『先日、あの超有名財閥の日本代表社長、玉城光臣さんと従姉弟であることがわかり、大変な話題となった玉城光さんが、プロ野球選手の奥村光舟さんとCMで共演し、話題を呼んでいます。』

テレビには高級腕時計のペアシリーズをつけた光と奥村が、クラシカルな衣装で高級レストランのような場所で過ごしているシーンが流れている。最近新しく放送されているCMだ。全体的にシックで大人びた雰囲気で、高級感があふれ出ている。

『なんとおふたりは親戚関係で幼馴染でもあり、奥村選手と玉城光臣さんが御兄弟のようにそっくりだということも話題になっています。』
『確かにこうしてみると似ていますね。』
『本当に。おふたりとも美形ですよね。』
『美人一族ですねぇ。』

「ちっ…顔が良い奴はCMだなんだって、テレビに出すぎなんだよ。野球選手なら野球に集中しろってんだ!」

純さんが悪態を吐き、ビールジョッキをテーブルに叩きつけた。

「純、自分だけCMに起用されたことが無いからって嫉妬するなよ。」
「あぁ!?俺は出たくもねーっつうの!!」

亮さんが楽しそうに油を注ぐのを、俺はぼんやりを聞きながらビールを煽った。

「純、大丈夫だ。きっとお前もいつかCMに出られるさ。」
「うるせぇよ哲!!テメェMIKEのCMに出たからって調子にのってんじゃねーぞコラァ!!」
「MIKEは確か、前に倉持も出てたよね?」
「あぁ!?」

げっ。亮さんが俺の名前を出したことで、純さんの矛先が俺に向いた。

「お…俺なんかたまたまっすよ、今は何も出てねーし…。それより、CMなら御幸が一番出てるんじゃないすか?」
「…確かにあいつのCMはほぼ毎日流れてるよなァ…!!」

慌てて弁解すると、純さんの怒りの矛先が御幸に移り、俺は安堵する。

「今はAGIDASとスポーツドリンクだっけ?」
「車のCMに夫婦で出てなかった?」
「あー、出てる出てる。昨日見た」

メラメラと純さんから熱気を感じる…。するとちょうど部屋のドアが開き、全員が振り返った。そこに立っていた人物…御幸は、ちょっと怯んだように立ち竦んだ。

「な…何?」

注目を浴びていることに汗をかく御幸。

「相変わらずタイミングの悪い奴だね。悪運が強すぎ。」
「え…?」
「御幸コラ!!テメェ随分と遅かったじゃねーか!!」

なめてんのか!?と怒号を飛ばす純さんに、御幸は呆れたように零した。

「しょーがないじゃないすか…」

その御幸の隣から、スッと顔を出す光。純さんの怒号に驚きを引きずったような戸惑いがちな表情で部屋の中を見渡す彼女の姿に、男共は口を噤んだ。

「光迎えに行ってたんですから」
「…こんにちは…。」

ちょっと顔を赤らめてお辞儀をした光の微笑に、男共は息をのむ。静まり返った部屋を戸惑いながら見渡して、光は申し訳なさそうに御幸を見上げた。自分が場を白けさせてしまったと不安がる光に、御幸は大丈夫だよ、と小声で宥める。

「い…イチャつきやがって!コラ御幸!!こっちこいや!!」
「なんなんすか…純さんたちが連れて来いって言ったんでしょ」

確かに毎回飲み会の度に光を連れて来いと先輩たちはうるさかった。だけど、あの御幸が本当に連れてくるなんて…。いつもからかわれたり、男共の中に光を連れていくのを嫌がって、のらりくらりかわしてきていたのに。
御幸と光は純さんたち先輩の輪に迎え入れられ、さっそく酒を勧められる。ふたりはビールを渡されて、俺はハラハラしながら様子を見守った。光に酒飲ませるつもりか?あいつ…。
しかし御幸はさっさと自分のビールを飲み干すと、自然に光のビールを飲み始め、光にはウーロン茶を注文させたのだった。あいつ…クソ、何かムカつくな。かっこつけやがって。

