「一也先輩…?」

倉庫と化した準備室。ここの鍵が壊れているのは、あまり知られていない。

「あ、いた。」

段ボールの間から姿を現した光が、俺を見つけて笑顔を浮かべる。もうすっかり夏で、光も半袖のブラウスで、髪を高い位置でポニーテールにしている。この時期になると、女子の透けたブラの色をこっそりとみている男どもが湧くけど…、

「…何?」

光はキャミソールを着ているのか、全然透けてない。…安心したような、ちょっと残念なような。

「…何でもない。」

はぐらかしながら、追及を避けるようにキスをした。そしてそのまま壁に光を押し付け、腰を撫でる。

「…明日から、合宿だからさ」
「……。」
「今日…、していい?」

細ぇ腰…。まだどうどうとお尻を撫でたりはできない…。したいけど。

「ん…、い、いい…けど…」

光はちょっと困ったように頷く。…けど?なんだろう。

「…いいんだよな?」

もう一度きちんと確かめると、光はやっぱりちょっと困ったように俯いて、腕を胸元に置いた。

「い…、いいんですけど、でも、あの…今日は…」
「…何?」
「…下着が…。」

…?上下別とか?可愛くないヤツ着てきちゃったー、とか?

「…そんなの気にしなくていいから」
「え、…あっ」

ブラウスのボタンを外し、前を開く。…え?

「…水着?」
「き…今日、夕方…水泳部の助っ人で…泳ぐから…」

白い競泳水着。スクール水着じゃないんだー…、とか、余計なことを考えて振り払い、だから下着、透けてなかったのか…、とまた余計なことを考える。

「…水泳得意なの?」
「わからないけど…顧問の先生が水泳の授業の時のタイムを見て、誘ってきたんです。」

それって速いからじゃね?

「あ、司も一緒に。」
「…そう」

あいつは普通に得意そうだな。

「あの…」

光は恥ずかしそうに俯く。

「水着…じゃ、嫌ですよね…?」

…むしろご褒美なんだけど。

「いや…ありがとう」
「え…?」
「水着、見せてよ。」
「え…、でも、競泳用だし…可愛くないし」
「何言ってんだよ、見たい。」

可愛くないわけねーだろ…ほんとこいつ、自分の魅力に鈍感すぎ…。
光は渋々と制服を脱ぎ、水着姿になった。白い競泳水着…。そのスタイルの良さが際立ち、シルエットがはっきりとわかる。なんだかんだ、いつも制服をはだけてこういうことをしていたから、ちゃんと体の線を見るのはこれが初めてだった。

「……。」
「…な、なんか…恥ずかしいんですけど…」
「お前さ…」
「…?」
「スタイルいいよな。」
「え…。」

そうかな…。と、自信なさげな光。こんな美人でスタイルも抜群で、なんでこんなに自信がないんだか…。大問題だ。

「似合う。」
「…そう…ですか?」

まだ恥ずかしそうな光を抱き寄せて、夕方この姿を見る男がいるのか、と少し胸が焼ける。胸を撫でると、光は恥ずかしそうに肩を竦めた。

「あの…、」
「ん?」
「…しないんですか?」

いつもなら、胸を見せてもらって…場合によっては触らせてもらったり、スカートを捲って下着を見せてもらったりして、俺が自分でしごいたり、手でしてもらったりする。折を見て、彼女のを舐めたりとか…光にフェラしてもらったり…、とか。そんな欲望を抱いていたけど、まだ、触り合いっこから進展はない。
だから、今日は光の身体ばかり触る俺を、光は不思議そうに見た。

「合宿始まったら、しばらくこういうことできねーしさ」
「……?」
「今日はもうちょっと、見せて。…合宿、それで乗り切るから」
「……は、はい…」

恥ずかしそうにはにかむ光。俺のこの欲求不満…どれくらい理解してるんだろう。自分の裸を、俺がどんな風に見て、どんな風に思い出して…してるのか。考えたり、するんだろうか。

