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予定より30分早く事務所ビルに行き、光のマネージャーを探すと、暢気に事務室でコピーを取っていた。
「ちょっと…ちょっと!」
「え?あ、牧瀬さん!おはようございます。」
本当にのんきなんだから…この事務所の看板女優のマネージャーである自覚、あるのかなあ…
「コピーなんか取ってる場合じゃないでしょ、昨日言ってたやつはどこに置いたの?」
「え?今朝メールしましたよね?」
「え…メールなんか来てないわよ、ほら」
マネージャーの無邪気なとぼけ顔に一抹の不安を感じながら、メッセージ画面を見せる。それでも納得がいかない様子で、マネージャーは自分のスマホを取り出した。
「え〜?おかしいですよぉ、絶対送りましたって……」
そう言いながらスマホを操作するマネージャーの顔が、だんだんと青ざめていった。
「…どうしたの?」
「…やばい…」
その呟きにぞっとした。この暢気な子がやばいと言うのだから、相当やばいにきまってる。
「ねえ、なんなの?やばいって?」
「これ…」
マネージャーはスマホを私に差し出した。
「メール…間違えて光さんに送ってました…」
「…はぁ!?」
スマホを奪い、内容を見るなり、私は事務室を飛び出した。まだ9時半だから、光より先に会議室に行って箱を隠せば…!廊下を駆け抜け、第2会議室の扉を開ける。そして…立ち尽くした。
小さな段ボール箱の前で、便せんを広げて読んでいる光がそこにいた。今日は打ち合わせの後レコーディングと撮影だけだから、ゆるく髪をまとめ、ゆったりとしたブラウスにパンツ姿というラフなスタイル。メイクも淡い。あぁ、相変わらず綺麗だなぁ…って、そうじゃなくて!!
「光…それ……」
光は顔を上げ、入口に立ち尽くす私と、今やっと追いついてきたマネージャーを見つめた。
「これが何なのか、詳しく教えてくれる?」
「…はい。」
腕を組んでそう言う美しい彼女に、私もマネージャーも頷いた。
***
机上に並べられた数枚のコピー用紙。どれも定規で引いたような直線的な文字で、短い文章がつづられている。
『玉城光は男好き』
『ブスを映すな』
『御幸一也と別れろ』
『尻軽ヤリマン女』
それらを見つめながら、私は話を始める。
「これは…ちょうど、光が婚約を発表した頃から届き始めたの。」
「じゃあ…もう1年くらいこんなのが?」
「うん…」
「…どうして話してくれなかったの?」
光の言葉に、マネージャーが得意げな顔になって私を一瞥したのを睨み返して、俯く。
「だって…光、こんなの知ったらまた無茶しちゃうと思って…」
「……。」
思うところがあったようで、光は少し黙り込む。
「…確かに、昔の私だったら…傷ついて、独りで悩んで、またみんなに迷惑をかけてたかもしれない。」
「光…」
「でも、もうあんなことしないから。だから、わかってることがあるなら全部話して。」
「でも…危ないよ!こんなの送ってくる奴と関わるのは…。私たちで何とかするから、光は無視して…」
「危ないからこそ、知っておきたいの。」
はっとした。そうだよね…危険は知らなきゃ、避けようがない。光の辛い気持ちを知らなきゃ、守りようがないのと同じように…。
「…わかった。ごめん…話す。全部。」
私が頷くと、光は穏やかに微笑んだ。
「で…今わかってることは?」
「たぶん…それは全部、同一人物から送られてきてること。全部同じ文字の書き方をしてるから…他のも保管してあるはず。見る?」
「うん。」
光が頷いて、私はマネージャーに目配せし、今までに届いた手紙を取りに行かせる。
「それから…ここにあるものでもわかるけど、犯人は多分女性。それで…御幸さんのファンの人だと思う。」
「……。」
「このほかにも、別れろとか、捨てられろとか、騙して結婚したとか…そういう手紙があったから」
光は黙り込んでいたが、その顔にはどこか思い出すような思案が混じっている。
「…どうかした?」
なんだか気になって聞いてみると、うーん、と光は唸った。
「昔もこんなことあったなあと思って。」
「え?…昔って?」
「高校の時…一也さんと知り合ってから、これと似たような、変な手紙が来るようになって」
「え…?そうなの?」
「うん。付き合い始めてからはさらに増えた。まあ…一也さんのことが好きな女子生徒からだろうと思って、どうしようもないし無視してたけど…文字の書き方が一緒だったから、なんか気になって…」
…それは気になる。
「その手紙、残ってないの?」
「私は持ってるのも嫌で、全部捨てちゃったけど…」
「そうだよね…」
「でももしかしたら…東条が持ってるかも」
「え!?」
な…なんで!?
