
「全く貴女は・・・」
「ほらお姉さま!お姉さまのセンスは確かでしたよ!」
「はあ・・・まあ、貴女の事ですから不安はありません」
「へ?何がですか?」
「何でもありませんよ」
「?」
「全く素直じゃない子ですねセルエル。ちょっとこちらへいらっしゃい」
「・・・・・・はいはい分かりましたよ」



「ナマエの胴回りが露わなのが気になるのは分かります。ですがもっと素直になれないのですか」
「何時もと変わりなく感想を述べただけですが」
「それが誠に好いている者への感想だと言うのならどうかしていますね。それとも私がいるからですか?私がいるから言い辛いのですか?私が席を外せばいいのですね?」
「話が飛躍していますよ、姉上」
「で、本当の所はどうなんです」
「・・・・・・姉上」
「ほら」
「・・・・・・私がついていないと不安になりますね」
「つまりは不審な輩からあの子を守ってあげるという事ですね?」
「これだから姉上は・・・わざとでしょう」
「ええそうですね。で、貴方個人の感想はまだあるでしょう」
「はあ・・・・・・仕方ありませんね。ナマエさんが普段胴回りをあの様に見せないので驚きました」
「あの子のスタイルは素晴らしいですからね。せっかくなので貴方の目を惹けないかと思っていましたよ」
「嵌められた、という訳ですか。姉上、タチが悪いにも程があります」
「何とでもおっしゃい。貴方の気を引けたところでさあ行っておいでなさい。ちゃんと遊びつつ守ってあげるのですよ」
「はあ・・・・・・姉上は」
「これからイルザ殿と」
「そうですか」
「では」
「はいはい」
「あっお姉さま!どこかへ行かれるのですか?」
「ええ、イルザ殿の所へ」
「いってらっしゃいませ!」
「では後ほど」



「セルエルさん、どうかしましたか?」
「いえ。私の目の届く範囲にいてくださいね」
「何言ってるんですか。セルエルさんと遊ぶのですから当たり前ですよ!そうだ!私、海に来たのは初めてなんです!案内してくれませんか?」
「はいはい、構いませんよ。ほら、お手をどうぞ、お姫様。」
「ありがとうございます、王子様!ふふ、楽しみです!」
「(王子様、か)きっと退屈しないと思いますよ」
「退屈なんてしませんよ。だってセルエルさんとなら楽しく海で過ごせると思ってますから!」
「そうですか。光栄です」
「さ、行きましょう!」
「慌てたら転びますよ」
「はい!」




・酷い照れ隠しでは収まらない心
(長くなった 小ネタとは)

「ノイシュさん」
「はい、どうしましたか?ナマエ殿」
「私は駄目な王女なのでしょうか・・・」
「おや、そんな事ありませんよ。ふむ、セルエル様の事でしょうか?セルエル様は一体何を?」
「流石話が早いです・・・私はノイシュさんのように気配りが出来ませんし、かといってスカーサハさんのように大胆になれませんし、お姉さまのように余裕があるわけでもなくて、ただへらへらと笑っているだけなのでしょうか・・・」
「ああ・・・いえ、ナマエ殿の笑顔はただ笑っているだけではありませんよ。民を勇気付ける事が出来るのですから、あまり自分を卑下なさらない方がよいですよ。というより、私は貴女の思う程気配りが出来ているようには思えませんが・・・。えっと、セルエル様が貴女の笑顔に何かおっしゃったのですね?」
「はい・・・緊張感がなくて、それにただ笑っているだけではいけないと言われてしまって。私、皆さんみたいに腕が立つ訳でもないですし、故郷に戻っても国民に笑顔を送るだけです。王女の私が元気な笑顔を見せれば皆さんは安心する、というのは考えが足りないのではないかと不安になってしまって・・・ごめんなさい、こんな話をしてしまって」
