128
「倉持。」
俺はビール瓶とグラスをテーブルに置き、ソファにどっかと座り込んだ。
「…なんだよ」
それまでとは違う態度の俺を前に、倉持は少しひるんだように立っている。
「まあお前も座れよ。少し話そう。」
「はぁ?…気持ち悪い、なんなんだよ。」
「この際だからはっきりさせよう。いつまでも俺と同居生活すんのも嫌だろ。俺も嫌だ。」
「……。」
倉持はしぶしぶソファに座った。俺はビールを注いだグラスをひとつ倉持に差し出す。
「まず…お前がここに入り浸る本当の理由はなんだ?それがわからないと、俺も話し合いようがない。」
「…別に、目的があるわけじゃない。光の傍に居たいだけで」
「光が好きだから?」
「そうだよ」
こいつ…やっぱり開き直りやがった。前は否定して隠してたくせに…。
「じゃあ頼むけど、光はもう俺と結婚してる。だから諦めてくれ。」
「それは無理。」
「なんで?」
「忘れらんねーって自覚したから。少なくとも当分は無理。」
「…なんでそんなに光のことが特別なんだと思う?」
「知らねーよ。好きなもんは好きなんだよ」
「じゃあちょっと考えてみて。忘れられない理由は?」
「……。」
倉持はビールの入ったグラスを飲みもせず見つめた。
「…初めて抱いた子だから」
「その理屈だと、俺も光もお互いが初めての相手なんだけど。」
「じゃあお前にもわかるだろ。特別な相手ってことが」
こいつ…同じ理屈で返してきやがった。
「…でも俺らとお前は違う。お前…光がどういうつもりでお前と寝たか、わかってるだろ。」
「わかってるよ。」
「本当か?じゃあ言ってみろよ。」
「…別れるため。俺と…お前とも。」
「…俺はそのあとプロポーズして結婚したんだっつーの。」
「でもその時はそうだっただろ。」
「あのな…」
だめだ…コイツ。話通じねぇ…。
いや…わざとはぐらかしてやがる。こうなったら…教えてやろうじゃねーか。光がどれだけ、俺のことが好きなのか。
***
「…それでなぁ、光は言ったんだよ。俺が触ってくれるなら、どこでも気持ちいいって」
「お前それ、下手くそだからはぐらかされたんじゃねーの?」
「それはありえねーな。上手いっていってたもん。ちゃんと毎回イッてるし」
「どうだろうな〜。女はイッてなくても演技できるからな〜。」
「…そういうお前は本当に下手くそだったみたいだけどな?」
「は?…なんでそんなことお前に分かるんだよ」
「光が酔ってた時に言ったんです〜気持ち良くないって」
「んな…わけねーだろ。喘いでたし…」
「さあな〜女は演技できるからな〜」
「テメ…お前が初めての時はどうだったんだよ!喘いでたか?ちゃんと!」
「俺の時は光も初めてだったんだから、そんな簡単にイケるわけねーだろ。」
「それにしたって喘ぎもしねーのはな〜。お前サイズにあぐらかいてテクニックが疎かなんじゃねーの?デカけりゃいいってもんじゃねーぞ。女はデカすぎるのも嫌らしいし。」
「んな…ことねーし。光もお前のより俺の方がいいって言ってたし」
「光がンなこと言うわけねーだろ!」
「本当だっつの!」
「悪いけど俺はテクニックでお前に負ける気がしねぇ。」
「よく言うよ。じゃあお前光の弱いトコ知ってるのかよ。」
「簡単だっつーの。…胸だろ」
「ふっ…それだけかよ。自信のわりに大したことねーな。」
「あ?…じゃあお前はいくつ知ってんだよ」
「なんでそんなことお前に教えなきゃならねーんだよ。オカズ提供してやるつもりはねーよ」
「テメーが先に振ってきたんだろーが」
「大体真っ先に胸なんて安直すぎるんだよ。やっぱ童貞はダメだな。どーせAVみたいに揉んだだけだろ?あれ見た目ほど女は気持ち良くないから。」
「ほ〜〜?じゃあ経験豊富な一也クンは一体どんなテクニックを持ってんだよ…?」
「いいか?セックスはな、まず女の気持ち次第で感度が全然変わ……」
「あのー…」
突然の第三者の声で、俺も倉持も肝を冷やして振り返る。…呆れた顔をした牧瀬が立っていた。
「光の代わりに荷物取りに来たんですけど…インターフォン鳴らしても出ないから、留守かと思って借りてきた鍵で入ってきちゃって。スミマセン」
