017
「お」
翌朝早くに中庭で素振りをしていると、背後から声がした。
振り返ると、ボストンバッグを持った倉持が立っていた。
「あけましておめでとう」
「おー、おめでとう。」
恒例のあいさつを交わすと、仕切りなおすように倉持は口を開く。
「お前、もう戻ってたのかよ。」
「あー、昨日からな」
「元旦から!?あーそうか、お前地元にダチいねーもんな。ヒャハッ」
「はっはっは。そっちこそ…」
「あ?うるせーよ。」
悪態をつきながら、倉持は部屋の鍵を探し始める。
「飯食った?」
「まだだけど。」
「じゃ、モック行かねぇ?」
「おー」
倉持が部屋に入るのを見送って、俺も道具を片付けて着替えをしに部屋に戻る。
光っている携帯を開くと、珍しいことに光からメールが来ていた。
『今日、会いに行ってもいいですか? 光』
俺は思わずにやけそうになりながら返信を打つ。
「御幸〜まだ?」
「今行く」
財布と鍵をひっつかんで、部屋を出る。早朝の凍り付きそうな空気も、今なら清々しく感じた。
***
「お前初詣行った?」
「行った。」
「マジ?お前初詣一緒に行くような友達いたのかよ?」
「大きなお世話…」
「誰と行ったんだよ?あ!もしかしてアレ?稲実の成宮鳴!」
「なんでだよ……あ」
倉持とくだらない話をしながら寮に戻ってくると、門の前に座り込んでいる人影があった。
その人物は俺たちが歩いてきたことに気付くと顔を上げ、立ち上がった。
「…あ!」
嬉しそうに顔を綻ばせて声を上げたのは、光。
倉持はぽかんとして俺と光を交互に見ている。
「ちょっと行ってくるわ」
そう言い残し、俺は光に駆け寄った。遠慮がちに倉持を見て不安そうにする光の背中を押し、いーのいーの、と学校の中庭の方へ促す。
「先輩、今日は忙しいんですか?」
ベンチに座るなりそう切り出した光に、俺は別に、と首を振った。
「練習自体は休みだしな。筋トレでもしようかと思ってたけど。」
「そうですか…」
光は少し間をおいて、また口を開く。まだ少し遠慮がちだ。
「あの…練習の邪魔はしないので…今日は、ここにいてもいいですか?」
意外な申し出に、俺は眼を瞬いた。
「いいけど…何かあったのか?」
「…今…あまり、家にいたくなくて」
どういうことだ?
「お父さんが…予定より早く、帰ってきて…しばらく家にいるみたいなので」
父親とあまり上手くいってないのか?これは聞いてもいいことなのだろうか。まあ、仲良しではなさそうだとは思っていたけど。
「まー俺は全然いいけど。まだ俺と倉持しかいねーし、平気だよ。」
できるだけ軽い調子で言うと、光は少し安堵したような顔で微笑んだ。
その頬に手を触れて、自然な動作で口づけをする。
いつの間にか、キスならばほとんど躊躇いもなく自然とできるようになった。その事実をかみしめて、俺はまた嬉しくなる。
軽いキスをして唇を離すと、光はじっと俺を見上げてきた。
「…どした?」
「……もっと…してください」
俺は小さく笑みを浮かべて、また唇を触れ合わせる。チュ、と音を立てて唇を離すと、光はムッとして唇を尖らせた。…え?なんで?
「…もっとっていうのは、そうじゃなくて…」
光は顔を赤くしながら俺の服の裾をつかむ。
「もっと……あの……」
なんだ、そういうことか。俺は俯く光の顎を上げ、もっとしっかりと唇を重ねた。舌を絡ませ、深く触れ合うキス。俺の服をつかむ小さな手に力がこもる。それがまた俺を煽る。
「ん……ふ……」
光は息苦しそうな甘い声を漏らす。少し目を開けてみると、必死に息継ぎをしながら俺を求めている光が見える。たまんねえ。ほんと、可愛いな…。
光の小さな顔を両手で包みこみ、首筋を撫で、耳たぶを撫で、髪を指に絡ませる。可愛い。可愛い。もっと、もっと欲しい。光もそれに応えるように、俺の髪を指に絡ませ、胸板を撫でる。おい待て、それはまずいって…。
「…ちょっ、…待て」
唇を離すと、光は不思議そうな顔をした。
「これ以上すると、ヤバイから…」
そう告げると、光は顔を赤くして、そうですか…と俯いた。
「寒いから、練習場の中にいろよ。たぶん、倉持がいるから」
さすがに寮の部屋には入れられねーけど、練習場なら出入り自由だし、大丈夫だろ…。
「…先輩は?」
一人で行かせようとすることに疑問を抱いたのだろう。首をかしげる光に、俺はぎこちなく笑う。
「俺は…部屋で着替えてから行くから」
つーか、ヤバイ。さっきのキスでいろいろとヤバイ。
「…わかりました。」
光は訝し気にしながらも練習場の方へと去っていった。それを見送って、俺は急いで部屋に駆け込むのだった。
まだ誰も戻ってきてなくて良かった。本当に良かった。
心の中でそう繰り返しながら。
