今日は信二と牧瀬と3人で飲み会だ。待ち合わせの居酒屋へ向かう途中、携帯に着信があった。牧瀬からだ。俺はこっそりと裏道に入りながら応答ボタンを押す。

「もしもし、牧瀬?」
『うん!あのさあ今日の飲み会なんだけど、ひとり友達呼んでもいいかな?』

ん…?誰だろう?

「いいけど…誰?」
『あのね、玉城光臣っていう…光の従弟で、私たちと同い年の…会ったことあったっけ?』
「…一応、聞いたことはある…けど」

光の従弟…か。たしか、社長さんなんだよな?

『そっか!なんか同年代の同姓の友達が少ないらしくてさ、東条君たちのこと紹介してあげたいんだけど。いい?』
「別にかまわないけど、俺たちでいいのかな?」
『うんうん、お願いします!』
「はは、こちらこそ。」

よかったー、ありがとう!と牧瀬の明るい声が返ってくる。

『じゃあお店でね!』
「うん、じゃあ。」

電話を切り、足を速める。
牧瀬…光の従弟とも仲が良いのか。ほんと、すぐ人と打ち解けるなぁ…。そういうところ、ちょっとうらやましいな。



***



「はじめまして。玉城光臣です。」

爽やかな白いシャツの、端正な顔立ちの男…。さすが従弟、光にちょっと似てる…というか……奥村にめっちゃ似てる…!!

「は、初めまして。金丸信二です。」
「と…東条秀明です。よろしく。」
「…よろしく。」

ふたりとも野球選手なんだよ、という牧瀬の紹介に頷く彼。

「えーと…玉城さん…は、今社長さんなんだよね…?大学卒業して、すぐ?」
「光臣で構わない。大学はアメリカのブロウン大学を卒業して、2年スイスの本社で経験を積んでから日本支社を任された。」
「へぇ…す…すごいな…」
「…ん?でも、同い年だよな?大学が4年で…2年スイスで…あれ?」
「ああ、大学は飛び級をしたから、2年しか通っていないんだ。」
「……。」

す…すごすぎて話が続かない…!

「えーと…」
「光とは…仲良いんですか?」
「…いや、最近口を聞いてもらえるようになった。」
「え…」

口も利かなかった仲ってこと…か?な…なぜ…
聞いてもいいものかどうか…。

「もー!そんなだから友達できないんだよ、光臣!」
「…なにか悪かったか?」
「愛想がなさすぎるの!」

「……。」
「……。」

牧瀬と光臣の親密さもなんだか気になるし…。

「ほら、光臣も何か聞いてみなよ。」
「……。」

ちらり、と俺たちを見る光臣。

「…御幸一也とは」
「え」
「ああ、御幸先輩」
「親しいのか?」

俺は信二と顔を見合わせ、曖昧に頷く。

「親しいっていうか…」
「まぁ、高校で同じ野球部の先輩だし…」
「今はたまに飲み会で会うくらいだよな。」
「うん、先週の飲み会で会ったよね。」
「そういえばその時、光さんの電話に出たよな?光臣。」

光臣は一瞬きょとんとして、ああ、と思い出したように頷いた。

「あの時、君たちもいたのか。」
「あの日は野球部OB大集合だったからな〜。」
「俺たちの知らない後輩もいたくらいだもんね。」
「あの電話、結局なんだったんだ?」
「え…」
「光の様子がおかしかった。」
「えっと…」

い…言えない。従弟にこんな…

「妙に上機嫌だった…」
「さ、さあ、なんだったっけ?信二」
「いやー、俺も酔ってたし…」

必死にはぐらかし、この話は流すことにする。

「の…飲み会と言えば、その日の飲み会すごくてさ!」
「へ、何なに?」

俺が話を切り替えると、牧瀬が興味を引かれたように身を乗り出してきた。

「昔、光のこと好きだった奴が何人もわかってさ、」
「…東条お前、それお前が言うのかよ…俺その話題避けてたんだけど!」
「え、そうだった?」
「お前に気遣ってたんだっつの!」

ごめんごめん、と信二を宥め、話を続ける。

「それでさ、やっぱ光、めちゃくちゃモテてたんだな〜って」
「へえ、例えば誰?」
「結城先輩とか、弟の将司とか、麻生先輩とか…」
「へえ!やっぱ結城先輩そうだったんだ!」
「え、知ってたの牧瀬?」
「勘だよ、勘!で、あとは?」
「はは、俺もだけど…あと意外なとこで、楠先輩。」
「へぇ〜!それは知らなかったぁ!」

牧瀬は楽しそうに手を打った。

「あとあの人もでしょ?」
「え?」
「倉持さん!何度も諦めずに言い寄ってるじゃん!」

倉持先輩…牧瀬にまで言われてるよ…。

「倉持先輩と言えば…」

信二が思い出したように口を開いた。

「あの時何か言いかけて、隠してたよな?」
「あ、あ〜…」
「え?どういうこと?」

興味津々の牧瀬に、飲み会でのことを詳しく説明する。

「…で、慌てた感じで何でもないとか言って…」
「御幸先輩もちょっと焦ってたね。」
「それ……。」

牧瀬が口を開きかけて、閉口して沈黙した。

「え、何、牧瀬何か知ってるの?」
「いやなんでもない。」
「なんだよそれ、気になるだろーが!」
「倉持先輩と光、もしかして何かあったの?」
「いや、知らな…」

「…一度セックスしただけだろ?」

きょとん、と言い放った光臣の言葉に、俺と信二は言葉を失った。

「…え…」
「え!?」

「バカ!!」

牧瀬がものすごい勢いで光臣の肩を叩く。いて、と光臣はたいして動じずに肩を竦めた。

「…いきなり叩くな」
「いきなりあんな事言うからでしょ!!言っていいことと悪い事が…」
「え、ちょ、ちょっと待って」
「ほ…本当なのか?」

やば…、と牧瀬の顔が歪んだ。

「…光臣のせいだからね!」
「…何が?」

光臣はあくまで大したことを言ったつもりはないらしい。ど…どういうつもりだったんだろう。

「え…じゃあ、本当…に?」
「あの二人が…?」

そういう行為をした、ってこと…?そ、想像できない。

「でもそれって…ふ、不倫…?」
「違うって!結婚前だから!御幸さんと別れた時!」
「あ…あぁ…」
「それに、倉持さんは…」

牧瀬は諦め交じりに言った。

「…光に、プロポーズまでしたんだから。」
「え…!」
「ま、マジで…?」
「へぇ…それは知らなかった」

ゲシ、と光臣の脇腹に牧瀬の肘鉄が入った。

「…っていうか、絶対誰にも言っちゃだめだからね!?」
「お…おう」
「うん…」

い、言えるわけないって…。

「…そんなに大したことか?」
「もー!女ったらしは黙ってて!」
「お、女ったらし?」
「そーなの!光臣ってば最近まで、何人もの女の人をとっかえひっかえしてたんだから!」
「……。」

端正な顔を苦々しく顰める光臣。へぇ…そうなんだ。モテそうだしなぁ。
…ってことは、結構…いやかなり、女性経験が豊富ってこと…か?

「だが…今はちゃんと、誠実に一人と向き合ってるだろ。」
「ちょ…」

うるさい、と牧瀬が小声でたしなめ、光臣はじっと牧瀬を見つめ…
ああ、このふたり、やっぱりそういう関係なんだ、と悟って、俺は信二と気まずく顔を見合わせた。

 


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