「え?来ないの?」

例によって沢村の家での飲み会。盛り上がってきたところで、光も呼ぼう!と言い出した牧瀬が、電話をかけるなり残念そうに声を上げた。

「え、あ〜、そうなんだ。そっか〜〜。わかった、お大事に〜。またね〜」

電話を切った牧瀬に尋ねる。

「具合でも悪いのか?」
「んや、光じゃなくて御幸さんがね、風邪気味なんだって。」
「へ〜、珍しい…。」
「ざんね〜ん…。じゃ、倉持さんよぼっか!」
「それはやめろ!!」

それまで呑気に雑誌を読んでいた沢村が慌てて制止する。

「え、もうメール送っちゃった」
「な、なんということを…」
「いいじゃん、沢村君倉持さんと仲良いでしょ?」
「どこが!!あの人にとっての俺は奴隷かサンドバッグだっつの!!」
「あははは、仲良いじゃん」

笑い飛ばす牧瀬の手元のスマホが鳴る。

「あ、これから来るって〜。」
「お、終わった…」

がくりと項垂れる沢村と、ケラケラ笑う牧瀬。

「でも今日はみんな忙しいんだねー。小湊君は飲み会、降谷君は帰省、金丸君は…」
「信二も飲み会だって。」
「忘年会シーズンだもんね〜。私も来週忘年会だよ。」
「俺も来週。」

平常心を装って牧瀬と話しているけど…内心、落ち着かなかった。倉持先輩…。どうしても、光との事を考えてしまう。
だけど5分ほどすると、早くもインターフォンが鳴った。うわー、来た、と沢村が肩を竦ませ、牧瀬が玄関へ向かう。

「いらっしゃーい」
「おー、お前らいつもここに溜まってんな…って」

倉持先輩は部屋にやってくると、俺と沢村を見て拍子抜けしたように笑った。

「なんだ、お前ら3人だけかよ。」
「忘年会シーズンでみんな忙しいんですよ。」

ふーん、と興味もなさそうにソファを占領し、袋をテーブルに置く。

「ほい、ビール持って来た。」
「おお!あざーっす!」
「い、いただきます!」

調子よくころりと機嫌を良くする沢村に少し笑いそうになる。やっぱり、高校のとき同室だったし…このふたり、仲良いんだよな。
俺の心配とは裏腹に、4人だけの飲み会はそれなりに盛り上がった。そのうち、牧瀬は恋人が迎えに来たからと帰って行き、終電が近づいて、俺は時計を見つつ立ち上がる。

「あ、俺、そろそろ…」

すると倉持先輩が気付いたように立ち上がった。

「あ、じゃあ俺も帰るわ」

え…一緒に?な、なんか気まずいんだけど…。

「おい沢村、俺ら帰るからな?ちゃんと戸締りしろよ!」
「……ぐう」
「おい!起きろバカ」

沢村を叩き起こす倉持先輩。乱暴だけど、沢村を玄関に引きずって行って、外へ出てドアを閉めて、きちんと鍵が閉まったのを確認して歩きだすのを見て、やっぱり面倒見のいい、根の優しい人だな、と思う。
夜道を二人…並んで歩くのはさすがに気が引けて、ほんの少し、気持ち後ろを歩く。

「お前帰り電車?」
「あ、はい、そうです!」
「時間平気なの?」
「はい、まだあと2本くらいは…」
「ふーん。」

無愛想な言葉。だけど…よく考えると、俺の心配をしてくれているんだとわかる。

「そういやお前、家近いの?」
「えっ…と、電車で20分位です。」
「そこそこあるな。」
「でも、1本ですから。」

また、ふーん、と愛想のない相槌が返ってきた。

「…お前さー、」
「え、あ、はい?」
「もう平気なのかよ。」
「え…?」

頭に疑問符をたくさん浮かべて倉持先輩の背中を見る。な、何の話だ…?

「気持ちの整理はついたのか?」
「……。」

…それって。

「…もしかして…光のこと、ですか?」
「……。」

少し間をおいて、低い声が夜風に乗って響く。

「うん。」

なんで…そんなこと聞くんだろう。

「……。」
「……。」

だめです、なんて、言えるわけないし…。しかも、倉持先輩に。
言葉に迷っていると、フッと、倉持先輩が小さく笑ったような気がした。

「え…、あの…?」
「無理だろ?」
「…え?」

倉持先輩は振り向かず、話し続ける。

「俺の周りではさ、」
「…はい」
「諦め着いた奴、ゼロだから。」
「……。」
「御幸含めてな。」

え…。それって、どういう…

「倉持先輩も…ですか?」

倉持先輩が立ち止った。そして、俺を振り向いた。

「俺はちげーよ。」
「え?…でも、好きなんですよね?光のこと…」
「好きだけど、…俺は何も欲しくないから。」
「…え?…???」
「お前は光と付き合いたいと思うんだろ?」
「…俺は…。そこまでは…」
「じゃあ何?抱きたい?」
「…っ、い、いや…」
「つーかお前ら、どこまで進んでんの?高校んとき仲良かっただろ。」
「……。」
「キスくらいはしてるか?」

キスくらい、って…。この間、8年越しに…やっとできたんだけど。しかも、誰にも言えないし…。

「…あ、待て。ひとりいたわ、諦め着いた奴。」
「え?」
「…光臣。」

まあでもあいつはどこまで本気だったんだか…、と倉持先輩は頭を掻く。い、従弟にまでモテてたんだ、光…。

「…ま、好きでいる分には自由だけどよ。期待はしない方が良いぜ。」
「……。」
「光が御幸以外の男を選ぶことは絶対ありえねーから。」

はっきりと言い切る倉持先輩に面食らう。自分も好きなくせに…それに、そんなことわかってる。だってもう、あの二人は結婚してるんだから…。

「あ、あと一つ忠告しておくけど」
「え…はい?」
「諦める代わりにキスしてくれ、とか、絶対言うなよ?後で後悔するぜ。」
「……。」

た…タイムリーすぎる…。

「え、まさかもう言った?」
「……えっと」
「ヒャハハハ、やっちまったな。諦められるわけねーんだから、ただのしつこい男になるぞ。」
「……。」

…確かに。もう、そうなってる…。
倉持先輩はひとしきり笑って、慰めるように俺の背中を叩いて、じゃーな、と道を折れて去って行った。

 


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