101
「はー…さすがに疲れた」
ホテルの部屋に着くなり、俺はベッドに倒れ込んだ。光もさすがに疲れた様子でベッドに腰掛ける。
やっと披露宴が終わり、その後友人だけで飲み会――と言っても光がアルコールを飲むのは阻止したが、それが終わり解散となって、ようやく二人きりになる。
光はストッキングを脱いで髪を解く。その背中を俺はぼんやりと見つめた。白いうなじ――細い腕、耳たぶに揺れるピアスを今光が外し、ネックレスも外される。キラリと光りながらうなじを伝って解かれ、流れるダイヤモンドの筋。…こんな動作さえ綺麗なんだもんなー…。
つい見惚れていると、光が少し振り向いた。
「ファスナー、下ろしてくれませんか?」
「ああ…うん」
俺は起き上がり、ワンピースの背中のリボンを解き、その下のファスナーを下ろす。白い滑らかな背中に、ブラホックがあらわれる。
「これも外す?」
ふざけてそう訊くと、光は顔を赤くして笑いながら俺を睨んだ。
「…光。」
その華奢な肩を抱きすくめる。やっと…言える。俺の光だと。
光は大人しく抱かれたまま、俺の肩に頭をもたれてくる。
「…一也さん。」
「ん?」
「一也さんって…私に一目惚れ、したんですよね。」
そのからかうように目を細めた光の笑みと悪戯っぽい言い方がどうしようもなく可愛くて、ついくつくつと笑いがこぼれる。
「もしあの日…呼び出してたのが私で、告白されてたら…オッケーしてました?」
「…どうかな」
俺は当時のことを思い出しながら呟いた。
あの日、初めて会った光は、本当に…息をのむほど綺麗で。こんな子がどうして、って思った。こんなに綺麗な子、この学校にいたのかよ、とも。だから…人違いだとわかって、少しがっくりしたのは本当。だけど…悪戯をやり返してきたり、妙に突っかかってきたり、素っ気なくてもなんだかんだ反応が返ってきたり…そんな毎日が楽しくて、嬉しかった。
「わからないけど…断ってたかもしれない」
むっ、と光はからかうように頬を膨らました。
「そんで、そのあとめちゃくちゃ後悔してたかもな。」
「え?」
「あの頃は俺…彼女なんていらない、野球の邪魔になるだけだって…根拠もなく思ってたから。それに…一目惚れだったってのも、あとから自覚したことだし」
「……。」
「でも…あの頃の光に告られるなんて、全然想像できねーよ。学校中のアイドルで…高嶺の花でさ、俺なんて眼中にないと思ってたし」
「そんなこと……」
光は言い噤んで、俺を見上げた。
「私も…一目惚れだったんですよ」
その、心の扉をおそるおそるそっと開いたような打ち明け方が、愛おしい。
「…知ってたよ」
「えっ?」
「倉持が教えてくれてなー」
「え!…もう…今すごい勇気出して言ったのに…」
恥ずかしそうに笑って顔を背ける光だけど、俺の腕の中だから、耳が赤いのが丸見えだ。
「…倉持さんが、言ってたんですけど…」
照れ隠しだろうか、光は急にトーンを落として話し始める。その赤い耳元に、俺は唇を寄せた。
「…また倉持の話?」
「いいから、聞いてください」
光ははにかみながらくすぐったそうに肩をすくめる。
「一目惚れは、本能なんだって」
「……。」
なんだか聞き覚えのあるフレーズだ。
