139
「あいつまた太ったよな」
「ヒャハハ。監督に会ったらドヤされるぜきっと」
倉持と他愛のない話をしながらマンションのロビーに入る。
郵便受けを確認し、数枚の封筒とチラシ、それから厚紙の膨れた封筒を取り出す。
「何だそれ?」
「さあ…柔らかい」
倉持も首を傾げる前で封筒を押してみると、ふかふかと柔らかな感触が返ってきた。部屋であけてみるかと思い、ふたりでエレベーターに乗り込む。
「なんかコエー」
「なんでだよ。クッション材かなんかじゃねーの?」
「いや、最近たまに郵便受けに変なモン入ってるからさ…」
「変なモン?」
エレベーターの扉が開き、屋内通路を進む。
「ウサギのおもちゃとか」
「…あーこないだの?あれくらい…」
「この前なんか、ゴム入ってたし」
「…ゴムって…」
「コンドーム」
「…は!?」
さすがの倉持も顔を歪めて声を上げた。
「きもちわりー。なんで?」
「さあ…イタズラじゃね?」
「なんでまたゴム?」
「知らねーよ」
部屋の前に着いて鍵を開け、ドアを開き、玄関に入る。
「たしかにそれはコエーな」
「だろ?」
「…それでさー、最近は1日1回はかかってくんの!」
「え…こわいね。警察には言った?」
靴を脱いでリビングへ入ると、お喋りする声がして、ソファに光と牧瀬が座って紅茶を飲んでいた。
「あっ、お帰りなさーい!」
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
郵便物をテーブルに置き、漏れ聞こえた話が気になって尋ねる。
「警察って…牧瀬何かあったの?」
「無言電話がかかってくるんだって。」
光が答え、牧瀬が頷く。
「しかも、ずっとハアハア言ってるんですよ。気持ち悪すぎません?」
「へえー、牧瀬にストーカー」
「牧瀬がねえ」
「ちょっと、ここでもこんな扱いなの!?」
冗談だよと笑って、自分も紅茶でも飲もうかとお湯を沸かし始める。
「そんで?大丈夫なのかよ?」
「今の所電話だけなので。っていうか、無言電話自体は業界ではよくあることですし。警察にも相談はしてますけど…。」
「そうか。まあ、気をつけろよ。」
紅茶を入れて、テーブルの前に立つ倉持にも一つ持っていく。
「座らねえの?」
「御幸、これ開けてみろよ。」
そうどこか面白そうに言いながら、倉持は先ほどの封筒を持ち上げた。
「なんですかそれ?」
牧瀬が振り返って訊き、光も不思議そうに振り返る。
「わかんねーけど…なんかやな予感するんだよな〜」
「なんで?」
「いや…」
首を傾げる牧瀬と光。まさかこの状況で、コンドームの話をするのも気が引けるし…。
「ほら御幸。開けろよ」
「え〜…今?」
「今。」
倉持に急かされて、渋々カッターを持って来て封を切る。注目が集まる中、封筒の中を覗くと…くしゃくしゃになった白い何か。
「…なんだこれ?」
手を入れてそれを引っ張り出すと、それは…女物の下着だった。
「え……」
「…御幸お前…」
「…御幸さん…心当たりは?」
「ねーよ!やめろよその目」
気味の悪い下着を捨て置き、封筒をよく観察する。何も書いていない、真っ白な厚紙の封筒。
「これ…直接郵便受けに突っ込んでるよな?」
「確かに、消印がありませんね」
牧瀬と光もやって来て封筒をよく眺めた。
「…御幸、さっきの話…」
倉持が迷った末に小声で切り出す。俺も頷いた。
「さっきの話…って?」
目を丸くする牧瀬と、窺うように見つめる光。言い辛い話だけど…話しておくべきだよな。
「いや…さっき倉持には話したんだけどさ。この前…3日くらい前に、郵便受けにコンドームが入ってて」
「はぁ?」
「…え?」
牧瀬と光は顔を見合わせて、俺を見た。
「それはどうしたんですか?」
「捨てたよ。気持ちわりーもん。」
「まあそうですよね…」
「でもよ…これを入れた犯人と関係がないとは思えねーよな」
倉持が言うと、全員が同意するように口を噤んだ。
