素振りをしていた御幸が手を止め、腰に手を当てて伸びをする。

「…腰いてぇ」

誰にともなく呟いたその言葉に、俺は片方の口角を上げた。

「ヤりすぎなんじゃねぇの?」
「……。」

御幸は俺を睨んでベンチに腰掛け、水分補給をする。

「アレ使った?」
「…うるせぇよ」

アレ、というだけで何なのかわかったらしい御幸は、不機嫌そうにそっぽを向いた。
普段周りをおちょくってばかりの性悪ヤローのくせに、光のことになるとすぐムキになる。

「明日、光来るの?」
「うん。牧瀬と来るって言ってた」

明日は今シーズン最後の試合だ。俺はバットを軽く振り、手首の調子を確かめた。

「よっし、ホームラン打つぞ〜」
「バーカ。光は俺の応援に来るんだよ」
「ヒャハハ。お前より目立ってやるっつってんだよ。ぜってぇお前から塁盗んでやる。この自慢の足でな」
「はっはっは。言ってろ」

俺もバットを置いて、御幸の隣に座り、スポーツドリンクを飲んだ。

「そうだ。試合のあとお祝いするから、光がケーキ作ってくれるってさ。」
「お祝い?おい、もう勝ったつもりかよ」
「いや、どっちみち俺か倉持のどっちかはお祝いするから、今から準備しとくって光が…」
「ヒャハ、さすが光。これはご期待に応えねーとなぁ」
「別に期待してるわけじゃないから。」
「うるせーよ。牧瀬もくんの?」
「光がケーキ作るのに牧瀬が来ないわけないだろ」
「確かに」

軽くストレッチをして、御幸は荷物をまとめ始めた。試合前に無理は厳禁だ。

「じゃー俺帰るわ」
「おう、また明日」

俺も荷物をまとめながら返事をする。明日は光の手作りケーキ…しかも、勝っても負けても。いや、どうせなら勝って、俺の為に作ってほしい…。
そんなことを考えながら荷物をまとめ、トレーニングルームを出る。軽くシャワーを浴び、今日の晩飯は沢村でも誘うかと考えながら着替えを済ませ、駐車場に入った。後部座席に荷物を放り込み、運転席に乗り込む。エンジンをかけると、低く唸る音が響き、俺はスピーカーのボリュームを上げる。
オフになったらまたツーリングいきてぇな。そういや、御幸たちはこのオフに新婚旅行に行くとか言ってたっけ…確か、イタリアだったか?なんだかんだ、普通に順調に仲良し夫婦やってるんだよなぁ。俺たちの関係ってほんと、変な感じだな…。

駐車場を出て、通い慣れた国道を走る。スピーカーからはお気に入りのロックミュージックが流れる。今季は調子がいいし…もしかしたら今年こそは、俺のチームが優勝かな。プロ入りしてからまだ一度も御幸のチームに勝ってねェし…明日こそは。
赤くなる信号機。その下に右折の矢印が灯るのを横目に右折車線を進む。対向車線の直進レーンから、少々強引に車が飛び出してきたが、余裕をもって徐行しながら舌打ちする。

「チッ…赤だろーが」

悪態を吐きながら右折し、左車線に入る。ここから自宅マンションまではそうかからない。途中でコンビニに寄ってビール買っとくか、と考えながら、徐行してチャリを追い越す。
試合前は特に安全運転を心がける。選手によっては、シーズン中は車に乗らないと断言する奴もいるくらいだ。だけど俺はちょっとのドライブが気分転換にもなるし…。それに、気を付けていれば大丈夫だ。
よく行くコンビニの看板が目に入り、ウインカーを出して徐行する。歩道の左右を確認し、歩行者がいないことを確かめてから、ハンドルを左に切る。
その時だった。

プアァーーーン!!

けたたましいクラクション。甲高い金属音。目の前に迫る大型トラックの厳ついフロントグリルと、運転席の男の目玉が飛び出しそうなほど焦った顔。
激しい衝撃と共に、俺の意識は途切れた。

 


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