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「うわ〜…」
ホテル生活の中、数日ぶりに様子を見に帰った我が家…マンションは、どこかの週刊誌の取材班の車に囲まれて物々しい雰囲気が漂っていた。あんなことになったら、同じマンションの人たちに迷惑が…最悪、出て行くように言われるかも。あ〜、もうほんっとサイアク。
光の入院を聞きつけて、目をつけていたマスコミたちが、退院の日を狙ってどっと押し寄せた。私はその日にマスコミに取り囲まれて、携帯は失くすわ、怪我はするわ、つきまとわれるわでもう散々。会社からも『状況が落ち着くまで身を隠せ』とか言われるし。
光は一時生死を彷徨って…赤ちゃんを亡くして、いますっごく辛い時なのに、傍にいられないなんて。せめて連絡だけでも取りたいけど…携帯は失くしたし…。
光、今どこにいるんだろう。私ですらこんな状態なんだから、光や御幸さんはもっと大変だろうな。退院の日、無事家まで帰れたのかなぁ。あ〜もう、マスコミめ…人の不幸をなんだと思ってんの。
「おい!あれ、牧瀬司じゃないか!?」
「えっ!帰って来たのか!?」
「げっ…」
何日も張り込んでいたのであろうマスコミたちが、色めき立って車から降り、こっちに向かって走ってくる。
「牧瀬さーん!!玉城光さんから何か連絡は!?」
「入院したというのは本当ですか!?」
「流産したという噂は!?」
「誰かに突き飛ばされたというのは事実なんですか!?」
…酷い。どうしてそんなこと、大声で言えるの?怒鳴りつけたくなって、ぐっとこらえる。そんなことをしても、面白おかしく報道されて、余計に騒ぎが大きくなるだけ…。光をもっと傷つけることになる。どうすれば…どうすれば光のためになる?どうすれば、この人たちは、騒ぐのを辞めてくれるの?
私はただ、光に安心して毎日を過ごしてもらいたいだけ。昔からずっと注目されて…外野に騒がれて…良い事も悪い事も言いふらされて…。あの子はもっと、小さなことを、特別な人とだけ大切にして、それが幸せだと感じる女の子なのに。
知らず知らずのうちに涙が出てきて、私はマスコミたちを見渡した。そして、深く頭を下げた。
「…お願いします!光のこと…今はそっとしておいてください!」
「噂は事実だという事ですか!?」
「玉城さんは妊娠されていましたが、どうなったんですか!?」
「そっとしておいてください!!」
少しだけマスコミが息をのんだように静かになった。
「…お願いします…」
声が震えて、喉の奥に涙の味が広がった。目の前がジワリと滲む。だめだ、今泣いてる場合じゃない。泣くな、私…
「玉城さんは…」
まだなにか言いかけた記者の声が、ブォン!と空気を燃やすようなエンジン音にかき消された。思わずみんなが振り向くと、すぐそばの歩道に寄せて停車した、一台のマットブラックのスポーツカーが目に留まる。
ぽかんとしていると、運転席から男の人が降りてきた。すらっとしたスーツ姿の、背の高いサングラスの男。…もしかして、と思っていると、彼はサングラスを外しながら私の方へ歩いてきた。
「み、光臣さん…?」
「行くぞ」
有無を言わせず私の腕を掴み、歩き出す光臣さん。待ってください!と記者たちが追いかけてくるのを無視して、私を助手席に座らせると、光臣さんは運転席に乗り込み、構わずエンジンを蒸す。車を取り囲んだ記者たちも、唸るようなエンジン音を聞くと、じりじりと後ずさりした。車は発進し、どんどんスピードを上げていく。マスコミのワゴン車がのろまに思えるほど。あっというまに彼らを振り切った頃には、車は高速道路に乗っていた。
「あの…なんで…?」
「昨日、倉持洋一に会ったんだ。君と連絡が取れないことを心配していた。それで君の事務所へ行ったら、君はしばらく休みを取らせていると言われたからな。こんなことになってるんじゃないかと思ったんだ」
