135
休日の昼前頃。俺は御幸のマンションを訪れていた。試合で訪れた地方の珍しい酒を買ったから、一緒に飲もうかと思ったのだ。マンションのエントランスに入ると、インターフォン付近に見慣れない張り紙があった。
『不審者注意!』
――近隣で不審者の目撃情報がありました。戸締り・夜間の外出にはご注意ください。
物騒だな。この辺りは高級住宅街だし、治安はいいと思っていたけど。
インターフォンで押しなれた番号を押し、御幸を呼び出す。すぐに応答があって、自動ドアが開錠された。ロビーに入り、エレベーターに乗り、御幸の部屋へ向かう。部屋のインターフォンを鳴らすと、ドアはすぐに開いた。
「おう、入れよ」
「おー、邪魔するぜ」
リビングに行くと、ソファ前のコーヒーテーブルにマグカップが一つ置いてあり、テレビがついていた。
「光は?」
「一言目がそれかよ。昨日遅くまで仕事だったから、まだ寝てるよ。」
「ふーん」
御幸はやれやれとソファに座る。
「これ、土産。後で飲もうぜ」
「おーさんきゅ」
「ここ置いとくわ」
キッチンに酒瓶の入った紙袋を置いた時、寝室のドアが開いた。薄手のシャツにショートパンツ姿の光が、寝ぼけ眼でやってくる。まだ目がちゃんとあいてねーじゃねーか…可愛い…
「おはよ」
「ん…」
御幸が声をかけると、光は目を擦りながら御幸の所へ歩いて行って、ソファに膝立ちで登り、御幸の膝の上に跨った。御幸は苦笑したまま固まり、光はその御幸の顔を両手で包み、そのまま顔を近づけてゆっくりとキスを始める。ちゅ、…ちゅ、と音を立てて、2,3度濃厚なキスをすると、光は御幸の顔をうっとりと眺めて、そのまま抱きしめた。む…胸が顔に…
「一也さん…」
「…光、ちょっと待って」
御幸が光の体をやんわりと押しのける。
「…倉持、来てる」
そう言いながら御幸が俺の方を指すと、光は目を丸くして俺を見て…顔を赤くした。
「ご…ごめんなさい」
すぐに立ち上がって、逃げるように洗面所へ駆け込む光。御幸は赤い顔のまま俺を振り向いて、苦笑いを浮かべた。
「…な?」
「な?じゃねーよ。死ね」
「いや、もーマジで心臓がもたない…」
「嫌ならいつでも代わるぜ?」
「…それはダメ」
チッ。自慢にしか聞こえねーっつの。
「コーヒーもらうぜ」
一言断って、カップにコーヒーを注ぎ、砂糖とミルクを入れてソファへ持っていく。そのままニュースを二人で眺めていると、光がまだ顔を少し赤くしたまま、だけどさっきよりさっぱりとした様子で洗面所から出てきた。そしてガードの甘い部屋着のままダイニングテーブルへ向かうと、そこに置いてある郵便物に目を通し始める。ショートパンツから伸びる白い脚がまぶしい。柔らかそうな太腿。絶妙な曲線を描くふくらはぎ。ほんのりと紅い小さな踵とつま先。……あー、なんか、ムラムラして…
「コラ」
ベシン、と薄い雑誌が俺の後頭部を叩いた。チッ…見てんのバレたか。
「一也さん、これ何ですか?」
光の声がして、俺も御幸も振り返る。光が手に持っていたのは小さなウサギの置物。プラスチックのようなものでできていて、たいして可愛くもないうえに薄汚れている。今時子供でも喜ばないだろう。
「あーそれ、郵便受けに入ってた」
「ふうん…マンションの子が入れちゃったんですかね?」
「かもな。あとで管理人に渡しとく」
御幸の言葉を受けて、光は納得したようにウサギの置物をテーブルの上に戻した。それからのんびりとキッチンへ行って、マグカップを取り出す。御幸は立ち上がってその背中に歩み寄り、小さな手からマグカップを取り上げた。
「俺がやっとくから、お前は着替えて来なさい。」
「…はぁい」
大人しく従って寝室に入る光。はぁ…いいなー、光との生活…。
「…なんだよ」
マグカップにコーヒーとミルクを淹れ、かき混ぜながら御幸が呟く。
「いや?お前も変わったなーと思って。」
「…何が?」
「昔は光からメールの返事がこねーっつって一日中くよくようじうじ…」
「おまっ……ちょ…黙れ!」
焦ったように言葉を乱す御幸を見て少し清々していると、寝室のドアがそっと開いて、光が顔を覗かせた。
「一也さぁん…」
弱弱しげに泣きそうな顔になって御幸を呼ぶ光…。かっ…可愛すぎる…!!しかも、ちらりと見える細い肩にはキャミソールと下着の紐が見えて、つまり、まだ服を着てない状態なわけで…
「何、どしたの」
御幸は慌てて駆け寄って、光を俺から隠すように立ち、俺を振り返る。
「入ってくんなよ。」
「わーってるよ」
煩わしい返事を返すと、御幸は寝室に入ってドアを閉めた。…間もなくして、また寝室のドアが開いた。
「…倉持ク〜ン」
「なんなんだよ!」
御幸に招かれて寝室にお邪魔すると、部屋の隅っこにガウンを羽織った光が壁を背にして立っている。まるで、何かに怯えているような…
「倉持、そこ。その棚の上」
「あ?」
「そう、そこそこ。時計の辺り」
「…なにが?」
「蜘蛛。」
…はあぁぁ?
