ランニングから戻ると、ロッカールームのベンチに倉持が座っていた。スポーツドリンクを飲みながら、肩にイヤホンをかけて。

「よお」
「おう」

短い挨拶を交わす。別にいつも通り…だけど、倉持に会うのは久々だ。結婚式以来…か?そういやこいつ、最近家に来てねぇな…前はよく飯たかりにきてたのに。
倉持はおもむろに立ち上がると自分のロッカーへ行って、中からはがきのようなものを取り出すと、それを俺に差し出した。

「これ。お前の嫁さんに渡してやって」
「え…何?」

嫁さん、て。違和感ありまくり。
はがきを受け取って表を見る。青道高校…同窓会のお知らせ?しかも2枚。

「昨日沢村から頼まれてよ。1枚は牧瀬に。…幹事がふたりの住所わかんねーっつうんで、沢村に渡されたんだとよ。」
「ふーん…」

ふたりとも芸能人だし…住所は伏せてるもんな。

「さんきゅ。渡しとくわ」
「おう」

倉持は踵を返し、ロッカーから荷物を出して肩にかけた。…もしかして、これを渡すために俺を待ってたのかもしれない。

「…なあ」

その背中に思わず声をかけて、戸惑った。うーん…飯に誘うのもなんか不自然だよな。また前みたいに家に入り浸ってほしい…っつーわけでもねーし。ただ…なんとなくこいつとギクシャクすると、調子が狂う。
だけど、こいつは光のことが好きで…たぶん今、それをこいつの中で清算しようとしてるところなんだ。だから…そっとしておくべきだよな、たぶん。

「…気を付けて」
「は?意味わかんねー。じゃあな」

倉持は俺を気味悪がるように一瞥して、片手を挙げて出て行った。


***


「同窓会?」

はがきを見つめ、光は目を瞬く。

「そー、倉持経由で沢村から。」
「……。」
「せっかくだし行って来れば?」

なんだか行きたそうに見えたから、背中を押すつもりで言うと、光ははにかんだ。

「司が行くなら…行こうかな…」
「そうだなー、牧瀬も一緒なら俺も安心だわ」

からかうように言うと、光は笑いながらスマホを弄りだす。牧瀬に連絡するのだろう。
スマホを耳に当て、光ははがきを眺める。

「…あ、司?」

光が電話をするのを聞きながら、俺はキッチンに向かってコーヒーを淹れはじめた。

「同窓会の話聞いた?…え、そうなの?そうなんだ。うん…わかった。え?ううん、いいよ。大丈夫。はーい。またね。」

電話を切る光。随分早いな。

「司、今沢村くんちでいつもの皆と飲んでて、ちょうど同窓会の話をしてたみたいです。」
「へ〜。ほんっと友達多いな、アイツ…」
「それで、金丸君が車を出してくれるみたいで、司と私も乗せてくれるって。」
「ふーん。」

まぁ金丸なら安心か…。

「よかったじゃん。行って来いよ。」
「…はい。」

光は頷いて、そわそわと寝室へ行って、楽しそうにクローゼットを覗きはじめたのだった。


***


「つーか、ヤリまくりだろ。新婚だぞ?」

無機質な鉄扉の前で、俺は立ち止まった。

「来週には妊娠報道出るんじゃね?」
「つーかもうデキてたりして」
「うわ、ありえる」

「……。」

ドアノブを握って、離す。…だめだ。今行ったら…殴るビジョンしか浮かばねぇ。

「でもヤリまくりにもなるって。あの乳をいつでも揉めるんだぜ?」
「俺も揉みしだきてぇ〜」
「感度良さそうだよな〜」
「つかあの顔であの体なのに、一人としかヤッたことねーとか嘘だろ。」
「絶対あと10人はヤッてるよな。」
「普通にヤリマンだろ。エロそうな顔してるし…」

ダメだ、殴る。どうなってもいい。絶対殴ってや…

――ゴガァン!!

突然の鉄板を叩きつけたような爆音に、俺は固まった。ドアの向こうは静まり返っている。そして間を開けず、目の前のドアが勢い良く開いた。そこにいた人物――倉持は、ドアの前に立っていた俺に驚いたように足を止め、睨んで、無視して歩いていく。部屋の中にさわさわと喧騒が生まれるのを背に、俺は倉持の後を追った。

「――倉持。」

廊下の自販機の前に、倉持はいた。いつもと同じように――ポケットから小銭を出して、コーラを買う。ガコンとペットボトルの落ちる音が、いつもより小さく聞こえた。

「あのさ…」

そこまで言って、口をつぐむ。お礼を言うべきなのか…理由を問うべきなのか。
倉持は俺を気にも留めていないような顔をして、コーラを飲んだ。

「…今日、夕飯食いに行かねぇ?」
「……。」

倉持はペットボトルの蓋を閉め、俺をちらりと見た。その目には疑問が浮かんでいて、その理由にも、あ、そうか、と思い当たる。

「…光は今日、同窓会でいねーから」
「…あぁ」

倉持は腑に落ちたようにうなずいた。

「別にいいけど…」

誘いを受けるとき、面倒くさそうに言うのはこいつのいつもの癖だ。

「お前のおごりな。」
「え、なんで?」
「…ロッカー弁償になりそうだから」

そう呟いた倉持の、バツが悪そうな顔を俺は思わず笑ってしまって、久々に倉持のタイキックを食らうのだった。

 


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