春うらら

この前お付き合いを始めた佐久早くんと今日は初めて二人でお出かけする。
楽しみと緊張が強すぎて、待ち合わせは十時にもかかわらず朝の五時に起きてしまった。うきうきとした気持ちでメイクをする、今日のために買ったちょっと春っぽいリップも可愛いくのったしラメも気持ち多めにつけちゃったりする。髪も綺麗に巻けたし今日の服に合わせて2日前に塗ったネイルも綺麗にできた。佐久早くん、ちょっとでも可愛いって思ってくれないかな…



待ち合わせの5分前に駅に着くと佐久早くんはもうそこに立っていた。
背が高くてスタイルもよくて、スポーツでできた逞しい胸板まであるもんだから最高にかっこいい。シンプルな装いが彼の体格によく映えている。今からあの人に声かけてデートするんだ…なんとなく気後れしてしまう。
そうしてもだもだしているうちに彼はスマホからふっと顔をあげこちらと目があった。するとちょっと驚いた様子を見せたのちに手を軽く上げてこちらにやってきてくれた。

「おはよ、来てるなら声かけてよ」
「お、おはよう。ごめん、佐久早くんがかっこよすぎて全然近寄れなかった。」
正直こっちはこんなイケメンが近くに立っているだけで限界、めちゃくちゃ緊張する。
「…なにそれ、意味わかんない」
彼はそう冷めたように言って顔を背け
「いこ」
と言って最初の目的地に向かって歩きだした。




デートも終盤になり早めの夕ご飯をちょっぴりお洒落なお店で頂いているが、私の気持ちは少し沈んでいる。
今日一日佐久早くんのようすが変だ、会話の内容は学校にいる時と一緒でおかしくはないけれど、目が全く合わない。無理に覗き込んでもふっと逸らされてしまう。最初は気のせいかな、とも思ったけど半日一緒にいてこれはさすがにおかしい。
わたし、何か気に障ることしちゃったかな…好みの女の子になれなかったのかな…何が正解だったんだろう、と思考がどんどんネガティブになってくる。そんなことを考えているうちに会話が途切れてしまった。


「…」
「なに?」
「えっ、なにが?」
「いや、そっちでしょ、さっきからなんか暗くなってさ」
「そう、かな、別にそんなことないと思うけど」

やばいますます雰囲気が重くなってしまった。

「俺と出かけるの、楽しくない?」
「そんなことないよ!」
「じゃあ、なに、言いたいことあるなら言えば」
「…っ」

佐久早くんは目が合わないことを除けばいつもどおりで落ち着いてて余裕がある、一方で私は佐久早くんのことをすごく意識してしまっている。自分だけ妙に空回りしているのを感じて恥ずかしく、情けなくなってくる。目頭がじわりと熱くなった。

「いや、なんかさ、今日目が合わないからさ、わたし何かしちゃったかなと思って…」
「……はぁ、なに、そういうことね。」

と歯切れ悪そうにぼやく。


そして深いため息をついたのち机の上に乗っていた私の手をおもむろにとり目を合わせた。

「こんな綺麗な人と目を合わせるなんて緊張するに決まってるだろ。」

大学にいるときと全然違うじゃんかと付け加えると拗ねたように肘をついた。
彼の顔がどんどん赤く染まっていく。それを見た私の頬もつられてじわじわ熱を帯びてゆく。佐久早くん、今私のこと綺麗って言った?


「情けないけど、正直、今手を握ってるだけでいっぱいいっぱいだから」

そういう彼の手はじんわりと汗がにじんでいてその言葉が嘘でないとわかる。
「…ふふ、よかった。気に入ってもらいたくて目一杯可愛くしてきたの」

そう言って微笑むと彼はまた気まずそうに目を逸らした。緊張してたの、私だけじゃないんだ。佐久早くんの可愛い一面が知れた。

Serenissima