「…水着、汚したらまずいよな?」
「そう…ですね…替えがないから…」
「じゃあ、脱ごう」
「え…。」

顔を赤くして立ち尽くす光。それもそうだ、制服を脱いだ今、水着を脱いだら…何も身に纏うものがない。

「ぜ…、全部脱ぐんですか…?」

さすがに恥ずかしいか。でも…。

「…お願い。今日だけ。」

そんな調子のいいお願いをすると、光は躊躇いながら――肩ひもをずらした。胸の膨らみが少しずつ現れる。腰のあたりまで脱いだところで、胸を隠しながら脱ぎにくそうに水着をずらしていく光にもどかしくなって、俺は手を出して水着をずりおろし、足から引き抜いた。

「…だ、誰も…来ないですよね?」

そう不安そうにする光を、ドアの方から隠すように机に座らせる。

「ドア塞いであるから、平気だよ。」

そういいながら、俺も肉棒を取り出す。

「胸、見せて。」
「……。」

ゆっくりと腕が外される。うわ…、やっぱ、エロ本なんかとは比較にならない。綺麗なお椀型の膨らみも、桜色の可愛い蕾も、羞恥に赤く染まる、綺麗な横顔も…。…しごいてるのに、まだムラムラしてもどかしい。

「…足、あげて、広げてくれる?」
「え…。」

そんなことをしたら、秘部が丸見え…だけど。光はおずおずと、体育すわりになって、少し足を開く。足の隙間から少しだけ覗く、桜色の花弁…。少し蜜が滲み、甘い香りがしてきそうな…。

「足…もう少し開いてよ。胸が見えない…」
「…は、恥ずかしいよ」
「…だめ?」

俺、すげー我儘。この状況だって、ものすごい奇跡なのに。バチあたるかな…。

「……ん…」

足を開いてくれる光…。ああもう、俺の彼女最高。いいのかな、俺、こんなことして…。
だけど…ああ、もう、見てるだけ…とか、逆に辛い。またあそこに…挿れたい…けど、ゴムもないし…寮生活で、買いに行く隙もない…。唯一持ってたのは、冬に使っちゃったし。あー…、でも…。

「…光、…そこ、」
「…?」
「ちょっとさ…、広げてみせて」
「え…っ」

これ以上ない暗い顔を赤くして動揺する光。そうだよな、もうだいぶ限界だよなー…。普段、オナニーとかしないような子なんだから…。

「…お願い、もうちょっとで…イけそうだから」
「……。」

光は羞恥に目を潤ませて、唇を引き結んで…ゆっくりと、そこに手を伸ばして。桜色の爪の、白魚のように白くきれいな指先が、蜜で少し光る桜色の花弁の両端を少し抑えて、ほんの少し、引っ張る。すると桃色に色づく内側と、甘美に光る小さな隙間のような穴が覗いて…。

「…っ、は…っ」

込み上げる熱を、自分の手で受け止めた。
うわあ…、やばい。これ…合宿中どころか、絶対しばらく頭から離れない…。

「…出ました?」

そう、大真面目に聞いてくる光は、すげー可愛くて、でも可笑しくて…。

「…うん」

頷いて、彼女に近づいて、覆いかぶさって…、秘部に手を伸ばしながら、キスをしようとしたときに、彼女の携帯のバイブレーションが鳴った。横に脱いであるスカートのポケットから携帯を取り出し、画面を見て、あっと声をあげ、光は机から降りる。

「水泳部の部室行かないと…。司が呼んでるので、もう行きますね。」
「え…。」

よ、よくそんなすぐ切り替えられるなぁ…。男と女の違いか?
光は水着を着て、慣れた動作で素早く制服を着る。髪を少し直しながら、ベルトを締める俺に歩み寄って…、ちゅ、とキスをしてきた。

