有識者や若き成功者たちが集まる、煌びやかなパーティールーム。白と黒のレースのクラシカルなイブニングドレスに身を包んだ光は、この人混みの中でも一瞬で目を惹くような、美しい微笑みで俺を見上げる。

「この間もパーティーだったのに…連日ごめんなさい。」

今日は光臣が主宰するナイトパーティーだ。俺も光もこういう賑やかな場はあまり好きではなく、疲れを感じるのはお互い様なのに、光は申し訳なさそうに言った。

「そんなこと気にするなよ。ほら、ここオランジェットあるぞ」
「え?」

光の好きなチョコレート菓子を取って手渡すと、光ははにかんでそれを口に入れ、幸せそうに味わった。

「美味しい…」
「有名なパティシエ呼んでるんだっけ?」
「はい。叔母のおすすめらしくて」
「はっはっは。あの人、ほんと食いもんに詳しいよな」

ふたりで笑い合いながら、パーティー会場を闊歩する。様々な著名人と会話を交わし、それなりに楽しんだところで、パーティーはお開きになった。俺たちは最後に光臣の元へ行った。

「よう。楽しんだか?」

数時間にわたるこれだけの規模のパーティーを主催した後だというのに、光臣は全く疲れの滲まない笑みで俺たちを迎えた。

「うん。今日はありがとう。」
「それならよかった。上に部屋を用意してある。休んで行ってくれ。」

光臣はスマートにカードキーを差し出した。俺と光は顔を見合わせて、笑った。

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

カードキーを受け取ると、光臣は俺に視線を向けた。

「悪いんだが、ちょっと光と話をしてもいいか?」
「え?」

俺と光は再び顔を見合わせる。

「家のことで、少し相談があってな」
「家のことって…?」
「相続のことで。実は、叔母が君に財産を残したいと言っている。」
「……。」

光の顔から笑顔が消え、緊張と困惑が滲んだ。

「そういう話なら…私は、何も貰う気はないから…」
「今回は以前のような複雑な話じゃないんだぞ。単純に、君の世話をした叔母が、愛情から君に何かを残したいと言っているんだ。あの人は…子供がいないし、君を本当の娘のように思っている。」
「……。」
「叔母からの伝言だけでも、君に伝えたい。下で少し話せないか?」

「行って来いよ。」

光の背を押し、俺は言った。光は俺を見上げる。微笑んで頷くと、光は決意したように口を引き結んで、頷き、光臣を見た。

「…わかった。」

エレベーターに乗り込む二人を見送って、俺は客室用エレベーターに乗り込む。光にとってもあの叔母は、本当の親のような存在だ。あのふたりがまた、昔のように戻れるなら…こんなにうれしいことはないと思った。


***


光臣が用意してくれた部屋に行き、疲れはあったが眠る気にもなれず、だらだらと時間をつぶしていると、2時間ほどで光が部屋にやって来た。その表情を見て、とりあえず沈んではいないことにホッとする。だが、やはり複雑そうな思いを滲ませていた。

「大丈夫か?」

光を招き入れてベッドに座らせ、顔を覗き込んで問う。光はちょっと微笑んで、頷いた。

「なぁ…どうすることになっても、俺たちは変わらないからな。」

手を握ってそう言うと、光は微笑みを深くして、目にうっすらと涙を浮かべた。

「…うん。」

それから俺を抱き寄せて、肩口に頬を寄せると、安堵したように息を吐いた。

「…ぎゅってして。」

ねだるように囁く光に、照れ臭さやら愛おしさやらを感じながら、やっぱり嬉しくて、彼女の背中に手を回す。
辛い時は抱きしめてほしい。いつかそう言った光の言葉を思い返しながら。

「…叔母が、私に…全財産を渡したいそうなんです。」

肩口に、光の言葉を聞いて、体を離す。光を見つめる俺の顔に驚きが漏れていたんだろう、光はちょっと後ろめたそうに目を伏せた。

「今すぐにってわけじゃないけど…少しずつ、生前贈与していきたいって。それで…ゆくゆくは、全て譲渡したいって」
「全てって…えっと、具体的に言うと?」
「光臣の話だと…土地がいくつかと、別荘がみっつ、経営しているホテルとレストラン、アパレルブランド、車に自家用機、船もあったかな…それから離島がひとつと、あとは動産です。」
「……え?」
「あ…あと、出資してる事業がいくつか…」
「ちょ、ちょっと待って」

…相変わらず規模が桁違いだな。俺は心を落ち着かせ、光に向き直った。

「…ごめん、大丈夫。それで…光はどうしたいんだ?」
「…私…」

光は少し考えて、遠慮がちに、俺の反応を窺うように言った。

「私は、叔母のような経営者にはなれないし、正直、戸惑ってます。財産を引き継ぐことには、それを守る責任も伴うから…。」

そうか…そうだよな。貰ったら単純に大金持ち、という簡単な話じゃないんだ。

「そう光臣に言ったら、経営は自分がするから心配するなって言われて。でも、それじゃ…光臣に迷惑だけかけて…それはいけないと思うんです。だから…」
「うん…」
「一度叔母に会って、話をしたいと思って…。私に何か残したいと思ってくれる気持ちは、嬉しいから。光臣も、私が負える責任の分だけ受け取ればいい、って言ってくれて。こういう手続きのことは光臣が詳しいので、叔母との話にも同席してくれるそうです。」
「そっか。」

光の肩を擦るように撫で、手を握った。俺が頷くと、光は安堵したように微笑を戻した。

 


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