やすらぎ

金曜の夜は一緒に晩ごはんを食べる。聖臣くんが忙しいことは百も承知だけど、最低でも週に一回はふたりの時間を持ちたいよね、と付き合いたてのころに決めたルールだ。
それこそ最初のころは外食だったが、今ではすっかり私が晩ごはんを準備して彼の帰りを待つというスタイルに落ち着いた。



20時を回ると聖臣くんが帰ってきた、今日はちょっと遅い帰宅だ。
彼が手洗いをしている間にスープを温めなおす。
聖臣くんは食卓につくと、帰りの電車の中で隣に座った女子高生たちがうるさかっただとか後輩のミスのせいで練習が始まるのが遅れただとか、普段の聖臣くんなら気にかけないような出来事に対して何だかごねごねと喋っている。
なるべく丁寧に相づちをうちながら、そういえば先週新しく始まった練習が上手くいってないとぼやいてたし、お疲れなのかもと思った。


晩ごはんの片付けも終わり、お風呂のお湯を溜めるために部屋から出ようとするとソファーから声がかかった。

「どこいくの」
「お風呂場だよ〜、もうお風呂入る時間でしょ」
「入れなくていいからこっちきて」
「お湯だしてからでいい?」
「いいから今こっちきて」

珍しく強情に言うので大人しく彼の指差す脚のあいだに収まった。

「お風呂入んないの?」
「入るけど」
「お湯溜めなくていいの?」
「溜めなくていい」

支離滅裂だ。

「ねぇ、一緒に入ろう」
「えぇ!?」

今までそんなおねだりをされたことは一回もなかった。

「なに、ダメなの?俺お前の彼氏なんだけど」

そう拗ねた風に言うと私のうなじにぐりぐりとおでこをくっつけた。子供みたいに甘えてくる聖臣くんは正直めちゃくちゃかわいい。それに人と一定の距離を置く彼が心を許してくれているみたいで幸せになった。

「聖臣くん、さてはお疲れですね?」
「ちがう」
「うそだ〜」
「つかれてない」
「疲れてるんだったらお背中流してあげようと思ったのになぁ…」

そういうと聖臣くんは小さく唸ったあと、つかれたと小声で呟いた。
素直な様子に思わず笑みがこぼれ、彼のことをぎゅっと抱きしめた。

「いっつも頑張ってるから疲れちゃったね〜」
「…」
「わたし、バレーのこと詳しくないけど聖臣くんが一生懸命頑張ってるの伝わってくるよ」
「…」
「だから今日は甘えてゆっくり休もうね」
「…うん」

そうして私にべったりとくっついた聖臣くんと一緒にお風呂場に向かった。こうやって彼を甘やかすのも悪くないな。

Serenissima