欠けたひとひら

佐久早くんと付き合って五ヶ月。
自分自身あまり交際経験が多い方ではないのであんまりよくわからないけれど、上手くいってなくはない…と思う、多分。

だけど最近、本当に好かれてるのかな?別に私じゃなくてもいいんじゃないの?という漫然とした不安に襲われている。
付き合ってみても佐久早くんは予想通りというかなんというか、結構クールで愛情表現は少なめだ。
私にちゃんと時間を割いてくれているのは感じるけど、告白の時も好きとは言われず「付き合って」って言われたしスキンシップとかもあまりない。

他のかわいい女の子に言い寄られたらあっさりそっちに行っちゃったりするのかなぁ…そんなもやもやを抱えながらお昼を食べに購買に向かった。



「あれ?久しぶりじゃん!」
「あ、吉田先輩!本当にお久しぶりですね。」
自販機で飲み物を買っていたら後ろから声をかけられ、振り返ると同じ高校出身の先輩が立っていた。
すごく気さくな先輩で入試の時も入学してからもたびたびお世話になっていた。スポーツ推薦で大学に入り、佐久早くんと同じバレー部というすごい人でもある。

「いや〜元気そうでなにより!てか一人なら一緒ご飯食べない?」
「ぜひぜひ!」

ご飯をとって席につき最初は近況報告などをしていたが、佐久早くんと私が付き合ってることを知っている先輩が彼の話題を振ったことで話の中心は佐久早くんになった。
先輩のコミュ力が高く聞き上手なこともあって話しているうちに私は最近のもやもやをべらべらと喋ってしまった。









日曜日。今日は午前中で練習が終わる佐久早くんがおうちに遊びに来る。
部屋は一通り片付けたから、まぁ大丈夫かな。

一時を過ぎるとピンポーンとチャイムがなり、彼が到着しお部屋に招き入れた。


「これ、お土産」
「ありがとう。…ってこれ大学の近くの超美味しいケーキ屋さんじゃん!え〜、本当にありがとう!わ、レモンケーキもある!」

レモンケーキ好きなんだよね、と笑いかけると彼は気まずそうな様子を見せ、あとこれも…といって袋からがさごそと小さな花束をとり出した。

「え⁉お花?めっちゃかわいい…」

花束を受け取り、良い香りを胸いっぱい吸い込む。

「…」
「あの、ごめん、今日ってなんかの記念日だったりしたっけ?」
「別にそんなんじゃないけど」
「そう、だよね」
「…」

彼は黙ってしまった。

え、なんだろう、めちゃくちゃ怖い。
もしかして浮気しちゃいました、とかそういう後ろめたい報告が来たりするの?

勝手に想像を膨らませ不安でいっぱいになっていると、佐久早くんはこちらに視線をよこすとおもむろに口を開いた。

「愛情表現が足りないって言われて…」
「、誰に?」
「吉田さん」
「吉田先輩⁉」

思わぬ人の名前に驚いた。
この前のランチの話を佐久早くんにしたってこと?そういえばあの先輩良い人だけど結構口が軽いんだった…!

「ごめん、何聞いたかわかんないけど全然気にしなくて良いから!」
「俺はよくない、誤解されたままじゃ嫌だから。」

少し緊張した面持ちの彼は私の頬にすっと手を添えた。

「ちゃんと好きだから。惰性で付き合ってるとかじゃないよ、お前のことほんとうに大切に思ってる。」

伝わってなかったみたいだけど、付け加え彼は自嘲気味に笑った。
彼の予想外の言葉に驚いた。
けれどケーキもお花もわざわざ買ってきてくれて、こんな風にきちんと想いを伝えてきてくれた佐久早くんに胸がいっぱいになって思わず抱きついた。

「私も佐久早くんのこと大好き。」

そう伝えると彼は私を優しく抱きしめた。
腕の中でふわふわととても幸せな気持ちになる。


もう少しこの状態を堪能したら、お茶を入れてケーキを食べよう、そして彼が買ってきてくれたお花を飾って眺めながらこれからのふたりの話をしよう。

Serenissima