「蜘蛛ぉ?」
「早く取って。」
「お前な…」
シメてやろうと思った矢先、視界に映る光の姿。…しゃーねえな〜もーー
棚の上の目覚まし時計を退かすと、小さな蜘蛛がふわりとくっついてきた。俺はそれを手ですくい取って拳の中に閉じ込め、寝室の窓から外へ放り投げる。
「さっすが倉持クン、頼りになる〜〜」
わざとらしく拍手をしてくる御幸を呆れて睨む。
「御幸お前、よく今まで生きてこれたな」
「まあそれほどでも」
「褒めてねーよ。…ったく、光。こんな虫も触れねー奴より俺んとこ来いよ」
「おい!隙あらば口説くな!」
揉みあう俺たちを見て、光は笑いながら一言。
「そうですね。」
冗談か本気かわからない調子で言って、寝室を出て行く。
「え…光?」
「…マジ?」
「マジなわけねーだろ。本気にすんなよ」
「あ?テメーのミットに毎日クワガタ仕込んでやろうか」
「やめて」
冗談を言い合いながらリビングに戻ると、ソファでコーヒーを飲む光。合わせたガウンの裾から覗く白い美脚に目を奪われ、御幸は焦った形相で言う。
「…光、ちゃんと服着てきなさい!」
『不審者注意!』
――近隣で不審者の目撃情報がありました。戸締り・夜間の外出にはご注意ください。
物騒だな。この辺りは高級住宅街だし、治安はいいと思っていたけど。
インターフォンで押しなれた番号を押し、御幸を呼び出す。すぐに応答があって、自動ドアが開錠された。ロビーに入り、エレベーターに乗り、御幸の部屋へ向かう。部屋のインターフォンを鳴らすと、ドアはすぐに開いた。
「おう、入れよ」
「おー、邪魔するぜ」
リビングに行くと、ソファ前のコーヒーテーブルにマグカップが一つ置いてあり、テレビがついていた。
「光は?」
「一言目がそれかよ。昨日遅くまで仕事だったから、まだ寝てるよ。」
「ふーん」
御幸はやれやれとソファに座る。
「これ、土産。後で飲もうぜ」
「おーさんきゅ」
「ここ置いとくわ」
キッチンに酒瓶の入った紙袋を置いた時、寝室のドアが開いた。薄手のシャツにショートパンツ姿の光が、寝ぼけ眼でやってくる。まだ目がちゃんとあいてねーじゃねーか…可愛い…
「おはよ」
「ん…」
御幸が声をかけると、光は目を擦りながら御幸の所へ歩いて行って、ソファに膝立ちで登り、御幸の膝の上に跨った。御幸は苦笑したまま固まり、光はその御幸の顔を両手で包み、そのまま顔を近づけてゆっくりとキスを始める。ちゅ、…ちゅ、と音を立てて、2,3度濃厚なキスをすると、光は御幸の顔をうっとりと眺めて、そのまま抱きしめた。む…胸が顔に…
「一也さん…」
「…光、ちょっと待って」
御幸が光の体をやんわりと押しのける。
「…倉持、来てる」
そう言いながら御幸が俺の方を指すと、光は目を丸くして俺を見て…顔を赤くした。
「ご…ごめんなさい」
すぐに立ち上がって、逃げるように洗面所へ駆け込む光。御幸は赤い顔のまま俺を振り向いて、苦笑いを浮かべた。
「…な?」
「な?じゃねーよ。死ね」
「いや、もーマジで心臓がもたない…」
「嫌ならいつでも代わるぜ?」
「…それはダメ」
チッ。自慢にしか聞こえねーっつの。
「コーヒーもらうぜ」
一言断って、カップにコーヒーを注ぎ、砂糖とミルクを入れてソファへ持っていく。そのままニュースを二人で眺めていると、光がまだ顔を少し赤くしたまま、だけどさっきよりさっぱりとした様子で洗面所から出てきた。そしてガードの甘い部屋着のままダイニングテーブルへ向かうと、そこに置いてある郵便物に目を通し始める。ショートパンツから伸びる白い脚がまぶしい。柔らかそうな太腿。絶妙な曲線を描くふくらはぎ。ほんのりと紅い小さな踵とつま先。……あー、なんか、ムラムラして…