「気になさらないでください。ふむ、少し難しい話ですね。確かに意志も行動を伴わねば他者に伝える事は出来ません。逆も然りです。私が言えた事ではないのですが、貴女がご無理をなさらない限りは心配ありませんよ。ただ、」
「ただ?」
「今貴女は不安を抱いています。それを抱えたまま笑ってしまえば、その不安も他者に伝わってしまう。ヘルエス様やスカーサハ、私も貴女の努力は評価しています。・・・セルエル様があのような言い方をしてしまうのは、昔から、ですから」
「ううん、ではセルエルさんは本当はどんな気持ちで私にそう言ったんでしょう?」
「照れですかね」
「照れていますね」
「じゃな」
「!ヘルエス様!それにスカーサハも!」
「わっ!お姉さま!スカーサハさん!びっくりしましたぁ・・・」
「一体いつから・・・」
「最初からだ。話は聞いたぞ。ふっふー、セルエルにもヒトの子の心とやらがまだ生きておったとは。くく、くくく!」
「あの子に女心を理解させるのは一苦労です。遠慮ない何時ものあの子は貴女の前ではなりを潜めているのでしょう。しかしこれは考えものです。私の可愛い妹分を不快にさせるなど見過ごせませんね」
「お姉さま目が怖いです!だ、大丈夫ですから!間に受ける私にも非がありますから!ね?」
「しかし滑稽だ!そうだナマエ、ヒトの子の恋愛においてこういう言葉があるそうだな、押して駄目なら引いてみろ」
「はい、それがどうしました?」
「ヤツのことだ、押せば同じ程引くだろうな。ならば次から何か言われた時に引いてみよ。予想外の反応が返ってくるかもしれん。想像するだけでも愉快だ!ははは!」
「スカーサハ!全く・・・でもまあ、スカーサハの言う事も一理あります」
「中々の名案ですね。きっとセルエルも流石に慌てるでしょう。一度頭を打たせてやらねば」
「お姉さまさっきから怖いです・・・」
「きっと成功するぞ」
「そうです。思い切り引いてみなさい」
「分かりました・・・でも何で」
「そりゃあのう、ヤツの照れ隠しが酷いからだ」
「ええ、重症です」
「私も同意です」
「ノイシュさんまでそんなはっきりと・・・」
「ノイシュ、ここにいましたか・・・って何です、勢揃いというわけですか。何か企んでいるんでしょうね」
「セルエル様」
「またそうやって・・・今は見ての通りナマエと話をしていたところです」
「あの!セルエル、さん」
「・・・・・・何です」
「(怖い・・・でも負けちゃいけません)私は、私の笑顔は、そんなに頼りなかったのですね」
「・・・以前もそうお伝えしたはずですが?」
「そうですか・・・。そうですね。きっと私の努力が足りないから、貴方には・・・いえ、何でもありません!その件はすみませんでした!」
「私は謝罪を求めていたわけではないのですが。」
「ナマエ、何故謝るのです。それにセルエル。いい加減その棘のある態度を改めてはどうですか。しつこい男は嫌われますよ」
「それが何だと言うんです?別に気にしているつもりはありませんが、そちらが気にするのなら気が済むまで考えてから話を振ればいい。」
「セルエル!」
「お姉さま!いいんです、いいのです・・・これは私の勝手な考えと行動が招いたものなんです。そのせいでセルエルさんを勝手に巻き込んでしまいました。セルエルさん、不快にさせてしまったのでしたら本当に申し訳なく思います」
「・・・」
「セルエル様!」
「ノイシュ。」
「ぐっ・・・」
「ごめんなさい、場の空気を悪くしてしまいましたね!あ、セルエルさんはノイシュさんに用があったのですね!では私はこれで!」
「ナマエ殿!・・・行ってしまわれました」
「セルエル!お前という子は!」
