『玉城光、セカンド写真集 テーマは“光と闇”』
――奇跡の美少女としてモデルデビューを果たした記憶もまだ新しい彼女。驚くべき速さでの成長を遂げた今や、超人気モデル・大女優の名をほしいままにしている。清純で儚いイメージをそのままに、結婚という人生の節目を迎えてもなお衰えない人気を誇るその美貌は、まさに“奇跡”といえるだろう。ファースト写真集で衝撃の下着姿を披露したことも記憶に新しく、今年夏に公開された主演映画『水の中の声』では妖艶かつ耽美なベッドシーンでも話題になった。そうした性的魅力を魅せてもなお、彼女の清廉で純粋な魅力が衰えることはなく、今回発売が発表されたセカンド写真集『反射』でも、そうした彼女の二面化した美貌をあますことなく写し出している。

文章を指で流して、ページの下部に移る。購入ボタンはグレーに染まり、隣に予約と書かれた黄色いボタンが設置され、下には赤文字で『この商品は大好評につき完売しました。購入をご希望の場合はご予約をご利用ください。』と書かれている。今回の写真集は下着でも水着でもないのに、ファースト写真集を上回る売れ行きが期待される、とニュースでアナウンサーが言っていた。当たり前だ、だって…こんなに綺麗なんだから。見るたびに綺麗になる。だから、もう見たくねーんだけどな…

昨日から練習に合流し、試合に復帰するめども立ち、俺は順調に日常に戻っている。煙草は一日2,3本。辞めようと思えばいつでも辞められる数。でも…御幸の所に飯をたかりに行くことも、沢村や牧瀬が突然押しかけてくることも、彼女に――会いに行くきっかけもないこの場所では、他にやることもなくて、練習に明け暮れては煙草を吸い、ニュースやSNSを眺めている。

ニュースでは、結婚が発表されたばかりのモデルの写真集が、しかもヌードでもないのに、これほど売れるのは異例のことだという。馬鹿だな、と思う。あの子がこんなに綺麗なのは…御幸と一緒にいて、幸せだから…なのに。

スマホを切り、テレビをつけると、シャンプーのCMが流れていた。教会みたいな木造の荘厳な部屋の中、白いワンピース姿の女性が一人で歩いていて、鐘の音が響き、振り返る。絹のように光り輝く髪が揺れ、美しい顔がのぞく。チャンネルを変えると、天然水のCMで、白い喉に水滴を滴らせ、水を飲み込む彼女。また変えると、口紅のCMでも…。
またチャンネルを変えて、バラエティ番組を映した。ゲスト席には彼女の姿。芸能人が会いたい芸能人、という企画で、有名な芸人の指名で、彼女が呼ばれたらしい。結婚しても好きです!と告白する男に、はにかみ笑いをする彼女。なんで。なんでそんなに綺麗なんだ。なんで…どこを見ても彼女がいるんだよ。忘れたいのに。忘れなきゃならないのに。俺は…どうすればいいんだ。ずっと考えてるのにわからない。

あの夜…彼女がどうして自分に体を許してくれたのか、今なら少しだけわかる。
たとえ誰と寝ても――心は御幸だけのものだと…そう言ったんだ。そうしないと、俺が…いつまでも、彼女を求めるから。俺にしてあげられるのはここまでだと。…そういうことだろ?

『玉城さんとキスしたいけど無理だから、御幸選手にキスしてもらうわ!したら間接キスやん!』
『いや御幸選手も無理やろ!』
『じゃあせめて玉城さん、握手だけでもお願いします〜』
『オオ〜』
『うわっ…やらかいわ〜!すべすべ!手ぇちっさ!』
『お前セクハラやめーや!』
『っていうかお前、御幸選手と間接握手やで!』
『おっほんまやん!嬉しいわ〜〜〜ってなんでやねん!』
『わははは』
『いや御幸選手と握手もしたいですけどね!?意味が変わってきますわ!』

溢れるようなにぎやかな笑い声。

『玉城さんと御幸選手は高校時代どんな感じだったんです?』
『普段は悪戯ばっかりしてて…』
『悪戯!?どっちが?どんな?』
『例えば…向こうが虫を触ったハンカチを投げてきて、私がそれに虫の形のグミを包んで返しに行ったりとか』
『そんな青春あります!?』
『想像をはるかに超えてきた』
『あの天才御幸一也とこの奇跡の美女が虫で悪戯って!』
『でもこんっな可愛い後輩から虫のグミ仕込まれたハンカチ渡されてみ!?惚れてまうで!』