「コラ」
ベシン、と薄い雑誌が俺の後頭部を叩いた。チッ…見てんのバレたか。
「一也さん、これ何ですか?」
光の声がして、俺も御幸も振り返る。光が手に持っていたのは小さなウサギの置物。プラスチックのようなものでできていて、たいして可愛くもないうえに薄汚れている。今時子供でも喜ばないだろう。
「あーそれ、郵便受けに入ってた」
「ふうん…マンションの子が入れちゃったんですかね?」
「かもな。あとで管理人に渡しとく」
御幸の言葉を受けて、光は納得したようにウサギの置物をテーブルの上に戻した。それからのんびりとキッチンへ行って、マグカップを取り出す。御幸は立ち上がってその背中に歩み寄り、小さな手からマグカップを取り上げた。
「俺がやっとくから、お前は着替えて来なさい。」
「…はぁい」
大人しく従って寝室に入る光。はぁ…いいなー、光との生活…。
「…なんだよ」
マグカップにコーヒーとミルクを淹れ、かき混ぜながら御幸が呟く。
「いや?お前も変わったなーと思って。」
「…何が?」
「昔は光からメールの返事がこねーっつって一日中くよくようじうじ…」
「おまっ……ちょ…黙れ!」
焦ったように言葉を乱す御幸を見て少し清々していると、寝室のドアがそっと開いて、光が顔を覗かせた。
「一也さぁん…」
弱弱しげに泣きそうな顔になって御幸を呼ぶ光…。かっ…可愛すぎる…!!しかも、ちらりと見える細い肩にはキャミソールと下着の紐が見えて、つまり、まだ服を着てない状態なわけで…
「何、どしたの」
御幸は慌てて駆け寄って、光を俺から隠すように立ち、俺を振り返る。
「入ってくんなよ。」
「わーってるよ」
煩わしい返事を返すと、御幸は寝室に入ってドアを閉めた。…間もなくして、また寝室のドアが開いた。
「…倉持ク〜ン」
「なんなんだよ!」
御幸に招かれて寝室にお邪魔すると、部屋の隅っこにガウンを羽織った光が壁を背にして立っている。まるで、何かに怯えているような…
「倉持、そこ。その棚の上」
「あ?」
「そう、そこそこ。時計の辺り」
「…なにが?」
「蜘蛛。」
…はあぁぁ?
「蜘蛛ぉ?」
「早く取って。」
「お前な…」
シメてやろうと思った矢先、視界に映る光の姿。…しゃーねえな〜もーー
棚の上の目覚まし時計を退かすと、小さな蜘蛛がふわりとくっついてきた。俺はそれを手ですくい取って拳の中に閉じ込め、寝室の窓から外へ放り投げる。
「さっすが倉持クン、頼りになる〜〜」
わざとらしく拍手をしてくる御幸を呆れて睨む。
「御幸お前、よく今まで生きてこれたな」
「まあそれほどでも」
「褒めてねーよ。…ったく、光。こんな虫も触れねー奴より俺んとこ来いよ」
「おい!隙あらば口説くな!」
揉みあう俺たちを見て、光は笑いながら一言。
「そうですね。」
冗談か本気かわからない調子で言って、寝室を出て行く。
「え…光?」
「…マジ?」
「マジなわけねーだろ。本気にすんなよ」
「あ?テメーのミットに毎日クワガタ仕込んでやろうか」
「やめて」
冗談を言い合いながらリビングに戻ると、ソファでコーヒーを飲む光。合わせたガウンの裾から覗く白い美脚に目を奪われ、御幸は焦った形相で言う。
「…光、ちゃんと服着てきなさい!」