朝日に眩しく照らされる寝室。真っ白な体を丸めて眠る光に、スリーピングビューティ、という言葉を思い出す。…気障だけど。

「……。」
「…おはよ。」

ぼんやりと目を覚ました光に、優しく、驚かさないように囁く。光はぼんやりと俺を見上げて、幸せそうに微笑んだ。

「コーヒー飲むだろ?」

そう訊きながら起き上がる俺を追うように、光もうんと頷きながら身を起こす。

「う…っ」

しかし小さくうめくと、その場にまた蹲ってしまった。

「え?…光!?どうした!?」

その様子に驚いて顔を覗き込むと、光は顔を赤くして俯いた。…あ、ま、まさか…。

「…もしかして…昨日の?」

ばつのわるさから頬を緩めながら訊くと、光はこっくりと頷いて、下腹部を押さえた。

「痛いし…腰に力が…」
「…ご、ごめん…」

ま、またやっちまった…。高校の時もこんなことあったよな。俺の実家で…。いやー、今思うと大胆だったな。

「ま…今日が休みでよかったよ。ゆっくり休んで…」
「……。」
「とりあえず…コーヒー淹れてくるから…」
「……。」
「お…俺、何でもするから。遠慮なく言えよ」
「…何でも?」

それまでからかうように俺を睨んでいた光が、急に嬉しそうに尋ねる。そ…そう改めて確認されると、何かこえーんだけど…。でも自分で言った手前、覆すわけにはいかない。

「あ…ああ。俺にできることなら…」

つーか…俺のせいだし。
俺が頷くと、光はなんだかそれだけで満足そうににやついて、布団にもぐったのだった。



***


「光、コーヒーと…朝食。」

トレーを持って寝室に戻ると、光は枕にもたれて横になったまま、台本に目を通していた。真剣な表情から、パッと俺を見上げて柔らかな笑顔に変わる。そんな些細な動作にさえ、胸の奥がくすぐられる。

「起きれるか?」

トレーをサイドテーブルに置き、光に問いかけると、光は台本を置いて、神妙な顔で起き上がろうとして、くたっと項垂れた。…はにかんで、笑い交じりにため息を吐く。

「だめ…腰に力が入らなくて」
「……。」

ちょっと顔を赤くしてよたよたする光。

「…今のセリフ…エロい」
「ばか。誰のせいですか?」
「…俺。」

答えていて、恥ずかしくなる。そうですよ、とからかうように責める光は、きっとこの応答にさえ俺がそそられてしまうことに気付いてもいない。ほんと、無自覚。俺のせいで光が足腰立たなくなるくらいよがったなんて…考えただけでやばいんだけど。
身を戻すのを手伝ってやって、光はまた枕に背を持たれると、俺の邪な考えなど思いもついていないような無垢な笑顔で俺を見上げた。

「一也さん。」
「ん?」
「…あーん。」

ちょっと口を開けて、からかうように、でも甘えるように言う光。え…食べさせろってこと?

「…はい。」

スープからジャガイモを掬って差し出すと、光は口を閉じてぷいと横を向く。

「熱いからふーふーしてください。」
「……。」

何この羞恥プレイ。昨日の仕返しか…?

ふー、とジャガイモを冷まし、またスプーンを差し出す。

「ほれ。」
「…ふふ」

光は嬉しそうにスプーンを食んだ。赤い小さな唇がジャガイモを飲み込み、はにかみながら咀嚼する。か…可愛い。

「…なんか恥ずかしいんだけど」
「何でもするって言ったじゃないですか。」

…なんか嬉しそうだと思ったら、こういうつもりだったのかよ…。可愛すぎ。

「ほんっとお前…可愛いな」
「ふふふ。ばかじゃないですか?」
「こら。昨日から馬鹿にしすぎ。」

照れ隠しってのはバレバレだけどな。

「一也さん。それちょっと置いて。」
「え?食わねーの?」
「いいから…」

光は俺の手からカップとスプーンを取り、トレーの上に戻す。それから、ぐい、と俺の手を引っ張った。されるがままに抱きしめられる。な…なにがなんだか。

「…どしたの?急に」
「何でもするって言ったでしょ…」
「いや…別にいいけど。急だったから…」

普段ならこんなことしない。いや、時々甘えモードにはなるけど…。

「急じゃないもん…」

光はぎゅっと俺を離さないまま呟く。

「いつも…見てるだけで、こうしたくなるの」

え…ど、どうなってんだ?

「…光、酔ってないよね?」
「なんですか、それ…」

あ…素面だ。
いや…、とはぐらかし、こらえきれない愛おしさのまま光を抱きしめ返す。

「可愛いな…」

思わずつぶやいて、柔らかな髪を撫でた。

「…スープ冷めちまうぞ。」
「もうちょっとだけ…」
「はは。…はいはい。」

彼女がどれだけ自分を愛してくれているのか。昔はよく悩んだものだった。だけど、ずっと一緒にいる中で、だんだん、彼女がただ素直に感情を表現するのが苦手なだけなんだと気づいた。手放しで人を信頼するのを恐れているんだと…。だけど今、俺はこんなに彼女に頼られていて、必要とされている。…俺も同じだ。
これが、どんなに幸せなことか。手に入れがたい存在なのか。考え始めると、途方もない気持ちになる。
彼女の甘い香りを胸いっぱいに感じて、気持ちまで満たされる。ぬくもりに安らぎ、もっと欲しくなる…。

そのとき、電話が鳴った。サイドテーブルの上で着信音を響かせている自分のスマホを手に取る。画面に表示されている「倉持」の文字を、光も見つめていた。

「…もしもし。」

しー、と光に人差し指を立てて、腕の中に光を抱いたまま電話に出ると、いつも通りの倉持の声が返ってきた。

『お前今日オフだろ?飯行こうぜ。さっきそこで牧瀬に会ったんだよ、だから光も一緒に…』
「ごめん、今日は無理。」
『え?なんか用事?』

腕の中の光を見つめ、自然と零れる微笑に頬を緩める。

「うん。すげー大事な用があんの。」
『え?なんの…』
「じゃな。」

電話を切って、また光を抱きしめる。

「…いいんですか?」

そう尋ねる光の髪を指に絡める。

「当たり前だろ。今日はお前のための日。」

そう言うと、光は照れ臭そうに、だけど嬉しそうにはにかんで、また俺の胸に抱き着いた。

 


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