「ふはは、ふははは!セルエル!お主はどこまで頑ななのだ!面白い、面白いぞ!」
「おいスカーサハ!」
「・・・・・・何です」
「誠に気にしておらぬ者の態度とは程遠い!ふははは!馬鹿め。」
「はあ・・・何を仰りたいのです?」
「しかしな、ナマエの顔をあのように歪ませた事は我とて見過ごせんな。お主、指摘をするにも厳しすぎてあやつが哀れに思えてくるわ」
「・・・はぁ。スカーサハ様は余程彼女の事をお気に召しているようですね」
「今更だな?まあよい、単刀直入に言ってやろう。今すぐにあやつに包み隠さず、しかして穏やかなる心でお主の心を伝えよ」
「・・・はい?」
「何だ理解出来ぬか?ならもう一度」
「結構です。はいはい解りましたよ」
「セルエル。貴方が我々に劣らない程あの子の事を心配し見守り想っている事は皆理解しています。あの子には悪いですが丁度良い機会でしょう。スカーサハ様の仰る通りにしてみては?」
「ご安心くださいセルエル様、ナマエ殿なら必ずや貴方の気持ちを理解してくださいますよ」
「姉上。ノイシュまで・・・全く、勝てませんね」
「ふふ、では早速行っておいでなさい」
「セルエル様!ご武運を!」
「いい結果を期待しておるぞ」
「はいはい、行ってきますよ」



「やはりここにいましたか」
「!セルエルさん、」
「もうじき寒冷地帯に近付きます。不用意に甲板に出ては身体を冷やしてしまいますよ」
「あの、お気遣い嬉しいです。ですが大丈夫です!艇内なら温かいのに、私ったら何でここに、」
「ナマエさん」
「セルエルさ、ん?」
「確かに私は貴女の笑顔は頼りない、ただ笑っているだけだと伝えました」
「!はい、」
「ここからは包み隠さず全てを貴方にお話しします。いいですね?」
「覚悟は、出来ています」
「そんなに身構えられても困ります。まあいいでしょう。・・・その時私は確かに貴方の笑顔に苛立っていました」
「、やっぱり、そうですよね。私がただ、」
「待ちなさい。最後まで人の話は聞くものですよ」
「あっ・・・」
「貴女の事情はよく知っています。それでいて尚、貴女が民の光になろうと努力している事は私も理解しているのですよ」
「そんな」
「しかし貴女はそれ故に重圧に潰されかかっていた。何とかせねばと躍起になっている。出会った頃の貴女の笑顔は確かに光をもたらしていたのかもしれません」
「えっ・・・それはその、ありがとうございます・・・」
「礼を言う所を間違っているでしょう。私は少なくともそう感じていましたよ。しかし時が経ち、貴女が国に顔を出すにつれ少しずつ心が削り取られ、磨り潰されていった。違いますか」
「どうしてそこまで、見抜かれてしまったのでしょう・・・」
「分かりやすいんですよ、貴女。無理をして笑顔を作っても、その作り出した笑顔は何も宿していない。貼りついたままです。そのままの顔を民に向けてしまっていてはいずれ伝わってしまう。・・・もうこの先は理解できますね?」
「そう、そうですね、全くその通りです。私は疲れていたのでしょうね。ああ、それでセルエルさんが、」
「私は貴女が見ていられなくなったのです。民の光とならんとして破滅へ向かってしまっている貴女が、痛々しかった。」
「セルエルさん、そんな顔をしないで。私まで辛くなるじゃないですか、」
「ええ、辛いですよ。今の貴女を見ていると。それに私は姉上やノイシュとは違います。ですので優しく声を掛ける事が出来ません。自分が憎いですよ。ですがどうしてでしょうね、どうする事も出来ません。貴女を、突き放す事しか出来なかった自分が憎く、恥ずかしい。」
「そんな、自分を責めているのなら、もうやめてください」