「…それで来てくれたんですか?」
「君が困っていると、光が悲しむからな」
…つまり光の為だと。
隠そうともしない本音に、思わず口元が緩んだ。ほんと、光のことが大切なんだな。
「ありがとうございます。助かりました。」
「気にするな。それに、畏まらなくていい。」
「え?」
「同い年だろ。」
気楽に伝えられた言葉に、そう言えばそうだった、と笑いがこみ上げる。
「あはは…そうだったね。」
「それで、行くあてはあるのか?」
「今はホテルにいますけど…」
「ホテルはやめたほうがいいな」
「そうですよね…」
「恋人は?家において貰えばいいじゃないか」
「無理ですよ、今日本にいないし…」
それに…実は、ここのところうまくいってない。あまり連絡が来なくなったし、お互いに忙しくて、会える時間もなくて。だけどそこまで光臣さんに言うのは憚られて、口を噤んだ。
「珍しいな。」
「え?」
「君はいつでも賑やかなのかと思っていた」
「あ…えへへ〜…いつもうるさくてごめん…」
「…いいんじゃないか?君がいると、場が明るくなる」
「へ…」
「光も、そんなところに救われてるんじゃないか。」
「……。」
そう…なのかな。そうだといいな…。
「それじゃ…行くあてはないと言うことだな?」
「…すみません」
「謝ることじゃない。それに、いい場所を案内してやれる」
「え?」
「俺の別宅も、最近マスコミがしつこくてな…。しばらく別荘に移ることにしたんだ」
「はあ…。」
「君さえよければ、一緒に行くか?」
「……。」
な…なんなの。これ。い…いやいや、別に光臣さんはそう言うつもりで言ってるんじゃないよね。そーだよね。私なんかそんな対象で見るわけないし…。そう、光の友達だから言ってるだけで…。
「…迷惑だったか?」
「え!?あ…いえいえ!あの…た、助かります!」
慌てて首を横に振ると、光臣さんは少しキョトンとして、突然笑い出した。
「…また敬語になってるぞ。」
「え…!?あ…、あはは…。」
…なんか、緊張する。
私は落ち着かず、光臣さんの爽やかな香水の香りを感じながら、助手席の車窓を眺めていた。
ホテル生活の中、数日ぶりに様子を見に帰った我が家…マンションは、どこかの週刊誌の取材班の車に囲まれて物々しい雰囲気が漂っていた。あんなことになったら、同じマンションの人たちに迷惑が…最悪、出て行くように言われるかも。あ〜、もうほんっとサイアク。
光の入院を聞きつけて、目をつけていたマスコミたちが、退院の日を狙ってどっと押し寄せた。私はその日にマスコミに取り囲まれて、携帯は失くすわ、怪我はするわ、つきまとわれるわでもう散々。会社からも『状況が落ち着くまで身を隠せ』とか言われるし。
光は一時生死を彷徨って…赤ちゃんを亡くして、いますっごく辛い時なのに、傍にいられないなんて。せめて連絡だけでも取りたいけど…携帯は失くしたし…。
光、今どこにいるんだろう。私ですらこんな状態なんだから、光や御幸さんはもっと大変だろうな。退院の日、無事家まで帰れたのかなぁ。あ〜もう、マスコミめ…人の不幸をなんだと思ってんの。
「おい!あれ、牧瀬司じゃないか!?」
「えっ!帰って来たのか!?」
「げっ…」
何日も張り込んでいたのであろうマスコミたちが、色めき立って車から降り、こっちに向かって走ってくる。
「牧瀬さーん!!玉城光さんから何か連絡は!?」
「入院したというのは本当ですか!?」
「流産したという噂は!?」
「誰かに突き飛ばされたというのは事実なんですか!?」
…酷い。どうしてそんなこと、大声で言えるの?怒鳴りつけたくなって、ぐっとこらえる。そんなことをしても、面白おかしく報道されて、余計に騒ぎが大きくなるだけ…。光をもっと傷つけることになる。どうすれば…どうすれば光のためになる?どうすれば、この人たちは、騒ぐのを辞めてくれるの?