「1年の時…東条に愚痴ったら、こういうのは捨てない方がいい、って預かってくれたことがあったから」
「…へぇ」
「でももう、さすがに捨てたかな…何年も前だもんね。」
「一応聞いてみよう!」
言うが早いか、私はスマホを取り出した。手が空いたら電話ください…、と。よし、送信完了。
「お待たせしました〜」
ひいひい息を荒げながら、マネージャーが段ボール箱を抱えて部屋に戻ってきた。私たちは早速それを開けて、中の紙を机上に並べるのだった。
「ちょっと…ちょっと!」
「え?あ、牧瀬さん!おはようございます。」
本当にのんきなんだから…この事務所の看板女優のマネージャーである自覚、あるのかなあ…
「コピーなんか取ってる場合じゃないでしょ、昨日言ってたやつはどこに置いたの?」
「え?今朝メールしましたよね?」
「え…メールなんか来てないわよ、ほら」
マネージャーの無邪気なとぼけ顔に一抹の不安を感じながら、メッセージ画面を見せる。それでも納得がいかない様子で、マネージャーは自分のスマホを取り出した。
「え〜?おかしいですよぉ、絶対送りましたって……」
そう言いながらスマホを操作するマネージャーの顔が、だんだんと青ざめていった。
「…どうしたの?」
「…やばい…」
その呟きにぞっとした。この暢気な子がやばいと言うのだから、相当やばいにきまってる。
「ねえ、なんなの?やばいって?」
「これ…」
マネージャーはスマホを私に差し出した。
「メール…間違えて光さんに送ってました…」
「…はぁ!?」
スマホを奪い、内容を見るなり、私は事務室を飛び出した。まだ9時半だから、光より先に会議室に行って箱を隠せば…!廊下を駆け抜け、第2会議室の扉を開ける。そして…立ち尽くした。
小さな段ボール箱の前で、便せんを広げて読んでいる光がそこにいた。今日は打ち合わせの後レコーディングと撮影だけだから、ゆるく髪をまとめ、ゆったりとしたブラウスにパンツ姿というラフなスタイル。メイクも淡い。あぁ、相変わらず綺麗だなぁ…って、そうじゃなくて!!
「光…それ……」
光は顔を上げ、入口に立ち尽くす私と、今やっと追いついてきたマネージャーを見つめた。
「これが何なのか、詳しく教えてくれる?」
「…はい。」
腕を組んでそう言う美しい彼女に、私もマネージャーも頷いた。
***
机上に並べられた数枚のコピー用紙。どれも定規で引いたような直線的な文字で、短い文章がつづられている。
『玉城光は男好き』
『ブスを映すな』
『御幸一也と別れろ』
『尻軽ヤリマン女』
それらを見つめながら、私は話を始める。
「これは…ちょうど、光が婚約を発表した頃から届き始めたの。」
「じゃあ…もう1年くらいこんなのが?」
「うん…」
「…どうして話してくれなかったの?」
光の言葉に、マネージャーが得意げな顔になって私を一瞥したのを睨み返して、俯く。
「だって…光、こんなの知ったらまた無茶しちゃうと思って…」
「……。」
思うところがあったようで、光は少し黙り込む。
「…確かに、昔の私だったら…傷ついて、独りで悩んで、またみんなに迷惑をかけてたかもしれない。」
「光…」
「でも、もうあんなことしないから。だから、わかってることがあるなら全部話して。」
「でも…危ないよ!こんなの送ってくる奴と関わるのは…。私たちで何とかするから、光は無視して…」
「危ないからこそ、知っておきたいの。」
はっとした。そうだよね…危険は知らなきゃ、避けようがない。光の辛い気持ちを知らなきゃ、守りようがないのと同じように…。
「…わかった。ごめん…話す。全部。」
私が頷くと、光は穏やかに微笑んだ。
「で…今わかってることは?」
「たぶん…それは全部、同一人物から送られてきてること。全部同じ文字の書き方をしてるから…他のも保管してあるはず。見る?」
「うん。」
光が頷いて、私はマネージャーに目配せし、今までに届いた手紙を取りに行かせる。
「それから…ここにあるものでもわかるけど、犯人は多分女性。それで…御幸さんのファンの人だと思う。」
「……。」
「このほかにも、別れろとか、捨てられろとか、騙して結婚したとか…そういう手紙があったから」
光は黙り込んでいたが、その顔にはどこか思い出すような思案が混じっている。
「…どうかした?」
なんだか気になって聞いてみると、うーん、と光は唸った。
「昔もこんなことあったなあと思って。」
「え?…昔って?」
「高校の時…一也さんと知り合ってから、これと似たような、変な手紙が来るようになって」
「え…?そうなの?」
「うん。付き合い始めてからはさらに増えた。まあ…一也さんのことが好きな女子生徒からだろうと思って、どうしようもないし無視してたけど…文字の書き方が一緒だったから、なんか気になって…」
…それは気になる。
「その手紙、残ってないの?」
「私は持ってるのも嫌で、全部捨てちゃったけど…」
「そうだよね…」
「でももしかしたら…東条が持ってるかも」
「え!?」
な…なんで!?
「1年の時…東条に愚痴ったら、こういうのは捨てない方がいい、って預かってくれたことがあったから」
「…へぇ」
「でももう、さすがに捨てたかな…何年も前だもんね。」
「一応聞いてみよう!」
言うが早いか、私はスマホを取り出した。手が空いたら電話ください…、と。よし、送信完了。
「お待たせしました〜」
ひいひい息を荒げながら、マネージャーが段ボール箱を抱えて部屋に戻ってきた。私たちは早速それを開けて、中の紙を机上に並べるのだった。