「性格とは恐ろしいものです。ですが性格だからと終わらせたくありません。どうすればよいかなんて今でも不明慮です。ですが、これだけは確かであると言える事があります。聞いてくれますか」
「はい、貴方がどう言おうと全て受け止めます。だからどうか、言って少しでも心が軽くなるのなら言ってください。ぶつけてください」
「ナマエさん・・・。必死にもがき苦しむ必要はないのです。そんな貴女をもうこれ以上放っておくわけにはいきません。貴女を、苦しみから何としてでも救いたい。どうすれば良いかなんて今はどうだっていい。もう、苦しむのは止めませんか」
「セルエルさん、はい、私ももう、辛い思いをしたくありません。私が気を強く持てばよかったのに、それは叶わないと分かりました。ふふ、王女失格ですね」
「失格も何も貴女はそれ以前に人間です。王族だからという重圧は私も良く理解しています。それに、本当はもう解放されたいと思っているのでしょう?ではもう自らを苦しみから解放すべきです」
「ふふ、心強いですね。ですが方法が分かりませんね。うーん、どうすればいいのでしょうか・・・」
「今ここにいる間だけでも国の事は忘れなさい」
「へっ」
「それが一番楽でしょう。行く行くは全て忘れるようになればいい」
「あ、あの、話が見えないのですが」
「・・・貴女を必要としない国など、必要ない」
「セルエルさ、」
「あちらが拒んでいるのなら、思い切ってこちらから見放してやればいいのです」
「え、で、でも、もしそうしたとしても、私は、」
「・・・ふう。いいですか、これから言う事は二度と繰り返しません。よく聞きなさい。いいですね?」
「!は、はい!よく聞きます!」
「よろしい。・・・いつか国を見放した暁には、我が国アイルストに迎え入れましょう」
「?それはつまりどういう・・・」
「貴女を招き入れたいのです。この先、貴女と離れないように、ね。」
「えっ、えっ?!い、いいのですか?」
「皆喜ぶのは目に見えています。まあ、」
「まあ?」
「玉座を捨てた国に他国の王女が身を捧げるとなると流石に大事になりそうですがね」
「身を捧げ・・・?あっ!そうですね!許可なく王女が他国に亡命という事に」
「まあそれも心配ありません。守ってみせますよ」
「あ、あの、わ、わかりました。腹を括ります!」
「腹は括らなくてよろしい」
「うっ・・・でも嬉しいです!私もこれで皆さんの家族に・・・!い、妹ですかね?」
「はあ・・・・・・それを姉上の前で言うと叱られてしまいますよ。貴女は既に可愛い妹だとね」
「うっ!そ、そうでした」
「しかし私は貴女を妹とは思いたくはありませんね」
「ええっ!そんなぁ!セルエルさんがお兄さんになってくれるのかと期待したのに!」
「ええ、貴女を家族として、とは言いました。それに、貴女を離さないとも言いましたね?」
「それとこれと何が違うのですかぁ!」
「落ち着きなさい。私は、貴女を妹としてではない家族として迎え入れたい。」
「・・・?」
「まだ分からないというのですか。私が腹を括る事になろうとは思いもしませんでした」
「えっあっその、理解に乏しい頭でごめんなさい・・・?」
「私は、貴女に恋をしています」
「私に恋を・・・・・・っ!」
「貴女が恋しくて仕方がありません。どうでもよい相手ならここまでしなかったでしょうね。貴女に心を奪われているからこそ、貴女の悲しみ苦しむ様を見たいとは思わない。」
「ひえ・・・」
「貴女の心からの笑顔を見たい。貴女を傍に置きたい。貴女を守って差し上げたい。貴女を、あの国から奪う事だってとうの昔から覚悟していたのですよ」
「そんな、そんな・・・!私、わたし・・・わたしだって、貴方の事を、お慕いしていました。いえ、今もお慕いしています、貴方も私を好きでいてくれていたなんて、そんな、嬉しくて、涙が、」