「光。」
これはもう、全部話しておくべきだな。
顔を上げた光に、俺は打ち明ける。
「実はその時…ちょうど光臣が来てて。」
「…光臣が?なんで…」
光の従弟でしたっけ、と牧瀬が囁き、倉持が頷く。
「その前にも一度来て、ほら、光の好きなカヌレ。あれ、叔母さんじゃなくて、アイツが持って来たんだよ。」
「あぁ…通りで…」
「気付いてたのか?」
「叔母は得意客だから、いつもお店が心付をつけてくれるんですよ。でもこの間のは、それがなかったから。」
な…なるほど。
「それで…光臣はどうしてうちに?」
「…あいつなりに、反省してるというか…お前の為に何かしたいって。」
「……。」
光は訝しげに眉を顰めて目を伏せた。いったいどういうつもりなのか、と疑うような目だ。
「まあ…それで。その時光臣が言ってたんだけど…」
俺は光臣が言っていた家の侵入者の件と、光臣に最近の不審な出来事を話したこと、それから哲さんが訪ねてきたことも伝えた。
「じゃあ…もしかして、その時のストーカーが戻ってきたかもしれない…ってことですか?」
牧瀬がこわばった顔で言う。
「まだわからないけどな。でも、不審者に目をつけられてる可能性があるのは確かだ。」
「つーか…下着といい、その…ゴムといい、狙われてる対象って…光、だよな。」
倉持が呟いて、皆が光を見た。光は言葉も出ないまま青ざめた。
「光…、」
細い肩を抱くと、か弱い腕が俺の腰に回り、縋りついてくる。
「とにかく…今、光臣の方で調べてくれてるから…この件もあいつに伝えておく。」
「…はい。」
「牧瀬、仕事中は光をなるべくひとりにしないように頼む。」
「も、もちろんです。」
今できることと言ったらそれくらいだ。だけど、どうも落ち着かない。もどかしい。こんなことで光を守れるのか、と。
「…倉持も、もし何かあった時は…頼む。」
「…おう。」
結局…こいつを頼るのか。
言葉を絞り出すと、倉持はにやりと口の端を上げた。
「ヒャハハ。監督に会ったらドヤされるぜきっと」
倉持と他愛のない話をしながらマンションのロビーに入る。
郵便受けを確認し、数枚の封筒とチラシ、それから厚紙の膨れた封筒を取り出す。
「何だそれ?」
「さあ…柔らかい」
倉持も首を傾げる前で封筒を押してみると、ふかふかと柔らかな感触が返ってきた。部屋であけてみるかと思い、ふたりでエレベーターに乗り込む。
「なんかコエー」
「なんでだよ。クッション材かなんかじゃねーの?」
「いや、最近たまに郵便受けに変なモン入ってるからさ…」
「変なモン?」
エレベーターの扉が開き、屋内通路を進む。
「ウサギのおもちゃとか」
「…あーこないだの?あれくらい…」
「この前なんか、ゴム入ってたし」
「…ゴムって…」
「コンドーム」
「…は!?」
さすがの倉持も顔を歪めて声を上げた。
「きもちわりー。なんで?」
「さあ…イタズラじゃね?」
「なんでまたゴム?」
「知らねーよ」
部屋の前に着いて鍵を開け、ドアを開き、玄関に入る。
「たしかにそれはコエーな」
「だろ?」
「…それでさー、最近は1日1回はかかってくんの!」
「え…こわいね。警察には言った?」
靴を脱いでリビングへ入ると、お喋りする声がして、ソファに光と牧瀬が座って紅茶を飲んでいた。
「あっ、お帰りなさーい!」
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
郵便物をテーブルに置き、漏れ聞こえた話が気になって尋ねる。
「警察って…牧瀬何かあったの?」
「無言電話がかかってくるんだって。」
光が答え、牧瀬が頷く。
「しかも、ずっとハアハア言ってるんですよ。気持ち悪すぎません?」
「へえー、牧瀬にストーカー」
「牧瀬がねえ」
「ちょっと、ここでもこんな扱いなの!?」
冗談だよと笑って、自分も紅茶でも飲もうかとお湯を沸かし始める。
「そんで?大丈夫なのかよ?」