「あ…いや…」
「お邪魔して悪いんですけど…荷物取る間、10分くらい、黙っててくれません?」
「…ハイ」
俺も倉持も意気消沈して黙り込む。牧瀬は失礼します、と寝室へ入っていき、クローゼットから光の着替えを取る。
「…牧瀬、光は?」
本人が来ないで代わりに牧瀬が来るってことは、やっぱり怒ってるんじゃ…。にわかに不安を感じてそう訊くと、牧瀬は着替えを畳みながら答えた。
「ホントは一緒に来るつもりだったんですけど、さっき急に奥村君が迎えに来て、別宅に行きましたよ。」
「え?…なんで?」
「なんか…この間の従弟との話し合いがこじれて、今日は祖父母さんも交えて食事をしながら話をするらしいですよ。」
「……。」
「連絡来てないんですか?」
きてねーから聞いてんだよ…。くそ、また蚊帳の外か。光…なんで俺に何も言ってくれないんだよ。
「着替えを取りに来たってことは…まだ帰る気はねーってことか?」
今度は倉持がそう尋ねた。牧瀬は持ってきたボストンバッグに服を詰めながら微笑んだ。
「んーそれはわかりませんけど…光、明日から泊りでロケなので。その荷物を取りに来たんです。」
「え?…どこに?いつまで?」
「隣県だから近いですよ。1泊2日だし。」
「そう…」
「じゃ、私はこれで。」
牧瀬は立ち上がり、玄関に向かう。
「あ…牧瀬。」
そのあとを、俺は咄嗟に追った。玄関で追いつくと、牧瀬はきょとんと俺を見上げる。
「光臣のこと…お前、何か知ってる?」
「まあ…少しは聞いてますけど…」
「本当か?教えてくれ。」
牧瀬は悩むように口を歪めて眉を下げた。
「私は部外者だし、光のおうちの事情も詳しくないので、情報に偏りがあるから…」
「……。」
「本人…は、明日からロケだし……奥村君にでも聞いた方がいいんじゃないですかね?」
「え…」
奥村…かぁ。素直に教えてくれるかな。
「じゃ、おやすみなさーい。」
牧瀬はいつもの明るい調子で言い残し、帰っていった。
リビングに戻り、一時休戦だと倉持に告げると、俺はスマホを取り出して奥村へメールを打った。
俺はビール瓶とグラスをテーブルに置き、ソファにどっかと座り込んだ。
「…なんだよ」
それまでとは違う態度の俺を前に、倉持は少しひるんだように立っている。
「まあお前も座れよ。少し話そう。」
「はぁ?…気持ち悪い、なんなんだよ。」
「この際だからはっきりさせよう。いつまでも俺と同居生活すんのも嫌だろ。俺も嫌だ。」
「……。」
倉持はしぶしぶソファに座った。俺はビールを注いだグラスをひとつ倉持に差し出す。
「まず…お前がここに入り浸る本当の理由はなんだ?それがわからないと、俺も話し合いようがない。」
「…別に、目的があるわけじゃない。光の傍に居たいだけで」
「光が好きだから?」
「そうだよ」
こいつ…やっぱり開き直りやがった。前は否定して隠してたくせに…。
「じゃあ頼むけど、光はもう俺と結婚してる。だから諦めてくれ。」
「それは無理。」
「なんで?」
「忘れらんねーって自覚したから。少なくとも当分は無理。」
「…なんでそんなに光のことが特別なんだと思う?」
「知らねーよ。好きなもんは好きなんだよ」
「じゃあちょっと考えてみて。忘れられない理由は?」
「……。」
倉持はビールの入ったグラスを飲みもせず見つめた。
「…初めて抱いた子だから」
「その理屈だと、俺も光もお互いが初めての相手なんだけど。」
「じゃあお前にもわかるだろ。特別な相手ってことが」
こいつ…同じ理屈で返してきやがった。
「…でも俺らとお前は違う。お前…光がどういうつもりでお前と寝たか、わかってるだろ。」
「わかってるよ。」
「本当か?じゃあ言ってみろよ。」
「…別れるため。俺と…お前とも。」
「…俺はそのあとプロポーズして結婚したんだっつーの。」
「でもその時はそうだっただろ。」
「あのな…」
だめだ…コイツ。話通じねぇ…。
いや…わざとはぐらかしてやがる。こうなったら…教えてやろうじゃねーか。光がどれだけ、俺のことが好きなのか。
***
「…それでなぁ、光は言ったんだよ。俺が触ってくれるなら、どこでも気持ちいいって」