「ああ、そんなに泣かないでください。愛らしい顔が台無しになりますよ」
「うう、セルエルさん、・・・いえ、セルエル王子、お願いがあるのです。聞いてくださいますか?」
「王子、か。ええナマエ王女、言ってご覧なさい」
「私、決心がつきました。私、あの国を去ります。でも、きちんと決着をつけて去りたいのです」
「ええ」
「その時が来たら、私を攫ってくださいますか?」
「勿論です。喜んでお受け致しましょう。後悔はさせませんよ」
「そんな!後悔なんてするはずがありません!攫われるのなら貴方がいいのです」
「全く、愛らしい事を言う王女ですね」
「えへへ・・・私、運命の王子様は必ずいるって信じてたんです」
「はい」
「私、何があろうとずっと信じていてよかったって思うんです!私の運命の王子様は、貴方だったんですね」
「私は運命の王子だなんて馬鹿らしいと思っていましたよ、今までね。ですが私が貴女の運命の王子であれば、玉座無き今、真に王子でなかろうとも、私は貴女の運命の王子であり続けようと誓います」
「まあ!誓ってくださるのですね!私だって貴方の素敵な運命のお姫様であり続けるよう誓います!」
「まあ貴女はいずれ姫ではなく私の伴侶となるんですがね」
「はん・・・」
「ああ、言い忘れるところでした。一度決めた心です。そう簡単に放棄はしませんし、逃しませんよ。」
「わ、わ、私だってずっと貴方にくっついて離れませんから!」
「ははは、いいでしょう。・・・ああ、そうだ」
「はい?」
「目を閉じてください」
「?こうですか・・・?むっ」
「無防備すぎますね、貴女。まあ知ってますけど」
「〜〜〜〜〜!ずるい!キスしましたね!キスするならもっとこう・・・・キス・・・・?」
「何です?」
「は、はじめて・・・・キス・・・」
「安心なさい、私も貴女が初めてですよ。まあこれ以上私以外のキスなど受け付けられないようにしてやりますけどね。」
「あ、あの、そそそそれは嬉しいんです、私だって貴方以外のキスを知りたくありません、で、でも言い方、」
「ああ、わざとですが?私以外の唇を拒絶するように教え込んであげますよ」
「わーっ!破廉恥ですっ!は、はれんち」
「静かになさい。さて・・・そろそろ本格的に冷えます。戻りますよ。ほら、お手をどうぞ。お姫様」
「!はい、王子様!」



「戻りましたよ」
「ただいま戻りました!先ほどはすみません、でももう大丈夫です!」
「お帰りなさい、セルエル様、ナマエ殿」
「お帰りなさい、冷えたでしょう、今ノイシュがティータイムの準備をしています」
「わーい!」
「おお、戻ったな。してセルエル、ナマエをマントで覆っているが?」
「スカーサハ、そっとしておこうとあれ程」
「仲直り以上の成果だな?」
「・・・・・・チッ」
「あっえっとその、違うんです!いや違う事はなくて!セルエルさんはその、お優しいので!外にいた私を見兼ねて!はい!」
「動揺しすぎですよ。まあ席まで離すつもりはありませんが」
「セルエル、よくやりました」
「姉上・・・」
「まあまあ、お二人とも、そろそろいい頃合いです。こちらへどうぞ」
「ですって。では参りましょうか、私のお姫様?」
「っ!はい、わ、私のお、王子様!」
「お熱いのう!やはりヒトの子は面白い!」
「お祝いをせねばなりませんね、ノイシュ?」
「はい!勿論ですヘルエス様!」
「そんな盛大にするのはやめて頂きたい。・・・ああ、転ばないでくださいよ?」
「はい!へへ、セルエルさんのマント、温かいです」
「我々の体温が籠ったせいだと思いますよ」


(玉座を破棄したかつての王子セルエルと、国に拒まれたエルーンのお姫様のおはなし2本)