「理屈じゃなく…なんとかしてやりたい、笑っていてほしいって…思うものなんだって」
…わかるよ、倉持。すごく…よくわかる。
光の頬を撫でると、光は振り向いて…わかっていたように目を閉じた。俺はその唇にキスをする。舌を絡ませて…光のワンピースを脱がしながら、ゆっくりと、ベッドに倒れ込んだ。
***
ぼんやりと目を開けて、部屋の明るさに気付いた。…もう朝か。昨日はあのまま…光として、光が寝ちゃって、俺も後始末をして寝たんだっけ…。昨夜の熱が蘇り、口元がにやける。光、可愛かったな…。
…そういえば光、まだ寝てるのかな。まあ、チェックアウトの時間まで寝かせておいても…
そう思いながら隣を見ると、すでに布団は空っぽだった。視線を巡らせると、ぼやけた視界にベッドの端に腰掛けている人の後姿が見えた。金色の髪、白い服…光、だよな。眼鏡どこだっけ。…まあいいや。
俺は身を起こし、寝ぼけ眼でその人物の背中に手を伸ばす。
「おはよう…」
脇の下から手を差し入れ、胸に手を伸ばし抱きしめる……あれ?硬い。…し、なんかいつもよりガタイがいい。
「…殴りますよ」
上から降ってくる苛立った低い声。顔を上げると、それは…ブチギレた奥村だった。眼鏡を見つけてかけると、隣で瀬戸が破顔しつつ腹を押さえ、笑い声を押し殺しているのも見えた。
「あれ?わりぃ間違えた!はっはっは」
「この……」
「だってお前らちょっと似てんだモン」
「気色悪いこと言わないでください。」
「あれ?お前光のこと大好きなのにそこは嬉しくねーの?」
「そっちじゃないです。」
ああ、俺の好きな女と似てるってのが嫌なわけね。
「まあそうだな、どっちかっつーとお前は光より…」
「…?」
「光の従弟に似てるな。」
「は?」
「あれ、知ってるよな?光臣っていう…」
「似てません。」
「え?」
「全然似てません。」
あれ、機嫌悪くなった。
「何?仲悪いの?」
「別に…アイツに興味すらありませんし。」
「へー!仲わりーんだな。はっはっは」
「……。」
黙り込んで俺を睨む奥村。やっぱこいつからかうのおもしれー。
「つーかお前らなんでここにいるの?」
「光舟に渡すものがあるから帰る前に寄ってくれって、光先輩に昨日言われてて…」
瀬戸が答えた時、廊下を挟んだ向こうのウォークインクローゼットの方から声がした。
「こうちゃんごめん、おまたせ。」
光が部屋に入ってきて、紙袋を奥村に手渡す。
「これ、こっちの別宅に置いてあった物なんだけど…お祖母様がたぶん、こうちゃんのおばさんのだろうって。ごめんね、返すの遅くなっちゃったけど…」
「…渡しとく。」
「うん、ありがとう。」
光は微笑んで、未だ笑いを堪えている瀬戸、不満気に俺を睨む奥村、ついつい笑いがこぼれてしまう俺を見渡した。
「何話してたんですか?」
「いや〜」
へらりと笑って先ほどの珍事を話そうとすると奥村に睨まれたので、少しだけはぐらかす。
「奥村と光臣って似てるよな〜って」
「え?」
…光の笑顔が消えた。
「似てませんよ。」
「…え?でも、目元とかめっちゃ…」
「全然似てません」
デジャヴだ。
奥村はどこか勝ち誇った笑みを浮かべて俺を見る。なんなんだ、こいつら光臣のこと毛嫌いしてるのか?