「お前それ、下手くそだからはぐらかされたんじゃねーの?」
「それはありえねーな。上手いっていってたもん。ちゃんと毎回イッてるし」
「どうだろうな〜。女はイッてなくても演技できるからな〜。」
「…そういうお前は本当に下手くそだったみたいだけどな?」
「は?…なんでそんなことお前に分かるんだよ」
「光が酔ってた時に言ったんです〜気持ち良くないって」
「んな…わけねーだろ。喘いでたし…」
「さあな〜女は演技できるからな〜」
「テメ…お前が初めての時はどうだったんだよ!喘いでたか?ちゃんと!」
「俺の時は光も初めてだったんだから、そんな簡単にイケるわけねーだろ。」
「それにしたって喘ぎもしねーのはな〜。お前サイズにあぐらかいてテクニックが疎かなんじゃねーの?デカけりゃいいってもんじゃねーぞ。女はデカすぎるのも嫌らしいし。」
「んな…ことねーし。光もお前のより俺の方がいいって言ってたし」
「光がンなこと言うわけねーだろ!」
「本当だっつの!」
「悪いけど俺はテクニックでお前に負ける気がしねぇ。」
「よく言うよ。じゃあお前光の弱いトコ知ってるのかよ。」
「簡単だっつーの。…胸だろ」
「ふっ…それだけかよ。自信のわりに大したことねーな。」
「あ?…じゃあお前はいくつ知ってんだよ」
「なんでそんなことお前に教えなきゃならねーんだよ。オカズ提供してやるつもりはねーよ」
「テメーが先に振ってきたんだろーが」
「大体真っ先に胸なんて安直すぎるんだよ。やっぱ童貞はダメだな。どーせAVみたいに揉んだだけだろ?あれ見た目ほど女は気持ち良くないから。」
「ほ〜〜?じゃあ経験豊富な一也クンは一体どんなテクニックを持ってんだよ…?」
「いいか?セックスはな、まず女の気持ち次第で感度が全然変わ……」
「あのー…」
突然の第三者の声で、俺も倉持も肝を冷やして振り返る。…呆れた顔をした牧瀬が立っていた。
「光の代わりに荷物取りに来たんですけど…インターフォン鳴らしても出ないから、留守かと思って借りてきた鍵で入ってきちゃって。スミマセン」
「あ…いや…」
「お邪魔して悪いんですけど…荷物取る間、10分くらい、黙っててくれません?」
「…ハイ」
俺も倉持も意気消沈して黙り込む。牧瀬は失礼します、と寝室へ入っていき、クローゼットから光の着替えを取る。
「…牧瀬、光は?」
本人が来ないで代わりに牧瀬が来るってことは、やっぱり怒ってるんじゃ…。にわかに不安を感じてそう訊くと、牧瀬は着替えを畳みながら答えた。
「ホントは一緒に来るつもりだったんですけど、さっき急に奥村君が迎えに来て、別宅に行きましたよ。」
「え?…なんで?」
「なんか…この間の従弟との話し合いがこじれて、今日は祖父母さんも交えて食事をしながら話をするらしいですよ。」
「……。」
「連絡来てないんですか?」
きてねーから聞いてんだよ…。くそ、また蚊帳の外か。光…なんで俺に何も言ってくれないんだよ。
「着替えを取りに来たってことは…まだ帰る気はねーってことか?」
今度は倉持がそう尋ねた。牧瀬は持ってきたボストンバッグに服を詰めながら微笑んだ。
「んーそれはわかりませんけど…光、明日から泊りでロケなので。その荷物を取りに来たんです。」
「え?…どこに?いつまで?」
「隣県だから近いですよ。1泊2日だし。」
「そう…」
「じゃ、私はこれで。」
牧瀬は立ち上がり、玄関に向かう。
「あ…牧瀬。」
そのあとを、俺は咄嗟に追った。玄関で追いつくと、牧瀬はきょとんと俺を見上げる。
「光臣のこと…お前、何か知ってる?」
「まあ…少しは聞いてますけど…」
「本当か?教えてくれ。」
牧瀬は悩むように口を歪めて眉を下げた。
「私は部外者だし、光のおうちの事情も詳しくないので、情報に偏りがあるから…」
「……。」
「本人…は、明日からロケだし……奥村君にでも聞いた方がいいんじゃないですかね?」
「え…」
奥村…かぁ。素直に教えてくれるかな。
「じゃ、おやすみなさーい。」
牧瀬はいつもの明るい調子で言い残し、帰っていった。
リビングに戻り、一時休戦だと倉持に告げると、俺はスマホを取り出して奥村へメールを打った。