「あ…お疲れ様です。」
「おう」

試験が終わり、部活が再開され、いつもの日常に戻ったある夜。
寮の自動販売機の前で、東条と鉢合わせた。
東条は首からタオルを下げていて、額に汗を浮かべている。ジョギングか、素振りでもしてきたのだろう。

俺がコーヒーを買うのを待って、東条はスポーツドリンクを買った。ベンチに腰を下ろして缶を開ける俺を、東条もペットボトルの蓋をひねりながらちらりと見てくる。

「何?」
「あ…いえ。すみません。」

俺に笑われると、東条は焦ったように目をそらしたが、やがて、意を決したように口を開いた。

「あの…御幸先輩って、奥村と知り合いなんですよね。」
「…一応。」
「それって…どういう、関係なんですか。」

その質問には一種の決意が現れている気がした。そうか、こいつ奥村のこと…気になってるんだな。

「シニア時代、バッテリー組んでたことがあるんだよ。聞いたことあるだろ、江戸川シニアの1年女子のエース。あれ、奥村のことだから。」
「え…!?そうなんですか!?」
「ああ。」
「…有名でしたよね。俺も、一度会ってみたいと思ってたんですけど、2年になった頃に突然シニアを辞めたって聞いて…すごく残念でしたよ。」

しんみりとした静寂が流れる。東条はスポーツドリンクを飲むでもなく、ペットボトルの蓋を弄ぶように開けたり閉めたりしている。まだ聞きたいことがあるようだな。

「…で、それが何?」
「あ…、いえ。なんか、奥村を見てたら…ただの知り合いじゃ、ない気がして」
「ただの知り合いじゃない…って?」

思い切って踏み込むと、東条は迷うような口調で答える。

「…その…付き合ってたり、したのかなって…」

俺は口元に笑みを浮かべる。シニアの頃も、よく囃し立てられたっけな。のらりくらり否定して、あいつも冷めた反応だったけど、正直悪い気はしないんだよな。性格悪いのはわかってるけど。

「そんな風に見えた?」

ただ否定するのは面白くなくて、そう訊いてみる。自販機の明かりに照らされた東条の顔が、わずかに赤くなったように見えた。

「……、……はい。」

奥村に縋られたときの、東条の俺を見る困った顔が蘇ってくる。あのとき奥村は、どんな顔を俺から隠していたんだろう。

「…だけど、お前もすげえ、仲良さそうだったじゃん。」
「え?」
「奥村とさ。距離が近かったから。」

東条の顔は今度こそ赤くなった。思い当たる節があるらしい。

「あれは…、あいつは、そういう奴なんですよ。普通に腕とか、組んできて…」
「ふーん。」

そんなこと…俺はされたことねぇけど。
そういや鳴もよく、あいつと肩を組んだり手をつないだりしてたっけな。そのたびに面白くなくて、俺は不貞腐れていた。

「…あいつ、俺の事何か言ってた?」

ボーっとする頭で、ボーっとそんなことを聞く。言ってから、なんて情けないことを訊いてんだ、と後悔する。

「え?いや…特に何も…」

そして落胆する。しかし同時に思い立つ。
こいつが訊けば、本音がわかるんじゃないか?

「じゃあ、訊いてきて。」
「え!?な…何を、ですか?」
「なんで俺から逃げたのか。」

 


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