「それじゃ…俺たちは帰ります」
奥村が立ち上がり、瀬戸と連れ立ってドアへ向かう。気を付けてね、と見送りに行く光のあとを、俺ものんびりとついていく。
「…光。」
出て行く間際、奥村は振り返り、俺をちらりと睨んで、光を真剣に見つめる。
「何かあったらすぐ俺を呼んで。助けに来るから…」
「コラコラ…新婦を死地に赴く戦士みたいに言うなよ」
俺を威嚇しつつ瀬戸に引き摺られて、奥村はやっと帰っていった。
「あいつほんとお前のこと好きだよな〜」
「心配してくれてるんですよ。昔…色々あった時を知ってるから。」
色々?疑問符を浮かべて光を見ると、光はおざなりに微笑んで、わき腹を撫でた。
「この傷のこととか…」
…なるほどね。
数少ない光の味方だったのかな。あいつなりに、光を守りたいんだろう。
「さて…」
俺はベッド脇の時計を見て、口元を緩める。
「チェックアウトまでまだ時間あるけど…何する?」
光は俺が含ませた意味に気付いたようにはにかんで、俺の首に腕を回した。
ホテルの部屋に着くなり、俺はベッドに倒れ込んだ。光もさすがに疲れた様子でベッドに腰掛ける。
やっと披露宴が終わり、その後友人だけで飲み会――と言っても光がアルコールを飲むのは阻止したが、それが終わり解散となって、ようやく二人きりになる。
光はストッキングを脱いで髪を解く。その背中を俺はぼんやりと見つめた。白いうなじ――細い腕、耳たぶに揺れるピアスを今光が外し、ネックレスも外される。キラリと光りながらうなじを伝って解かれ、流れるダイヤモンドの筋。…こんな動作さえ綺麗なんだもんなー…。
つい見惚れていると、光が少し振り向いた。
「ファスナー、下ろしてくれませんか?」
「ああ…うん」
俺は起き上がり、ワンピースの背中のリボンを解き、その下のファスナーを下ろす。白い滑らかな背中に、ブラホックがあらわれる。
「これも外す?」
ふざけてそう訊くと、光は顔を赤くして笑いながら俺を睨んだ。
「…光。」
その華奢な肩を抱きすくめる。やっと…言える。俺の光だと。
光は大人しく抱かれたまま、俺の肩に頭をもたれてくる。
「…一也さん。」
「ん?」
「一也さんって…私に一目惚れ、したんですよね。」
そのからかうように目を細めた光の笑みと悪戯っぽい言い方がどうしようもなく可愛くて、ついくつくつと笑いがこぼれる。
「もしあの日…呼び出してたのが私で、告白されてたら…オッケーしてました?」
「…どうかな」
俺は当時のことを思い出しながら呟いた。
あの日、初めて会った光は、本当に…息をのむほど綺麗で。こんな子がどうして、って思った。こんなに綺麗な子、この学校にいたのかよ、とも。だから…人違いだとわかって、少しがっくりしたのは本当。だけど…悪戯をやり返してきたり、妙に突っかかってきたり、素っ気なくてもなんだかんだ反応が返ってきたり…そんな毎日が楽しくて、嬉しかった。
「わからないけど…断ってたかもしれない」
むっ、と光はからかうように頬を膨らました。
「そんで、そのあとめちゃくちゃ後悔してたかもな。」
「え?」
「あの頃は俺…彼女なんていらない、野球の邪魔になるだけだって…根拠もなく思ってたから。それに…一目惚れだったってのも、あとから自覚したことだし」
「……。」
「でも…あの頃の光に告られるなんて、全然想像できねーよ。学校中のアイドルで…高嶺の花でさ、俺なんて眼中にないと思ってたし」
「そんなこと……」
光は言い噤んで、俺を見上げた。
「私も…一目惚れだったんですよ」
その、心の扉をおそるおそるそっと開いたような打ち明け方が、愛おしい。
「…知ってたよ」
「えっ?」
「倉持が教えてくれてなー」
「え!…もう…今すごい勇気出して言ったのに…」
恥ずかしそうに笑って顔を背ける光だけど、俺の腕の中だから、耳が赤いのが丸見えだ。
「…倉持さんが、言ってたんですけど…」
照れ隠しだろうか、光は急にトーンを落として話し始める。その赤い耳元に、俺は唇を寄せた。
「…また倉持の話?」
「いいから、聞いてください」
光ははにかみながらくすぐったそうに肩をすくめる。
「一目惚れは、本能なんだって」
「……。」
なんだか聞き覚えのあるフレーズだ。
