「うん、さっき夕食を食べたところ。体調?大丈夫だよ。そっちは?」

携帯電話を片手に楽しそうにお喋りをする光。電話の相手は牧瀬だ。

「そうなんだ。うん…、うん。あはは。」

牧瀬が何か冗談でも言ったのだろうか。光はしばらく笑って、それから仕切り直すように話を切り替えた。

「それで、光臣は?変な事されてない?大丈夫?」

思わず噴き出しそうになる。光は牧瀬と電話をするたびに同じことを聞く。光臣、全く信用されてねーなぁ…。ここまでくるとちょっと不憫だ。奴もここのところは心を入れ替えて頑張っているというのに。

「本当に?そう…それならいいけど…。」

さすがに牧瀬に無責任に手を出すことはしないんじゃないだろうか、と俺は思う。いくら女たらしだからって…大事な大事な光に軽蔑されるようなことは、あいつは避ける気がする。

「うん。うん…じゃあ、またね。」

和やかな雰囲気で電話を終えた光に、背中から抱きつく。ふふ、と嬉しそうな微笑がこぼれる。

「もうちょっと光臣のこと、信用してやったら?」

笑い交じりに言うと、光は苦笑いを浮かべた。

「別に信用してないわけじゃないけど…」
「いやいや、めっちゃ疑ってるじゃん。まぁあいつの場合は自業自得だけど…」
「…だって。昔は本当に見境なかったから…」
「そんなに?」

体を離して隣に座り、長椅子の背もたれに腕を回す。うん、と光は頷いて、懐かしむように話し始めた。

「中学生の頃、少しの間だけ同じ屋敷で生活してたんだけど」
「…うん」
「毎日のように女の子連れこむし、私の部屋にも入ってきて…」
「…え!?お前の部屋に?」

お…おい、何かしたとか言うなよ…

「うん、夜、寝てたら入ってきて。」
「な、何かされたのか?」
「キスされそうになって…」
「…はぁ!?」
「殴ってやったけど。」
「……。」

あっけらかんと言う光に閉口する。殴った…。光が、光臣を殴った…。…ちょっと面白い。

「…それであいつは?」
「ぽかんとしてた。まさか拒否されるなんて思ってもいなかったような感じで…」
「…ぶくく」
「笑い事じゃないよ…」
「そうだよな、ごめんごめん…」

いや、でも、何事もなくてよかった。本当に…
つーか、中学で既にその貞操観念の低さ…あいつ本当に女たらしなんだな。

「だから、一也さんに初めて会った時、びっくりしたの」
「え…なんで?」
「だって、いやらしい目で見てこない男の人、初めてだったんだもん」
「……。」

余程周りに恵まれてなかったんだな…。つか、いやらしい目って。めちゃくちゃそういう対象として見てたけど、俺も。

「あー、うーん…そっかぁ…」
「…胸、触っても…何もしてこなかったし」

そ…そういうとこ見られてたのか。あの時手出さなくてマジでよかった〜…。
そういえば…あの頃、結婚するまでそういう事したくない、みたいなこと言ってたっけ、こいつ。あれが本音だったとしたら…光臣の存在が影響してんのかな。まあ…嫌だよな、思春期に乱れた貞操観念の親族が傍にいたら…。

「でも本当はエッチなこと考えてたんだよね?」
「……。」

う…。
苦笑して黙り込むと、光はにやにやからかうように俺を見上げた。

「光臣のこと見てて、そういうことをしたがる男の人って、本当に嫌だと思ってた…」
「まぁ…そうだろうな。」
「でもね…、一也さんが、その…胸とか、触りたいって言ったでしょ」
「うわー、取消してぇ…」
「あは…」

光はちょっと俯いて、恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「でも、なんか…」
「?」
「か…一也さんに、言われるのは、ちょっと…う、嬉しかったの」
「……。」
「わっ…」

ぎゅう、と華奢な体を抱きしめた。あーもう…可愛くてたまらない。俺、弄ばれてんのかな。

「…俺はさ」

小さくてやわらかい頬を撫でて、赤い唇を親指で撫でる。柔らかい…。

「胸、触っていいよって言われたとき…」
「…うん」
「…必死に円周率数えてた。」
「えっ…?」

光は目を瞬いて、急に笑い出す。

「あはは…なにそれ…」
「いやだって、がっついて引かれたくなかったし」
「何で円周率?」
「萎えるだろ、気持ちが」
「ぷ…」
「笑い堪えんな。堪えるくらいなら思い切り笑え」

あははは、と遠慮なく笑いだす光。随分明るくなった。よかったなぁ…。
頬を撫でて顔を近づけ、口づけをする。頬を赤くしてはにかんだ赤い唇に、何度も唇を重ねる。ちゅ、ちゅ…、と甘い音が小さく響き、俺は柔らかでさらさらした紙を指に絡ませ、その心地を堪能する。

「んん…」

少し舌でを絡ませると、くぐもった声が漏れる。可愛い…。ここの所、毎晩しているし…きっと今夜も拒まれないはず。しかも、最近はすごく光も積極的に乱れて、俺を求めて、ほとんど一晩中ずっと繋がったまま過ごす。あの心地は…思い出すだけで腹の底が疼く。

「あ…、だめ…」

胸に触れると、光はやんわりと声を漏らす。構わず服の上から蕾を撫でると、甘い吐息がこぼれる。よしよし…まだ拒否ではない。

「…ねぇってば」
「ん?」

俺の手を柔らかく包み、胸から離す光。…あれ?

「今日は本当にダメなの」
「え…なんで?」
「生理だから」
「……。」

…まじかー。それは…さすがにできないな。

「そうか〜…」
「ごめんね。」
「いや…仕方ないよ。」

俺はせつなくなる腹の底に苦笑する。

「あ〜…円周率数えなきゃ」
「…ぷ…ふふふ」

 


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