「よー新婚!子供の予定はどーだよ?」
「いやあ当分ないっす!まだふたりっきりでいたいんで!」
「うわクソうぜえ!!」
「はっはっは」

先輩からのからかいを打ち返し、荷物を持って席を立つ。

「じゃ 俺はそろそろ失礼します」
「あぁ?もう?」
「新婚なんで〜」
「テメー明日の練習覚悟しとけよ」
「はっはっはっは」

いや〜幸せだわ。新婚つって飲み会断る口実になるし、家に帰れば光がいるし。
タクシーに乗りひとっ走り。マンションにつきエレベーターに乗り、部屋のドアを開ける。すると聞こえる笑い声。足元を見ると、見覚えのあるスニーカーが揃えて置いてあった。牧瀬来てんのか。

「ただいま〜」

リビングに入ると、ソファにいた牧瀬と光が振り返る。

「おかえりなさ〜い」

グラスを掲げて上機嫌な牧瀬と、にこにこグラスを握っている光。

「あれ…酒飲んでるの?」
「そりゃあたまには光だって飲みたいですよぉ。ねぇ光?」
「えへへへ」

もう酔ってるし。まぁ牧瀬とだし家だし…大丈夫か。

「ほら光〜愛しの旦那様が帰って来たよ〜」
「んふふ」
「嬉しい?」
「嬉しい…」
「じゃあ私はお邪魔だから帰ろうかな?」
「えぇ〜司帰っちゃうの…?」

服を掴まれてご満悦な顔で、牧瀬は俺を振り返る。

「光って酔っぱらうと可愛くなりますよね〜」
「…お前遊んでない?」
「だって面白いんですもん。」

本当に遊んでるのかよ。

「…あ、迎えが来たから本当に行かなくちゃ。」

牧瀬は点灯したスマホの画面を見て呟いた。

「じゃあね光…あ、寝てる。」

光は牧瀬に掴まったまま静かに寝息を立てていた。牧瀬はその手をそうっと解き、慎重に光を横たわらせ、立ち上がる。

「じゃ、お邪魔しました〜。」
「おー、気を付けて」

牧瀬は小声で俺に挨拶をして、帰っていった。
ソファに横たわる光を見る。まるで――そこに綺麗に飾られた人形か、天使を描いた絵画のような…美しい寝顔。もし本当に神様がいるなら…光は、間違いなくこの美しさを与えられたんだろうな。
未だに、触れることに緊張する。
ベッドに運んでやらなきゃ、風邪引くな。そう思って、そっと肩に触れ、背中に手を回し、抱き上げようとすると――光が目を覚ました。
まだ頬が赤い。寝ぼけているのか酔っているのか、ぽーっとした目で俺を見つめる。

「一也さん…」

光はうっとりと俺を見つめると、手を伸ばして俺の顔を撫でた。そして…ちゅ、と口づけをした。
…なんか、照れる。

「…光、」
「ん」

言いかけた俺の口を、また触れるだけの口づけで止める。それから何度か、ちゅ、ちゅ、とキスを繰り返した。

「…ちょっと待て」
「んん…」

光の口を押える。…やっぱ酔ってんなこいつ。いや、嬉しいけど…本人無意識だし、俺の理性も危ないし…。

「一也さん」

光は俺の手を絡め取ると、またうっとりとした目で俺を見つめた。

「大好き」
「…っ」

な…ド直球。普段そんな風に言ってくれねーから余計にクるな…。

「…そんなに好きなの?」
「大好き…」
「どのくらい?」
「いちばん好き」

やべー、楽しくなってきた…牧瀬のこと言えねーな。

「…俺のどこが好き?」
「…顔」
「え」
「…と、声…と、美味しいごはんつくってくれて…優しいところと、野球してるときかっこいいところ……あと、寝顔が可愛いところと…」
「あの…ごめん、もういい、わかったから…」
「あと…エッチが上手」
「えっ…」

な…何を言い出すんだ突然。でも…ほ、本音…なんだよな?
うわ…もう…酔っ払いを襲うわけにはいかねーし、俺の理性を壊さないでくれよ。光、酔っぱらってる間の記憶はなくなるしなぁ…。

「…俺とするの、そんなにいいの?」

こくり、と光は頷く。

「でも、最近あんまりしてくれねーじゃん」
「…恥ずかしいんだもん…」

なんだ…恥ずかしがってたのか。うわー、もしかして…聞けばなんでも答えてくれるんじゃね?今…。

「…どこが一番気持ちいい?」
「……。」

光はもどかしげに目を伏せる。

「…どこでも」
「え?」
「一也さんが、触ってくれたら…気持ちいい」
「え…。」

やばい…理性が吹っ飛びそう。

だけど…ここまで答えてくれるなら…普段聞けないことを訊くチャンスかも…。

「なあ…1年前、なんで俺と別れたの?」
「…一也さんのことが、好きで」
「……。」
「好きすぎて…こわかった」
「……。」
「いなくなったら…生きていけなくなりそうで…」

小さな声で、光は呟いた。そんなふうに…思ってたのか。でも…じゃあ…どうしてあの時…。
…聞いてみようか。どうせ…酔いがさめたら、光は何も覚えてないんだし…。

「じゃあ…なんで、倉持と寝たの。」
「……。」

声が少し震えた。…怒ってるわけじゃない。責めてるわけでも。俺にも非はあったと思うし…倉持を憎む気持ちも…ない。だけど…このことを考えると、まだ少し、体が震える。

「…そうしないと…」

光はどこか悲しそうに言った。

「ずっと…傍に、居てくれる気がしたから…」

吐く息が震えた。
つまり…倉持と付き合うつもりじゃなくて、むしろ別れるために?

「なあ…光、倉持のこと、本当は――」

言葉の途中で、光の頭が俺の肩口にもたれてきた。首筋にかかる静かな吐息。

「…光?」

返事はない。…眠ったのか。
俺は抱いていた細い体をそのまま抱き上げて、そっと寝室へと運んだ。

 


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