あー、あったなそんなこと…あのグミは俺が食ったんだけど。

『もう完全に両想いのやつやんかそんなん〜』
『周りやきもきしてたと思いますわ〜』
『それ御幸選手も気ィ引きたくて投げたんだと思いますわ』
『小学生が好きな子虐めるやつやな』
『高校生やっちゅーに』

思えば…その頃からもう、あいつらは、どこか二人だけの世界のようなものを持っていた。他のやつが入りづらいような…二人だけの距離。知らないところで繋がっているような特別感。きっと…お互いにお互いが特別で、お互いにそう思ってることも感じていて、そんな…奇跡みたいな出会いだったんだろうな。

『でもこんな美男美女、学校で目立ってたんとちゃいます?』
『モッテモテでしょふたりとも』
『なんかそういう苦労とかありました?』
『いえ…』

玉城さんの顔が一瞬強張ったように見えた。あの頃…嫌がらせだけでなく、あの気味の悪い手紙ももらってたんだもんな。誰にも言わず…一人で悩んでたんだよな。

『全然モテないし、内緒で付き合ってたし、面白いことは何もないですよ。』
『面白いことって!』
『モテへんとか嘘やん絶対〜〜』
『毎日ラブレターが靴箱からわんさか出てきたんちゃいます?』
『ないですよそんな漫画みたいなこと…』

いや、あっただろ…小さく笑いを零し、煙草に火をつける。

『嘘つけやモテモテに決まってるやんこんな可愛い子いたら〜』
『実際いましたよね?6年間片思いしてた人』
『ああ〜いましたね〜』

…ん?おいまさか…

『倉持選手!』
『いやでもわかるわ〜友達の彼女がこんな美人だったら好きになっちゃいますって〜』
『しゃーないしゃーない』

ハァ!?お…俺の名前を出すなよ!
ゲスト席で困ったように笑う彼女の姿に胸が苦しくなる。

『誰も言ってないだけで絶対倉持選手以外にもいると思いますわ』
『わかるわ〜あと誰怪しい?』
『沢村選手とか小湊春市選手とか…降谷選手とも仲良いやんな?』
『野球選手多いな!』
『玉城さん、青道大豊作世代と同級生やもんなぁ〜!』
『あと東条選手と金丸選手か?』
『仲良いん?』
『旦那さんの後輩でもあるので…今でも時々会いますね』
『ちょっと待って、旦那さんて言い方にやられた』
『玉城さんちょっと俺のこと旦那さんって呼んでみて?』
『なんでやねんいいかげんにせーやお前!』
『あと誰?怪しいん』
『俺あいつ怪しいと思うねん』
『誰?』
『牧瀬司』
『だからなんでやねん!』
『あながち否定できんからやめーや』

わははは…、と笑い声をどこか遠くに聞きながら、煙草の灰を落とすと、スマホが着信音を鳴らした。液晶画面には牧瀬司の文字。躊躇なく手に取って、通話ボタンを押す。

「はい」
『あ!倉持さんですか?』
「おう」

煙草を少し吸い、吐く。

『あの〜、ちょっとお話ししたくて…』
「いいけど。何?」
『光のことなんですけど』

ぎゅう、と胸が苦しくなる。

「…何?」
『例の手紙、またちょっと変なのが届いて』
「変って?」
『昨日事務所に届いたんですけど。…御幸先輩を汚した罰、その顔ごと消してやる…って』
「…え?」
『今…光、ドラマのロケで…こっちにいないんです。だから心配で』
「…だからって、なんで俺に…」
『光が今泊まってるホテル、倉持さんの遠征先の近くだから…』
「……。」
『何かあったら…お願いします。光のこと…』
「……。」
『今の光の連絡先、送っておきますから。じゃあ…もう切りますね。』

プツン、と通話が切れ、ほどなくしてメールが届く。牧瀬から、内容は電話番号のみ。…彼女の番号。昔の番号は、彼女の結婚式の夜に消してあった。なのに、また…つながっちまった。
もうほっといてくれよ。どうして俺なんだ。触れられないのに、ずっと想ってろとでもいうのか。

ソファに寝転び、ため息を吐く。

『玉城さん、ちなみに付き合うときはどっちから告白したんですか?』
『どっちから、というか…お互いに、っていう感じで』
『うわあ〜〜羨まし!』
『もうこれ以上聞くのあかんて〜〜胸が抉られる〜〜』
『アホか、そういう番組やっちゅうねん』

笑い声が響くのをむなしく感じながら、俺は目を閉じた。

 


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