『色なんて…聞かなくても、知ってるでしょ。…なんちゃって。えへへ』

さっきから光の言葉が頭から離れず、飲み会に集中できない。光、あんなこと言うんだ…か、可愛すぎる…。
これまでの飲み会でさっきの命令のような貧乏くじを引いた男たちは皆、恋人や妻から『キモい』とか『くだらないことで電話するな』とか、挙句の果てに無言で切られた人もいて…、だから御幸先輩は、さぞかし光が可愛くてたまらないことだろう。
先輩たちに絡まれながら迷惑そうにジョッキを傾ける御幸先輩を見る。いいなあ、帰ったら、あんな可愛い奥さんが自分のことを待ってる、なんて…。

「何か、聞いてるこっちが恥ずかしかったな」

信二が苦笑いしながら、だけど少し羨ましそうに言って、ビールを喉に流し込んだ。
あはは、と小湊が相槌のように笑い、さっきから大人しい沢村を振り向く。

「栄純君、今日は静かだね。」
「今日っつーか、さっきからだな。」

沢村は、御幸先輩が照れたりしているのを見るのがどうも慣れないらしい。まあ、わかるけど…。

「あんな御幸先輩、珍しいもんな。」
「いやー、でもさ、御幸先輩の嫁ってこと抜きにして考えて、玉城光にあんなこと言われんの…男なら誰だってやばいだろ。」
「あ、信二もそうなんだ?」
「だから!男なら誰だって、って言ってるだろ!俺に限るな!」

すぐムキになる信二に少し気を持ち直す。

「理想の女性、って感じだよね。」
「あんな奥さんもらえたら最高だろ。可愛くて美人で、料理も上手くて、スタイルもよくて…」

それに、自分のことが大好きで…

「いやでもさすがに寝顔を眺めるのは変態…」
「沢村、何か言ったかー?」
「ぎゃああ!!!」

不意打ちで沢村の肩を掴み、どっかとそこに座り込む御幸先輩。一瞬で俺たちの顔が引きつった。い、いつから聞いてたんだ…!?

「な、な、な、なぜここに…」
「純さんたち容赦ねーからさ、倉持置いて逃げてきた。」

く…倉持先輩…。

「まぁ、沢村みてーなお子ちゃまにはわかんねーかなぁ、嫁さんの寝顔を眺める幸せは…」
「うるせー変態!光にバラすぞ!」
「おいタメ口。つか光もわかってるって言ってんじゃん。」

御幸先輩はなんだか上機嫌でジョッキを傾ける。

「はぁ〜〜〜帰りてぇ〜〜〜」
「……。」
「おいなんだよお前、急に静かになりやがって」

沢村に肩を組んでご機嫌な御幸先輩…。か…顔が緩みきってる。

「栄純君、光ちゃんの話してるときの御幸先輩がいつもと違うから、緊張しちゃうんですよ。」
「え?違うってどこが?」

む、無自覚なんだ…。

「えーと…」

さすがに、顔が緩んでる、とは言えない小湊が、困ったように言い淀む。

「アンタ光のことになるとデレデレしすぎなんだよ!我らが青道の元キャップという自覚が足りないんじゃないっすかね!?」
「はっはっはっは!なんだそれ。」

さ、沢村、言った〜…!でも御幸先輩全然動じてないな。

「そ、そういえば僕、高校の頃は光ちゃんと全然接点無くて知らないんですけど、」

小湊が仕切り直すように話を切り替えた。

「御幸先輩と光ちゃんって、付き合ったきっかけは何だったんですか?」
「え?」
「ほら、学年も違うし、どうやって知り合ったのかな〜って気になってて…」

小湊…。光の話をしておけば御幸先輩の機嫌を取れると思ってる…?まぁ、間違ってはいないだろうけど…。

「付き合ったきっかけ〜?」

御幸先輩はちょっと考えて、フッと遠い目をして微笑を浮かべた。

「ヒミツ♪」
「あ…そ、そうですか」

小湊…!引き下がるの早すぎるよ!