「御幸ィ、テメェ調子乗ってんじゃねーぞ!」
「なんなんすか純さん…もう酔ってるんですか?」
「嫉妬してるんだよ。」
「亮介うるせーぞコラァ!」

ああもう、光の前であんまり怒鳴らないでやってくれよ、そういうの慣れてねーんだから…。

「…洋さん?」
「あ?」

気付くと、隣の春市がじっと俺を観察していた。

「すごい御幸先輩のこと見てるから…」
「あ!?見てねーよ御幸なんて!気持ちわり―こと言うな」

はぁ…、と口を噤む春市。くそ…そんなに見てたか、俺?いや、御幸じゃなくて光だけど…。

「光ちゃん、御幸のどこが好きなの?」
「ちょっ…亮さん何言ってるんですか」
「いいじゃん別に。お前も知りたいだろ?ね、どこが好き?」
「…えっと…」

顔を真っ赤にして俯く光。

「……。」
「……?」

考え込むように黙り込んで、御幸の顔に不安が混じり始める。

「…御幸、なんかゴメンな?」

亮さんがまったく悪びれない笑顔で言って、御幸は顔を引きつらせる。すると光が慌てて真っ赤な顔を横に振った。

「あっ…ち、違うんです!あの…い、いっぱいありすぎて…」
「…え?」
「あ…!えっと…あの…」
「も…もういいから、光。わかったから」

顔を真っ赤にして黙り込む二人。ヤベェ純さんの顔も爆発しそうなほど真っ赤だ。別の意味で。

「え…っと、好きなところは…や、やさしいところ…です」

仕切り直すように光が言って、話を締めくくる。亮さんは氷点下の笑顔で御幸を凝視した。

「ふ〜〜ん、お前優しいんだ?」
「……そっすね…」
「へぇ〜?俺たちにも優しくしてほしいな。なぁ純?」
「まったくだぜ」
「……。」

「あのふたり…いつまでも新婚さんみたいに仲良しですよね。」

ビールを飲みながら春市がしみじみと言った。

「新婚みたいって…実際新婚だろ」
「でも、付き合い自体は長いじゃないですか。結婚だって、もうすぐ1年だし。なのに今も高校の時から変わらず仲良しで…微笑ましいですよね。」
「ああ…まあな」

胸の奥にモヤモヤを抱えながら適当に相槌を打って、ビールを喉に流し込む。

「……。」
「……沢村、お前何してんの?」

グルグルと警戒する犬のように御幸の方を睨んでいる沢村。普段騒がしいこいつが、こんなに大人しいと逆に不審だ。

「光ちゃんといるときの御幸先輩が優しそうな顔してて、別人みたいで怖いらしいですよ。」
「なんだそりゃ。」
「光の前だとあの狼少年さえも笑顔を見せるんですよっ!?これはもうあいつが魔法使いか何かだとしか…!」
「アホか」

沢村を蹴っ飛ばしたところで、東条と金丸も遅れてやって来た。ふたりが開いている席に着いたところで、亮さんが立ち上がる。

「さてと。全員揃ったことだし、始めるよ〜」
「え?何を?」

御幸が不穏な空気を感じ取って訊く。亮さんは実に楽しそうだ。

「ビンゴ大会。」

ゲッ、と御幸が思い切り顔を顰めて、光は不思議そうに御幸を見た。このメンバーでのビンゴ大会、ろくな景品出ねーからな…。配られるビンゴカードを手に肝を冷やす。普段なら何が来ても笑い飛ばすが、今日は光がいるからな…。前にエロ本当てたことあるけど、今日は洒落になんねーぞマジで…。
そんな俺の心配をよそに、亮さんは番号を読み上げる。

「うわあ、リーチだ…」

ほどなくして、あまり嬉しくなさそうに春市が呟いた。憐れみの目を向けていると、オオッ!!と先輩たちの輪が歓声を上げる。ぐったりと苦笑いで立ち上がったのは、御幸だった。

