ここ、どこ?
突然空いた入り口(そんな雑に扱ったら扉が傷むだろうに)を見ると武装した男が一、二、三……二十人弱ってところか。初対面だがどう見ても友好的な雰囲気とは言い難い。
俺はとっさに舞を後ろに下がらせた。
「あんたら、誰?」
だって風貌が現代社会じゃ有り得ない。いつの時代か分からないようなファンタジーな服に珍しい髪の色。いや、髪に関しては俺も白いから何も言わないけどね? 個人の趣味や色々と事情もあるだろうし。でも青や緑の髪なんて初めて見たなぁ。染めたにしては自然すぎる仕上がり。しかし何だ、その服装。コスプレにしちゃ薄汚いし、洗濯してんのかも怪しい。第一ちょっと臭う。扉からある程度離れているのに臭う。鼻につく酸っぱい臭い。加齢臭で済むレベルじゃないぞこれ。
そこまで考えてふと前を見るとオッサン二十人弱の顔色が悪い……というかオッサン全員の顔が引きつっている。
「あのさ、全部口に出してるよ」
舞の呆れた声が聞こえた。
「あれ、そうだった?」
「そりゃもう見事なまでに」
「だって本当の事だし」
「まぁ否定はしないけど」
口から考えが全部出ていたと舞に言われ、かといって小声にする事もなく平然と二人で会話をする。
「おい!」
中央に立つ男に怒鳴られた。
「何?」
「俺はまだそんな年じゃねぇ!!」
あ、突っ込むところそこ? そこでいいの? 後ろのオッサンが数人ガクッとこけたぞ。
「まぁいい。ここらは俺達盗賊団の縄張りで、ここは俺達が使っている小屋だ。おまえ達こそ何してる」
「縄張り、ねぇ。じゃあ聞きたいんだけど、ここから一番近い街ってどこ?」
「はぁ? 小僧、自分がいるとこも知らねえのか。この辺は丁度ダリルシェイドとハーメンツの中間あたりだ。北に進めばアルメイダに着く」
さっきから頭をよぎる小さな仮定。男達の答えによってピースがはまっていく。
小僧と呼んで男に見間違えた事は水に流してやろう。名乗ってないし自分でも中性的な顔だと思うしな。
今はそれより気になる単語が。
「「ダリルシェイド!?」」
重なった声に振り向くと舞も驚いている。やっぱ空耳では無かったか。
ダリルシェイド、ハーメンツ、アルメイダ。馴染みはないけど聞き覚えのある名詞。これで仮定が現実になった。
「ま、間違いないんだな?」
「ンな事俺らにはどうでもいいんだよ。小僧、お前の持ってる剣は俺らの獲物だ。今すぐ離せ。それからこの小屋を使って休んでた利用料、一人五万ガルド払ってもらおうか」
盗賊は凄みを効かせて言ってきた。
盗賊団だと自ら言い、獲物とも言った。つまりこの刀はどこかから盗ってきたものに違いない。そして小屋の利用料。控えめに考えても法外な値段だ。さっき男が言っていた地理が合っているのなら恐らくこうやって街と街を行き来する人からぼったくっているということか。
「どうした? 金がないなら金目の物を全部置いていけ」
ギャハハハと下品な笑い声が響く。さっきまで家にいたのに金目の物なんて持っているはずがない。少しでも無事に切り抜けるには、せめてこの刀だけでも置いていくべきなんだろうだろう。
だけど……
「刀を置いてけ? 嫌だ」
「何だと?」
「聞こえなかった?嫌だと言ったんだ」
ギュッと握り締めた刀は不思議と吸い付いたように離れない。離したくない。
何故だか分からないけれどこの刀は渡しちゃいけないと思ったんだ。
「このガキ」
「ガキのくせに生意気言いやがって」
「痛い目見ないと分からねえようだな」
とかなんとか口々にまくし立てている盗賊達。背中に舞を隠しながら俺はじりじりと体の向きを変えていく。右に一歩動けば盗賊たちは対称に左へ一歩。後ろに下がれば奴らは前へ。じわり、じわりと動いていった。
「舞……」
盗賊たちに気づかれないように腕で窓を示す。小さく舞が「うん」と答える。あとはタイミングだ。
あと三歩、
二歩、
一歩
今!!
「でりゃあぁぁぁ!!!!」
大声で気合と勢いをつけて、積み重なっていた木箱を力任せに引き倒した。床にぶつかるけたたましい音と舞い上がる土埃。盗賊が縄張りに使っていたとはいえ掃除なんてろくにされていなかったのだろう。視界を遮る土埃に今は感謝だ。一瞬だけ。
「行け!」
短く出した指示に素早く舞が反応し、真後ろに位置していた窓から俺たちは外へ飛び出した。