「でも…1年の夏に光さんが転入してきて、その年の冬には付き合ってたから…結構、出会ってすぐ付き合いだしたんすよね?」
「あぁ、まあそうだな。」

信二の質問に御幸先輩は他愛もなく頷く。

「俺たちが日々特訓に身を費やしている間に、女とイチャついてやがったんだな!?御幸一也という男は!!」
「人聞きのわりー言い方すんな」

「つ…付き合ってるって噂が広まった時、皆すごい騒ぎだったよね!二人ともモテるから…」

小湊が頑張って御幸先輩の機嫌を取ってる…。

「あー、俺のクラス、泣いてる男いたな…」
「僕のクラスの女子も、しばらく慰め合ってたよ。」
「はっはっは、さすがにねーだろ!話盛りすぎ!」

いや…本当の事だけど…。御幸先輩、知らなかったのか…?相当モテるのに無自覚?

「でも…光ちゃんが甘えたりするのって、なんだか想像つかないな。クールなイメージだったから…やっぱり、御幸先輩のこと、それだけ信頼してるんですね。」
「あいつツンデレだからな〜」

軽い調子で言ってのける御幸先輩。光のことをそんなふうに話せるのは…やっぱりちょっと、羨ましい。

「御幸先輩にもツンツンするんですか?」
「おー、昔はな。最近はデレの割合が…」
「おい、御幸。」

どかっ、と隣に割り込んできた伊佐敷先輩に、御幸先輩はゲッと顔を歪めた。

「楽しそうな話してんじゃねーか!俺にも聞かせてもらおうか!」
「いや〜はっはっは…」
「俺もずっと聞いてみたかったんだよ、後輩の女子と接点なんてねーはずなのに、どうやって知り合ったのかをなァ…!」

「知り合ったきっかけは、ラブレターでしょ?」

いつの間にか小湊先輩もやって来た。また御幸先輩をからかえる気配を察知したのだろうか。

「前に光ちゃんが言ってたし。」

…俺もそれは聞いた。お互い、知らない相手から呼び出された場所が偶然同じで、勘違いしたのが出会いだって…。

「あぁ!?ラブレター!?御幸お前ちゃっかりラブレターなんて書いてやがったのか!!」
「いや俺じゃないっすよ!」
「なっ…!!じゃあ玉城光が…!?」
「違うよ純。あのね…」

小湊先輩が説明すると、純さんは面白くなさそうに鼻を鳴らした。

「…胸糞わりぃ〜〜!!!」
「な…なんすかそれ…いたいけな後輩を捕まえて…」
「な〜〜にがいたいけだ!!」

伊佐敷先輩、もうかなり酔っぱらっている。御幸先輩の頭を捕まえてぐりぐりして、大きくジョッキを傾けた。

「それで!?付き合ったきっかけは!!」
「いや、それは…」

本気で言いたくなさそうな御幸先輩。のろけ話は堂々としてたのに…かえって気になる。

「なにもったいつけてんだゴルァ!!高校球児はただでさえ女と話すこともないのに、更に接点のない後輩の、しかもあんっっな美人をどうやって捕まえたのか!吐きやがれ!!」
「ふ、普通に告ったんですよ」
「普通に告っただとォ!?普通ってなんだゴルァ!!今までどんだけの男が玉城光に告ったと思ってんだこの野郎!!」
「純、酔いすぎ。」
「哲は…哲はなぁ!!あの子の傍にずっといたのに、告ることもできずに…」
「純。」

純さんの言葉に動揺して閉口している俺たちの元に、結城先輩までもがやってくる。ど…どうなってるんだ、これ…!?

「て、哲さん…」

気まずそうに顔を引きつらせる御幸先輩。お…俺たちも、なんか…居辛いな、ここ。
っていうか、結城先輩も光のこと好きだった…ってことか!?幼馴染、とは聞いたことあるけど…

「告白ならしたぞ。」
「え…」
「…え!!?」

部屋が静まり返った。御幸先輩も、伊佐敷先輩も…小湊先輩も言葉を失って結城先輩を見上げている。

「え…っと、哲。告白って…好きですって言ったの?」

小湊先輩が訊ねる。そうだ、結城先輩は天然なところがあるから…別の意味の告白ってことも…

「好きだ、付き合ってくれ、と言ったぞ。」
「……。」
「……マジ?」

思わず御幸先輩がタメ口になってる…。

「い…いつ?」
「俺が野球部を引退した頃だ。」
「そ、それで光ちゃんは?なんて?」
「俺のことは、兄のように思っているから無理だ、と言っていた。」
「……それは…」