「理屈じゃなく…なんとかしてやりたい、笑っていてほしいって…思うものなんだって」
…わかるよ、倉持。すごく…よくわかる。
光の頬を撫でると、光は振り向いて…わかっていたように目を閉じた。俺はその唇にキスをする。舌を絡ませて…光のワンピースを脱がしながら、ゆっくりと、ベッドに倒れ込んだ。
***
ぼんやりと目を開けて、部屋の明るさに気付いた。…もう朝か。昨日はあのまま…光として、光が寝ちゃって、俺も後始末をして寝たんだっけ…。昨夜の熱が蘇り、口元がにやける。光、可愛かったな…。
…そういえば光、まだ寝てるのかな。まあ、チェックアウトの時間まで寝かせておいても…
そう思いながら隣を見ると、すでに布団は空っぽだった。視線を巡らせると、ぼやけた視界にベッドの端に腰掛けている人の後姿が見えた。金色の髪、白い服…光、だよな。眼鏡どこだっけ。…まあいいや。
俺は身を起こし、寝ぼけ眼でその人物の背中に手を伸ばす。
「おはよう…」
脇の下から手を差し入れ、胸に手を伸ばし抱きしめる……あれ?硬い。…し、なんかいつもよりガタイがいい。
「…殴りますよ」
上から降ってくる苛立った低い声。顔を上げると、それは…ブチギレた奥村だった。眼鏡を見つけてかけると、隣で瀬戸が破顔しつつ腹を押さえ、笑い声を押し殺しているのも見えた。
「あれ?わりぃ間違えた!はっはっは」
「この……」
「だってお前らちょっと似てんだモン」
「気色悪いこと言わないでください。」
「あれ?お前光のこと大好きなのにそこは嬉しくねーの?」
「そっちじゃないです。」
ああ、俺の好きな女と似てるってのが嫌なわけね。
「まあそうだな、どっちかっつーとお前は光より…」
「…?」
「光の従弟に似てるな。」
「は?」
「あれ、知ってるよな?光臣っていう…」
「似てません。」
「え?」
「全然似てません。」
あれ、機嫌悪くなった。
「何?仲悪いの?」
「別に…アイツに興味すらありませんし。」
「へー!仲わりーんだな。はっはっは」
「……。」
黙り込んで俺を睨む奥村。やっぱこいつからかうのおもしれー。
「つーかお前らなんでここにいるの?」
「光舟に渡すものがあるから帰る前に寄ってくれって、光先輩に昨日言われてて…」
瀬戸が答えた時、廊下を挟んだ向こうのウォークインクローゼットの方から声がした。
「こうちゃんごめん、おまたせ。」
光が部屋に入ってきて、紙袋を奥村に手渡す。
「これ、こっちの別宅に置いてあった物なんだけど…お祖母様がたぶん、こうちゃんのおばさんのだろうって。ごめんね、返すの遅くなっちゃったけど…」
「…渡しとく。」
「うん、ありがとう。」
光は微笑んで、未だ笑いを堪えている瀬戸、不満気に俺を睨む奥村、ついつい笑いがこぼれてしまう俺を見渡した。
「何話してたんですか?」
「いや〜」
へらりと笑って先ほどの珍事を話そうとすると奥村に睨まれたので、少しだけはぐらかす。
「奥村と光臣って似てるよな〜って」
「え?」
…光の笑顔が消えた。
「似てませんよ。」
「…え?でも、目元とかめっちゃ…」
「全然似てません」
デジャヴだ。
奥村はどこか勝ち誇った笑みを浮かべて俺を見る。なんなんだ、こいつら光臣のこと毛嫌いしてるのか?
「それじゃ…俺たちは帰ります」
奥村が立ち上がり、瀬戸と連れ立ってドアへ向かう。気を付けてね、と見送りに行く光のあとを、俺ものんびりとついていく。
「…光。」
出て行く間際、奥村は振り返り、俺をちらりと睨んで、光を真剣に見つめる。
「何かあったらすぐ俺を呼んで。助けに来るから…」
「コラコラ…新婦を死地に赴く戦士みたいに言うなよ」
俺を威嚇しつつ瀬戸に引き摺られて、奥村はやっと帰っていった。
「あいつほんとお前のこと好きだよな〜」
「心配してくれてるんですよ。昔…色々あった時を知ってるから。」
色々?疑問符を浮かべて光を見ると、光はおざなりに微笑んで、わき腹を撫でた。
「この傷のこととか…」
…なるほどね。
数少ない光の味方だったのかな。あいつなりに、光を守りたいんだろう。
「さて…」
俺はベッド脇の時計を見て、口元を緩める。
「チェックアウトまでまだ時間あるけど…何する?」
光は俺が含ませた意味に気付いたようにはにかんで、俺の首に腕を回した。