「合宿…頑張ってくださいね。」

そう言って、部屋を出て行く光。
…とんでもなく可愛かった…。



「…ちょっと…、待て」

さっきから俯いていた倉持が声を絞り出し、深呼吸を繰り返す。

「何?勃っちゃった?」
「…その言葉で萎えた」

ふー…、と息を吐き、俺を睨みつける。

「つか…なんでそんなこと話すんだよ、俺に!」
「え?自慢。」
「…殺されて―のか?」
「まさか!はっはっはっは」

クソ眼鏡…、と悶える倉持を見て、ちょっと優越感。あの頃の初々しい光のあんな姿は、俺しか知らない。

「つーかお前が聞いてきたんじゃん。どんな風に頼んだのかって」
「こんな生々しい体験談を長々と聞かされるとは思わなかったっつーの!!」
「だってかいつまんで話すと詳しく話せって言うしさ〜」
「極端なんだよ!お前!!」

また深いため息を吐く倉持。幸せが逃げるぞ。…とか言うと、マジで殴られそうだな。

「つかどこのAVだよそんな高校生活…」
「だよな〜、俺も信じらんねぇ!」
「死ね…あー…、あの汚れとか全く知らなさそうだった光に…お前…そんなことしてたのかよ…死ね」
「はっはっはっは、俺が教えちゃったんだよな〜。あと死ね死ね言うな。」
「死ね」

そのとき、ガチャン、と玄関のかぎが開いて、俺も倉持も口を噤む。

「ただいま〜!あ〜つかれた〜!」
「…お前の家じゃないぞ」
「光がいるんだから私の家みたいなもんよ。」
「何言ってるの?司…」

光と牧瀬と光臣の声だ。倉持と二人、リビングのドアを見ていると、三人はほどなくしてそのドアを開けた。

「あ、一也さん、帰ってたの?」

俺を見て嬉しそうにそう言う光に胸が暖かくなる。

「うん。嫁と過ごしたいんで〜って言って抜けてきた。」
「え?ふふふ…」

ちょっと頬を赤くしてはにかむ光。可愛い…。

「あーらら、ふたりっきりじゃなくてすみませんね〜。」
「今からでも二人にしてやろうか。司、帰るか?」
「だめだよ〜、倉持さんがひとりに…おっと」
「おい…。」

牧瀬を睨む倉持に、牧瀬は悪びれない態度で「だからモデルの子紹介するって言ってるじゃないですか〜」なんて言ってる。倉持も大人しく紹介されてればいいのに、ずっと突っぱねているようだ。

「可愛い子いますよ?倉持さんの好きそうな」
「うるせえ。女は顔じゃない」
「光みたいな美女に惚れて何言ってんだか…。」

「司〜、手伝って。」
「あ、はいはーい」

光と牧瀬がキッチンに入り、料理を始める。俺も仕込んでおいた鶏肉を冷蔵庫から取り出し、最後の仕上げをして、オーブンに入れた。

「うわー美味しそうなにおい〜。やっぱりクリスマスは家で過ごすのがいいよね、外はどこもかしこも混んでてさぁ…」
「外、凄い渋滞だったもんね。」
「ねー。イルミネーションどころじゃなかったわ。あんな人混みじゃロマンチックな気分になんてなれないよ。」

女二人の会話を背中に、チキンの準備が整った俺は、タイマーをセットしてリビングに戻った。

「光臣。」

向かい合って座って、それぞれスマホと新聞を眺めている男共。俺はスツールに座って、その輪に入った。

「お前さ、牧瀬と二人っきりの時、どんな感じなの?」
「どんな感じ…とは?」
「何か想像つかねーんだもん。お前ら、全然タイプ違うし…」
「わかるわかる。ちゃんと甘い雰囲気になんのか?」

倉持が珍しく俺の側に着いた。光臣は俺たちの顔を見比べて、いつも通りの無表情で答えた。

「当たり前だろう。」
「え、どんな感じ?どんな感じ?」
「どこまで進んでんの?」
「…学生のようだな、君たちは」

あ…なんか馬鹿にされた気がする。

「普段はしっかりしていて、芯の通った逞しい女性だが」
「はあ」
「か弱くて、可愛らしいところもある。魅力的だよ、彼女は」
「……。」
「……。」

なんだ、この溢れ出る余裕は…。女の経験が豊富だからか?