翌朝早くに中庭で素振りをしていると、背後から声がした。
振り返ると、ボストンバッグを持った倉持が立っていた。
「あけましておめでとう」
「おー、おめでとう。」
恒例のあいさつを交わすと、仕切りなおすように倉持は口を開く。
「お前、もう戻ってたのかよ。」
「あー、昨日からな」
「元旦から!?あーそうか、お前地元にダチいねーもんな。ヒャハッ」
「はっはっは。そっちこそ…」
「あ?うるせーよ。」
悪態をつきながら、倉持は部屋の鍵を探し始める。
「飯食った?」
「まだだけど。」
「じゃ、モック行かねぇ?」
「おー」
倉持が部屋に入るのを見送って、俺も道具を片付けて着替えをしに部屋に戻る。
光っている携帯を開くと、珍しいことに光からメールが来ていた。
『今日、会いに行ってもいいですか? 光』
俺は思わずにやけそうになりながら返信を打つ。
「御幸〜まだ?」
「今行く」
財布と鍵をひっつかんで、部屋を出る。早朝の凍り付きそうな空気も、今なら清々しく感じた。
***
「お前初詣行った?」
「行った。」
「マジ?お前初詣一緒に行くような友達いたのかよ?」
「大きなお世話…」
「誰と行ったんだよ?あ!もしかしてアレ?稲実の成宮鳴!」
「なんでだよ……あ」
倉持とくだらない話をしながら寮に戻ってくると、門の前に座り込んでいる人影があった。
その人物は俺たちが歩いてきたことに気付くと顔を上げ、立ち上がった。
「…あ!」
嬉しそうに顔を綻ばせて声を上げたのは、光。
倉持はぽかんとして俺と光を交互に見ている。
「ちょっと行ってくるわ」
そう言い残し、俺は光に駆け寄った。遠慮がちに倉持を見て不安そうにする光の背中を押し、いーのいーの、と学校の中庭の方へ促す。
「先輩、今日は忙しいんですか?」
ベンチに座るなりそう切り出した光に、俺は別に、と首を振った。
「練習自体は休みだしな。筋トレでもしようかと思ってたけど。」
「そうですか…」
光は少し間をおいて、また口を開く。まだ少し遠慮がちだ。
「あの…練習の邪魔はしないので…今日は、ここにいてもいいですか?」
意外な申し出に、俺は眼を瞬いた。
「いいけど…何かあったのか?」
「…今…あまり、家にいたくなくて」
どういうことだ?
「お父さんが…予定より早く、帰ってきて…しばらく家にいるみたいなので」
父親とあまり上手くいってないのか?これは聞いてもいいことなのだろうか。まあ、仲良しではなさそうだとは思っていたけど。
「まー俺は全然いいけど。まだ俺と倉持しかいねーし、平気だよ。」
できるだけ軽い調子で言うと、光は少し安堵したような顔で微笑んだ。
その頬に手を触れて、自然な動作で口づけをする。
いつの間にか、キスならばほとんど躊躇いもなく自然とできるようになった。その事実をかみしめて、俺はまた嬉しくなる。
軽いキスをして唇を離すと、光はじっと俺を見上げてきた。
「…どした?」
「……もっと…してください」
俺は小さく笑みを浮かべて、また唇を触れ合わせる。チュ、と音を立てて唇を離すと、光はムッとして唇を尖らせた。…え?なんで?
「…もっとっていうのは、そうじゃなくて…」
光は顔を赤くしながら俺の服の裾をつかむ。
「もっと……あの……」
なんだ、そういうことか。俺は俯く光の顎を上げ、もっとしっかりと唇を重ねた。舌を絡ませ、深く触れ合うキス。俺の服をつかむ小さな手に力がこもる。それがまた俺を煽る。
「ん……ふ……」
光は息苦しそうな甘い声を漏らす。少し目を開けてみると、必死に息継ぎをしながら俺を求めている光が見える。たまんねえ。ほんと、可愛いな…。
光の小さな顔を両手で包みこみ、首筋を撫で、耳たぶを撫で、髪を指に絡ませる。可愛い。可愛い。もっと、もっと欲しい。光もそれに応えるように、俺の髪を指に絡ませ、胸板を撫でる。おい待て、それはまずいって…。
「…ちょっ、…待て」
唇を離すと、光は不思議そうな顔をした。
「これ以上すると、ヤバイから…」
そう告げると、光は顔を赤くして、そうですか…と俯いた。
「寒いから、練習場の中にいろよ。たぶん、倉持がいるから」
さすがに寮の部屋には入れられねーけど、練習場なら出入り自由だし、大丈夫だろ…。
「…先輩は?」
一人で行かせようとすることに疑問を抱いたのだろう。首をかしげる光に、俺はぎこちなく笑う。
「俺は…部屋で着替えてから行くから」
つーか、ヤバイ。さっきのキスでいろいろとヤバイ。
「…わかりました。」
光は訝し気にしながらも練習場の方へと去っていった。それを見送って、俺は急いで部屋に駆け込むのだった。
まだ誰も戻ってきてなくて良かった。本当に良かった。
心の中でそう繰り返しながら。