どこかぼーっとした顔で席に着いた清香を、東条は不思議そうに眺めた。そこへ清香の友人たちがわっと駆け寄ってきて、興奮気味に清香を取り囲む。

「清香!さっき見たよ!」
「え?」

清香は声に驚いた様子で、突然目が覚めたような顔をして友人たちを見上げた。

「階段のとこで、御幸先輩と一緒にいたでしょ!」
「お昼休み一緒にいたの!?」
「えっ…」

期待に満ちた目で見つめてくる友人たちに、清香は言葉に詰まって顔をひきつらせ、頬を赤くした。

「いや…、たまたま…、会って……。」
「でも仲良さそうだったじゃん!」
「よ、よくないよ!お兄ちゃんの関係で、知ってるだけだから…!」

必死に否定する清香に、友人たちはなおも詰め寄ろうとしていたが、チャイムが鳴り響いて教師が入ってきたために渋々席へ戻って行った。安堵のような疲労のようなため息を吐いて教科書を用意する清香に、東条はこっそりと尋ねる。

「なぁ…、結城って御幸先輩と付き合ってんの?」
「え……、…は!?」

清香の顔が瞬く間に赤くなり、必死にかぶりを振る。

「違うから!全然!」
「そ…そか。」

ははは、と東条は愛想のように笑って緊張をはぐらかすと、吐息交じりにごまかすような低い声で呟いた。

「よかった…。」

聞き間違いかと思うほどの声だった。あまりにも自然に呟かれたその言葉を、清香は一度聞き流したが、ふと考え直すと意味ありげなその言葉が、頭の中にこびりついて何度も蘇った。


***


夜の青心寮。
練習を終え、入浴と食事も終えた生徒たちは、おのおの好きなように時間を過ごす。
宿題でもするか、と御幸は教材を机に並べ、不意に何か

 


ALICE+