「それより、司はお前の心配をしていたぞ」
「え、俺?」

倉持が目を丸くした。

「まだいい人は現れないのかと。」
「……。」
「いい加減、光のことは諦めろよ。」
「そーだそーだ」
「……うるせえ」

倉持は藪から蛇が出てきたような顔をしてふんぞり返った。まったく…早く踏ん切りつけてほしいもんだぜ。

「ねえ光〜、そういえばこの間、大丈夫だったの?」
「何が?」

キッチンから牧瀬と光の声が聞こえてきて、俺たちは口を閉ざして耳を澄ました。牧瀬の声がデカいから丸聞こえだ。

「成宮さんにめちゃくちゃ食い下がられてたじゃん。」
「ああ…、うん、大丈夫でしょ。」

「え!?おい、何の話!?」

思わずキッチンに駆け込むと、牧瀬と光が目を丸くして振り向いた。

「びっくりしたあ〜!聞いてたんですか?」
「聞こえたんだよ!で、成宮がなんだって?」
「…えっと…。」

光は困ったように打ち明けた。

「LIMEのID、誰かから聞いたみたいで、バレちゃって…。」
「はー!?誰だよ絶対許さねえ」

ヒャハハハ、と倉持の不愉快な笑い声が聞こえる。

「おい…まさかお前?」
「ちげえよ。俺光のLIME知らないし」

え…そうなの?俺はてっきり、連絡先は知ってるもんだと…。

「で…食い下がってたって何?」
「え…、えっと…クリスマス、食事に行こうって…」
「…あいつ絶対シメる」

今度練習で会ったら覚えとけよ…。

「…てか、なんで成宮と会ったの?」
「同じ雑誌のインタビューが同じ日だったんですよ。」
「インタビュー?」
「これですよ。」

牧瀬はエプロンで手を拭きながらキッチンを出て、バッグから薄い冊子を取り出した。

「ELLIの特別号です!色んな分野のプリンス・プリンセス特集!成宮さんは野球界のプリンス担当で、光はモデル・女優界のプリンセス担当です!すごいでしょ!」
「……。」

ページをめくる。特集ページのトップを飾る光の写真。『プリンス・プリンセス特集――トップバッターはモデル・女優界代表、誰もがため息を吐く美貌の持ち主、玉城光』。
あー、やっぱすげえ綺麗…俺の嫁綺麗。

「も、もういいでしょ…恥ずかしい」
「まだ見てる」

光の手から逃れ、インタビューを熟読する。倉持と光臣も興味深そうにやってきて、雑誌を覗き込む。

「初恋の相手…御幸一也」
「もし生まれ変わったら…もう一度同じ人と結婚したい」
「来年の目標は…旦那さんに幸せでいてもらう」

「も、もうやめて…、う、」

ぎゅう、と光を抱きしめる。可愛すぎる…胸が苦しい…。

「お前最近ほんと…可愛すぎて死にそう」
「な、なに…それ…」

「御幸さん、成宮さんのページもぜひ読んでみてくださいよ。」
「え?…なんかあんの?」

あいつの写真とか、来年の抱負とか…興味ないんだけど。
ページをめくっていくと、見慣れた顔が現れる。黒っぽい衣装に身を包んでキメ顔の成宮鳴。今季絶好調だったからな…調子に乗ってやがる。

「なになに?初恋の相手は…、…玉城光」
「もし生まれ変わったら…御幸より先に光ちゃんと出会う」
「来年の目標は…光ちゃんに『ダーリン』と呼ばれるようになる」

メキ、と雑誌にしわが刻まれた。

「おい、ナニコレ?」
「インタビューですよ。」
「こんなん誰が許可したんだよ!」
「面白いから全会一致で掲載が決まったそうです。」
「なんだそれ…」

項垂れる俺、困ったように笑う光、完全に面白がっている倉持…。

「…あきらめの悪い男ばかりだな、野球選手というのは」

光臣が、ちらりと倉持と成宮とを見ながら、呆れたように呟いた。

 


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