私はただ、光に安心して毎日を過ごしてもらいたいだけ。昔からずっと注目されて…外野に騒がれて…良い事も悪い事も言いふらされて…。あの子はもっと、小さなことを、特別な人とだけ大切にして、それが幸せだと感じる女の子なのに。
知らず知らずのうちに涙が出てきて、私はマスコミたちを見渡した。そして、深く頭を下げた。
「…お願いします!光のこと…今はそっとしておいてください!」
「噂は事実だという事ですか!?」
「玉城さんは妊娠されていましたが、どうなったんですか!?」
「そっとしておいてください!!」
少しだけマスコミが息をのんだように静かになった。
「…お願いします…」
声が震えて、喉の奥に涙の味が広がった。目の前がジワリと滲む。だめだ、今泣いてる場合じゃない。泣くな、私…
「玉城さんは…」
まだなにか言いかけた記者の声が、ブォン!と空気を燃やすようなエンジン音にかき消された。思わずみんなが振り向くと、すぐそばの歩道に寄せて停車した、一台のマットブラックのスポーツカーが目に留まる。
ぽかんとしていると、運転席から男の人が降りてきた。すらっとしたスーツ姿の、背の高いサングラスの男。…もしかして、と思っていると、彼はサングラスを外しながら私の方へ歩いてきた。
「み、光臣さん…?」
「行くぞ」
有無を言わせず私の腕を掴み、歩き出す光臣さん。待ってください!と記者たちが追いかけてくるのを無視して、私を助手席に座らせると、光臣さんは運転席に乗り込み、構わずエンジンを蒸す。車を取り囲んだ記者たちも、唸るようなエンジン音を聞くと、じりじりと後ずさりした。車は発進し、どんどんスピードを上げていく。マスコミのワゴン車がのろまに思えるほど。あっというまに彼らを振り切った頃には、車は高速道路に乗っていた。
「あの…なんで…?」
「昨日、倉持洋一に会ったんだ。君と連絡が取れないことを心配していた。それで君の事務所へ行ったら、君はしばらく休みを取らせていると言われたからな。こんなことになってるんじゃないかと思ったんだ」
「…それで来てくれたんですか?」
「君が困っていると、光が悲しむからな」
…つまり光の為だと。
隠そうともしない本音に、思わず口元が緩んだ。ほんと、光のことが大切なんだな。
「ありがとうございます。助かりました。」
「気にするな。それに、畏まらなくていい。」
「え?」
「同い年だろ。」
気楽に伝えられた言葉に、そう言えばそうだった、と笑いがこみ上げる。
「あはは…そうだったね。」
「それで、行くあてはあるのか?」
「今はホテルにいますけど…」
「ホテルはやめたほうがいいな」
「そうですよね…」
「恋人は?家において貰えばいいじゃないか」
「無理ですよ、今日本にいないし…」
それに…実は、ここのところうまくいってない。あまり連絡が来なくなったし、お互いに忙しくて、会える時間もなくて。だけどそこまで光臣さんに言うのは憚られて、口を噤んだ。
「珍しいな。」
「え?」
「君はいつでも賑やかなのかと思っていた」
「あ…えへへ〜…いつもうるさくてごめん…」
「…いいんじゃないか?君がいると、場が明るくなる」
「へ…」
「光も、そんなところに救われてるんじゃないか。」
「……。」
そう…なのかな。そうだといいな…。
「それじゃ…行くあてはないと言うことだな?」
「…すみません」
「謝ることじゃない。それに、いい場所を案内してやれる」
「え?」
「俺の別宅も、最近マスコミがしつこくてな…。しばらく別荘に移ることにしたんだ」
「はあ…。」
「君さえよければ、一緒に行くか?」
「……。」
な…なんなの。これ。い…いやいや、別に光臣さんはそう言うつもりで言ってるんじゃないよね。そーだよね。私なんかそんな対象で見るわけないし…。そう、光の友達だから言ってるだけで…。
「…迷惑だったか?」
「え!?あ…いえいえ!あの…た、助かります!」
慌てて首を横に振ると、光臣さんは少しキョトンとして、突然笑い出した。
「…また敬語になってるぞ。」
「え…!?あ…、あはは…。」
…なんか、緊張する。
私は落ち着かず、光臣さんの爽やかな香水の香りを感じながら、助手席の車窓を眺めていた。