い…一番不憫なやつだ…。

「…兄貴…」

それまで静かだった、結城先輩の弟…将司がやってくる。あ、兄貴のこんな話…驚いたんじゃないだろうか。

「兄貴も告白してたのか。」
「…ん?」
「兄貴…も?」
「お、おい将司、それって…」

「…俺も告白した」
「…えぇ!?」

目を丸くする同級生たち…だけではない。ちょっと待って…光、モテすぎ…。

「待って、将司は光先輩にいつ告ったの?」
「…俺が高校に入ってからだ」
「それで…光先輩はなんて?」
「…俺のことは、弟のように思っているから無理だと」
「…き、兄弟そろって…」

笑いだす瀬戸。物騒なオーラを放ちだす奥村。戸惑いを露わにする由井と九鬼と浅田…。

「他には?まだいるんじゃないの、どうせ。ここまできたら言っちゃいなよ。」

小湊先輩が水を得た魚のように活き活きとし出した。御幸先輩は相変わらず閉口している。

「あれ?お前2年の時告ってたよな!な!」
「てめっ…バラしてんじゃねーよ関!!」
「おっ、出てきた出てきた。」

にやにや、小湊先輩が楽しそうだ。

「あの…」

おそるおそる、手をあげる。心臓がばくばくする。

「…俺も…」
「お…おい東条!」

何バカ正直に、と信二の目が訴える。でも、俺が告ったことなんて、もう御幸先輩は知ってるし…。

「へぇ、東条も?麻生より意外だね。モテそうだし」
「い…いや、そんなことは…」
「……。」

麻生先輩が閉口した。

「でもお前たしか光ちゃんと仲良くなかった?1年の時噂になってたよね。」
「え…いや、自分の噂のことはよく…」
「よく一緒に居ただろ。噂になってたよ。でも、それでもフラれたんだ?なんで?」

ぐ…ぐさぐさ聞くなぁ…。

「いや…俺が告ったのは、御幸先輩と付き合ってるってわかってからなんで…」
「え、じゃあフラれるのわかってて告ったんだ?」
「まぁ、そうですね、気持ちの整理の為っていうか…」
「もったいないな〜。御幸より先に告ってたら付き合えたんじゃない?」
「い…いやいや!どっちにしろ無理だったと思います…!」
「そう?麻生よりは断然可能性あると思うけど。」
「……。」

あ…麻生先輩が睨んでる…!引き合いに出すなよ〜…!

「それで他には?どうせまだいるんだろ。」
「…実は」

ちょっと手をあげたのは、楠先輩…。

「はは、俺も告った。」
「え…文哉、本当に?」

小湊先輩は今までで一番驚いたように言った。確かに楠先輩は意外だ、意外すぎる。

「接点なんてあったっけ?」
「うん、委員会が一緒でさ。むこう転入生だったから、しばらく仕事教えたりして、ちょっと話すようになって…」
「へー、王道じゃん。」
「まあ、フラれたけどな〜。」

フラれたことを打ち明ける様子すらも爽やかな楠先輩…。

「東条と文哉というイケメンですらフラれたわけか…結城兄弟も男らしくて女子から結構人気あるのにね。」
「……。」

黙り込んでいる麻生先輩の肩に慰めるように手を置く関先輩…。

「で、何で倉持は黙ってるんだよ。」
「えっ…」

小湊先輩の言葉で、皆の視線が一気に倉持先輩に注がれた。

「お前が名乗りを上げるのを今か今かと待ってたんだけど?」
「え、や、俺…」
「お前ほどしつこく食い下がってる男が他にどこにいるんだよ。」
「……。」
「で、何回くらいフラれたの?」

にやにやにや。小湊先輩、ほんと楽しそうだな…。

「…確かにフラれてますけど、」

倉持先輩は静かに言った。

「…俺は好きだとも言われてるんで。」

ど…ドヤ顔…!

「へえ、まあ旦那の友達だと思われてるしね。友達いないのに。」
「ちょっ…!これマジっすから!好きって言われましたから!一人の男として!」
「じゃあなんでフラれたのさ?」
「…御幸と別れる気はないって」

ぶは、と小湊先輩が噴き出した。

「体のいい断り文句じゃん。」
「くっ……」

倉持先輩は悔しそうに顔を顰め、口を開いた。

「でも俺は、光と…!」

言いかけて、やべ、と口を噤む倉持先輩。…御幸先輩も焦ったように息をのんだ。な…なんだろう?何を言いかけたんだろう…?小湊先輩は、にやにやしてるけど…。

「光ちゃんと、何?」
「…何でもないっす」

やさぐれたように、倉持先輩は珍しく小湊先輩に対して不機嫌を露わにして、ビールを喉に流し込んだ。

 


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