うちの会社は社内恋愛禁止ではないが、さすがに同じ部署から一緒に出ると今後の仕事に影響すると思い、俺は会社の最寄り駅で苗字さんと待ち合わせをする事にした。
「橘さん、お待たせしました」
会社からこの駅まで徒歩3分もかからないのに苗字さんは息を切らしながら俺の前までやってきた。
「ハハッ、そんなに急がなくてもよかったのに」
「少しでも橘さんとお話したかったので急いじゃました」
少し照れくさそうに言う彼女が可愛らしくて思わず苗字さんの左手をとった。
「あのー橘さん?」
「んー?急がないと時間なくなっちゃうよ」
なんて下手に誤魔化してお店に入るまでの数分苗字さんの手をずっと握っていた。
「えーじゃあ、橘さん彼女いないんですかー?」
「居たら流石に苗字さんを食事に誘わないよ。苗字さんは?」
「居ません。というかお付き合いした経験がないんです」
これまでの彼女の行動と今回の発言でやっと納得がいった。
経験がないのなら無防備で警戒心を抱かないのも当然だ。
「えー苗字さん、仕事もしっかりしててこんな可愛いのに?」
「そんな事言ってくれるの橘さんだけですよ」
「俺だったらほっとかないけどなぁ〜こんないい子」
「もう橘さんモテるんですからこんな私にそんな事言っちゃダメですよ!あっ、グラス空ですね。次、何飲みますか?」
「んーそうだな」
少しアルコールが入っているせいか、いつもよりテンションが上がって、彼女を自分のものにしようと必死だった。
「苗字さんが彼女になってくれたら次の頼む」
「橘さん、酔ってます?」
「さすがにビール二本じゃ酔わないよ」
「じゃ、本気なんですか?」
「そうだって言ったら?」
「こういう場合はどう答えるべきですか?確かに橘さんの事はその、気になってるんです。でも経験がないからどうしたらいいのか分からなくて」
グイグイ攻めすぎたのか苗字さんは困った顔をしながらも今の気持ちを正直に答えてくれた。
もう少し俺がリードすれば彼女は頷いてくれるかもしれない。
「分かった。じゃあ、質問を変えるよ。俺と一緒に居たいと思う?」
「それは...はい」
「なら俺に触れたいとか思う?」
「ふ、触れるなんて恥ずかしくて無理です」
「でも、さっき俺の手、振り払わなかったよね?」
「それは嫌じゃなかったので」
「それならよかった。じゃあさ、いきなり付き合おうとはさすがに言えないからお試しならどうかな?」
「お試しですか、」
「うん、どうかな?お付き合いの練習と思ってくれたらいいよ」
経験がない彼女にいきなり付き合おうとはさすがに言えなかった。
でも、お試しでもその期間中は俺の彼女になる。
それだけでも俺は嬉しかった。
「橘さんの事もっと知りたいのでよろしくお願いします。」
「うん!よろしくね。名前ちゃん」
「はい!真琴さん...」