「今の所電話だけなので。っていうか、無言電話自体は業界ではよくあることですし。警察にも相談はしてますけど…。」
「そうか。まあ、気をつけろよ。」
紅茶を入れて、テーブルの前に立つ倉持にも一つ持っていく。
「座らねえの?」
「御幸、これ開けてみろよ。」
そうどこか面白そうに言いながら、倉持は先ほどの封筒を持ち上げた。
「なんですかそれ?」
牧瀬が振り返って訊き、光も不思議そうに振り返る。
「わかんねーけど…なんかやな予感するんだよな〜」
「なんで?」
「いや…」
首を傾げる牧瀬と光。まさかこの状況で、コンドームの話をするのも気が引けるし…。
「ほら御幸。開けろよ」
「え〜…今?」
「今。」
倉持に急かされて、渋々カッターを持って来て封を切る。注目が集まる中、封筒の中を覗くと…くしゃくしゃになった白い何か。
「…なんだこれ?」
手を入れてそれを引っ張り出すと、それは…女物の下着だった。
「え……」
「…御幸お前…」
「…御幸さん…心当たりは?」
「ねーよ!やめろよその目」
気味の悪い下着を捨て置き、封筒をよく観察する。何も書いていない、真っ白な厚紙の封筒。
「これ…直接郵便受けに突っ込んでるよな?」
「確かに、消印がありませんね」
牧瀬と光もやって来て封筒をよく眺めた。
「…御幸、さっきの話…」
倉持が迷った末に小声で切り出す。俺も頷いた。
「さっきの話…って?」
目を丸くする牧瀬と、窺うように見つめる光。言い辛い話だけど…話しておくべきだよな。
「いや…さっき倉持には話したんだけどさ。この前…3日くらい前に、郵便受けにコンドームが入ってて」
「はぁ?」
「…え?」
牧瀬と光は顔を見合わせて、俺を見た。
「それはどうしたんですか?」
「捨てたよ。気持ちわりーもん。」
「まあそうですよね…」
「でもよ…これを入れた犯人と関係がないとは思えねーよな」
倉持が言うと、全員が同意するように口を噤んだ。
「光。」
これはもう、全部話しておくべきだな。
顔を上げた光に、俺は打ち明ける。
「実はその時…ちょうど光臣が来てて。」
「…光臣が?なんで…」
光の従弟でしたっけ、と牧瀬が囁き、倉持が頷く。
「その前にも一度来て、ほら、光の好きなカヌレ。あれ、叔母さんじゃなくて、アイツが持って来たんだよ。」
「あぁ…通りで…」
「気付いてたのか?」
「叔母は得意客だから、いつもお店が心付をつけてくれるんですよ。でもこの間のは、それがなかったから。」
な…なるほど。
「それで…光臣はどうしてうちに?」
「…あいつなりに、反省してるというか…お前の為に何かしたいって。」
「……。」
光は訝しげに眉を顰めて目を伏せた。いったいどういうつもりなのか、と疑うような目だ。
「まあ…それで。その時光臣が言ってたんだけど…」
俺は光臣が言っていた家の侵入者の件と、光臣に最近の不審な出来事を話したこと、それから哲さんが訪ねてきたことも伝えた。
「じゃあ…もしかして、その時のストーカーが戻ってきたかもしれない…ってことですか?」
牧瀬がこわばった顔で言う。
「まだわからないけどな。でも、不審者に目をつけられてる可能性があるのは確かだ。」
「つーか…下着といい、その…ゴムといい、狙われてる対象って…光、だよな。」
倉持が呟いて、皆が光を見た。光は言葉も出ないまま青ざめた。
「光…、」
細い肩を抱くと、か弱い腕が俺の腰に回り、縋りついてくる。
「とにかく…今、光臣の方で調べてくれてるから…この件もあいつに伝えておく。」
「…はい。」
「牧瀬、仕事中は光をなるべくひとりにしないように頼む。」
「も、もちろんです。」
今できることと言ったらそれくらいだ。だけど、どうも落ち着かない。もどかしい。こんなことで光を守れるのか、と。
「…倉持も、もし何かあった時は…頼む。」
「…おう。」
結局…こいつを頼るのか。
言葉を絞り出すと、倉持はにやりと口の端を上げた。