コンビニの雑誌コーナーに彼女の顔が並んでいた。
頬杖をついた手の赤く塗った爪と赤いリップが白い肌にくっきりと映え、薄い水色のガラス玉みたいな瞳で気だるげにカメラを見つめる美しい顔。『玉城光セカンド写真集発売決定! 特別インタビュー掲載』と書かれたファッション雑誌。最後の1冊。一度通り過ぎて、サイダーを取って、また雑誌コーナーに足を運ぶ。迷いに迷って、だけど決断する前に足が動いて、その雑誌に手を伸ばしかけて――

「あっ!あったあった!これこれ!今月は玉城光の特集なの!」
「えーマジじゃん!てか最後の1冊だし!後で見せて〜」

バタバタと騒がしく駆けつけてきた女子高生たちに雑誌をかっさらわれた。行き場のない手を下ろす。…いや、買ってもしょうがねえだろ。むなしくなるだけだし…明日から練習に復帰するんだ、切り替えろ。
ため息を吐き、店の外を眺める。外は自分が入店する前よりも雨脚が強まっていた。あーあ、バイクで来てるっつーのに…。店の前に停めてあるバイクを眺める。あの子を後ろに乗せて、海まで走ったっけ…。あーだめだ、何もかもを結び付けて考えちまう。
考えを振り払おうとしたとき、そのバイクの傍に、雨から逃げるように一人の女性が駆けてきた。コンビニの狭い屋根の下にもぐりこんだ彼女は、深くかぶった黒いキャップに金色の髪を仕舞いこんでいて、ゆるいパーカーのフードを提げた白いうなじが寒々しく見えた。だけどその所作…キャップのつばの下からちらりと見えた口元、細い首筋、スマホを取り出しどこかへ電話をかける小さな手の細い指先…すべてから目が離せなかった。すごく…綺麗で。思わず見とれて、彼女が電話相手と話す赤い唇が動くのを、ただただ見つめた。話はそう長くかからずに終わり、彼女は電話を切る。そして視線を感じたのか――ふと顔を上げてこちらを見た。その顔を見て…俺は息を飲んだ。
玉城光。いや…御幸光。俺はまだその名前で呼んだことはない。…光。光が…そこにいた。
光はすぐにうつ向いて目を逸らした。彼女のうなじがこちらを向く。…ひとりなのか?御幸は何をしてんだよ。牧瀬も一緒じゃねえのかよ…。
俺は足早にレジへ向かい、持っていたサイダーとスナック菓子をサッカー台へ置く。それからレジ横のライターをひとつ取って置き、研修中の札をつけた若いバイトの女に言った。

「セッタ…、セブンスター。」

訝し気に、セッタ…、と繰り返すバイトに言い直す。バイトは戸惑いをあらわにして慌てた様子で煙草を取りに行く。

「違うその隣。白いの。」
「す、すいません…」

ペコペコと腰を低くして、バイトは慣れない手つきで会計を進める。それがもどかしくて、金額が表示されるより先に、俺は千円札を2枚サッカー台へ置く。店の外にはまだ彼女が一人で立っている。…迎えでも待ってるのか?

「1380円になります。二千円からお預かりいたします。」
「……。」
「えー…と、620円のお返しになります。」

たどたどしい手からお釣りを受け取って、もどかしく財布に突っ込んで、レジ袋を引っ掴んで出口へ向かう。ありがとうございましたー、と慣れない声が背中を追いかけてくる。
店を出てバイクに向かう。彼女の前を何食わぬ顔で通り過ぎ、そ知らぬふりでバイクに身を寄せる。

「……。」

光はちらりと俺を見て、何も言わず足元を見つめた。ここを去るのも、声をかけるのも気がとがめたのだろう。彼女なりに…俺に避けられているとでも思っているのかもしれない。だから、俺がバイクを挟んで彼女の隣に立ち、煙草を吸いだすと、彼女は不思議そうな顔でまた俺を見た。俺は少しむせて、また煙草を吸う。くそー、禁煙順調だったのに…。久々に吸ったら結構キツい。
だけど…このタバコを吸っている間は、ここに立っていてもいいだろ。誰かを待っている女と、煙草を吸っている男。何の関係もない、他人のままならば。

時間が酷く遅く流れていくように思えて、静寂をかき乱す雨音がありがたかった。彼女は少し寒そうに腕を抱いている。その広めの袖口から覗く指先は…遠い昔の記憶をおぼろげによみがえらせた。また、あの時の関係に戻っちまったな。彼女には御幸がいて。俺はろくに話しかけることもできないで。
もうこんなふうに悲しみに浸るのはやめたいのに…今はまだ、彼女を忘れたくはないとも思う。
コンビニの前に黒い車が停まる。その運転手を見て、俺は煙草を灰皿に放り込み、バイクに跨った。車のドアが開く音を背に、エンジンをかき鳴らす。その車よりも先に…どっちへ向かうかも覚られぬほど速やかに、俺はコンビニを後にした。
運転席の御幸は俺に気付いただろうか。…気付いただろうな。だけど…どうせ何もできないこともわかっているはずだ。何かをするつもりもない。彼女を好きになったこと…後悔はしていない。することもできない。彼女にはたくさんのものをもらったし、好きになってよかったという思いさえある。だけど…もうこれ以上何をしても、この気持ちのままに彼女を追いかけた先には、ただ無駄に傷つくだけの残骸しかないことも、なんとなくわかる。
彼女との思い出は、綺麗なままで…完結したままで、閉ざしておきたい。彼女の幸せを願う気持ちだけを残して。

 


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