015
暗い洞窟を抜けると、いつのまにか木造の室内に入っていた。ろうそくの明かりがわずかにともされたその広い部屋には、助けを求めて避難してきたのであろう人々が、不安そうな顔を並べていた。
「リルちゃん!」
声をあげて駆け寄ってきた青年の顔が、薄暗い中でもはっきりと見えた。タルだ。私はラズロの腕からゆっくりと降り、なんとか立った。足首の痛みは鈍く響く。昨日くじいた場所に違いなかった。一瞬顔をしかめた私を、タルは見逃さなかった。
「怪我してるのか?」
心配そうに問うタルに、私は大丈夫だと告げる。
「……タル、頼む」
「え?……おう。」
ラズロはそう言って、タルに預けるように私の背中を押した。タルは私を見、決意を固めたような顔で背中に手を回した。ラズロは私に一瞥をくれると、すぐに踵を返し、階段を上がって行った。
「リルちゃん、座ろう。」
タルは私の足を気遣うように言った。その言葉に甘えて、私は床に座り込んでいる人たちに混ざって腰を下ろした。
辺りには小さな子供の泣き声、誰かのすすり泣く声、不安げな声が満ちている。その中に私が靴を上げた女性の姿も見えた。頬を涙で濡らし、赤ん坊を抱きしめている。こんな形である日突然住む場所を失うなんて、どれほどの不安と悲しみがあるだろう。それに、もう戻れるかどうかもわからないのだ。
「……リルちゃん?」
タルが不思議そうに、立ち上がった私を見上げた。私は立ち上がらずにはいられなかった。薄暗い部屋の中、私は息を深く吸い込んだ。
前を進む海賊船を眺めながら、ふと気が付いた。潮風に乗って、かすかに歌声が聞こえる……。
「……あれ?何か聞こえない?」
ジュエルも耳を澄ませる。
「船室からだな」
リノがそう言い、皆で船室へと戻った。
階段を下りてサロンのドアを開けると、ほとんど同時に大きな拍手があふれた。
「なんだなんだぁ?」
リノが部屋に進み入り、僕とジュエルも後に続く。
サロンにいた人たちは皆安堵しきった顔を涙で濡らし、大きな拍手を送っていた。その中心には、リルが立っていた。
人々が落ち着いてから、避難者用の船室にそれぞれ案内し、サロンは静けさを取り戻した。怪我をした人は医務室に運ばれ、リルも船員の案内で医務室へ行った。
「さっき、何があったの?」
ジュエルがサロンに残っていたタルに尋ねると、タルはこらえきれない様子で頬を紅潮させ、うなり声をもらした。
「俺……リルちゃんが好きだ!!」
「突然どうしたのよ、タル?」
何があったのかさっぱりわからないわ、と肩を竦めたジュエルに、タルは興奮気味に言う。
「ここに逃げた人たちが皆、不安で怯えていたんだ。俺は早くクールークの船が見えなくなるまで逃げれば、だんだん落ち着くだろうと思ってた。でも、リルちゃんは……怪我もして、自分も心細いだろうに、皆を励ますように、ずっと歌を歌っていてくれたんだ。それで皆、あんなに元気になったんだよ。」
俺まで泣きそうだったぜ、とタルは目頭を押さえた。
「えー!リルちゃんの歌、あたしも聞きたかったなー…」
ジュエルも残念そうに眉を下げた。
僕はサロンにまだ残っている人たちの様子を窺った。確かに皆、故郷を失って避難してきたばかりとは思えないほど、笑顔に溢れていた。