「何、御幸もうビンゴ?」
「…っす」
「嬉しくなさそうじゃん。」
「いや…」

亮さんは純さんにクジを取り出させ、御幸に差し出す。

「じゃ、景品のくじ引いて。」
「…人前に出せねーもんは入ってませんよね?」
「それは人それぞれじゃない?」
「……。」

御幸は諦めたようにくじを引き、亮さんに手渡す。亮さんは番号を見て、あーあ、と呟いた。

「御幸お前、本当に悪運強いね。」
「え…?」

はい、と手渡されるラッピングされた小箱。注目を浴びながら光の隣に戻った御幸は、その箱をまるで不審物か何かのようにテーブルの端に置いた。

「開けないんですか?」

首を傾げる光に、いや…、と言葉を濁す御幸。嫌な予感しかしないのだろう。俺も同感だ。

「なんだよせっかく一番上がりなのによぉ。気になるよな〜、なぁ?」
「は、はい」

なぁ?、と光を覗き込むようにして同意を求める純さん。その威圧感に圧されたか、光は小さく頷く。

「ヨシ!じゃあ開けてみろ!」
「ちょっ…純さん!」

御幸の制止を振り払い、小箱を光の小さな手に持たせる純さん。光は戸惑いながら小箱を開けていく。

「り…亮さん!アレ大丈夫ですよね!?」
「さあ?」
「さあって…!んな無責任な…!」

本気で慌てふためく御幸をちらりと気にしながら、光が今小箱の蓋をあけた。先輩たちが注目する中、光は箱の中身を覗き込んで目を瞬く。な…何が入ってんだ?

「…これ何ですか?」

そう言って、光は箱の中に手を入れ、中の物を取り出した。手のひらに収まるほどの丸いピンク色の物体と、それから伸びるコードで繋がれたリモコンのような物。…って、オイ!!アレってピンクローター…アダルドグッズじゃねーか!!
御幸は顔を赤くしたり青くしたりして、ものすごい勢いで光の手からローターを奪い取った。ぽかんとする光をよそに、御幸はそれを箱の中に仕舞い、バッグに突っ込む。

「え…何?」

目を瞬く光。笑いを堪える純さんと亮さん。にわかに顔を赤くして事の成り行きを見守る他の面々…。

「なんでもないから…」
「…え?どういう意味…」
「いいから!気にすんな」

光を言いくるめると、御幸は抗議の眼差しを亮さんに向けた。

「なんであんなモン入れてるんですか…」
「ごめんごめん。まさか今日光ちゃんが来るなんて知らなかったから」
「……。」

嘘だ…亮さん、面白いことになった、って顔してる…。
つーかこれ、セクハラだろ…!本人がわかってないのがまだ救いだけど…。
御幸は先輩たちにからかわれながら、光にこっそりと何かを言って、光は立ち上がった。そして光は…え、あれ?こっちにくる…。

「ここ…いいですか?」
「うん、もちろん。」

遠慮がちに尋ねる光に、春市がにこやかに答え、光は俺の隣に座った。

「でも、御幸先輩と一緒じゃなくていいの?」
「一也さんが、倉持さんの所に行ってろって…」
「え?」

ちらりと御幸を振り返ると、頼むのポーズ。…あーそういうことかよ。まああの先輩たちの中に光を居させておくのは心配だしな。これから酒も入るし…。
にしたって、こうも簡単に俺に預けるとはな。どうせ何も起こらないと思ってるのか、油断してるのか…光も光だ。俺の気持ちを知っているくせに、安心しきった顔で微笑んでくるなんて…。

「倉持さん?」
「え?」
「ぼーっとしてるから…」
「あぁ、いや、なんでもねぇよ」

光に微笑を返すと、そうですか…、と呟いた。その様子を、春市と沢村がなんだか息をのんで見守っている。

「…なんだよお前ら」
「く…倉持先輩までもが浄化された…!?」
「は?」
「光!お前、いったいどんな術を…!」
「栄純君…」

呆れたように苦笑いする春市に、俺の気持ちがばれてしまったような気がして、少し肝が冷えた。こいつも結構周りを見てるからな…亮さんと同じで。沢村はあいかわらずこういうことには鈍感で助かるぜ。
だけど、そんな沢村にさえもわかるほどに俺の気持ちが顔に出ていたかと思うと、今は光の顔が見れなかった。

 


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