219
近年、イケメン野球選手の怒涛のプロデビューで、空前の野球ブームだ。
『街頭インタビュー!あなたの好きな野球選手は?』
「やっぱり御幸一也選手で〜す!イケメンだし、愛妻家で一途だし、よく他の選手をおちょくるちょっとヤンチャなところも可愛くて…」
「成宮鳴選手が好きです!イケメンなのはもちろん、俺様なところが最高です!私の王子様です!」
「真田俊平選手かな〜…。格好良いし、ワイルド系なのに意外と面倒見もよくて…ぐいぐいリードしてくれそうで、素敵です…。」
「降谷暁選手!格好良くて可愛いんです!すごく天然で…色々教えてあげたいでーす!なんちゃって!」
「小湊春市選手、可愛いですよね〜。でも意外と気が強くて…やるときはやる、男らしいところもあるんです。そんなギャップが最高です。」
「あんまり目立たないけど…東条秀明選手!私、中性的な顔がタイプで…。あと、いつもにこにこしてて、爽やかイケメンなので!」
「断然!美馬選手ですよ!クールな美形で…一目惚れです!」
「やっぱり結城兄弟ですよ!あの男らしさ…一生ついていきたいです〜!」
「すげえ…誰一人プレーについて語ってねえ…」
御幸さんが引きつった顔で呟くのを、倉持さんが睨んでいる。…名前出なかったからな…。
「何見てるの?」
そこへメイクを終えた光がやって来た。春だから、菜の花の刺繍がされた、透け感のあるクリーム色のワンピース。
「…妖精…。」
「え?」
「光、美しすぎる…」
「あはは、ありがとう。」
私の感動を軽く笑って流す光。はぁ、笑顔が眩しい…。
「で…何見てたの?」
「ニュース。野球特集っつーから見てみたけど…全然野球関係ないわこれ。」
「そうなの?」
椅子に座ってふたりでタブレットを眺め始める御幸夫婦。あーあ、倉持さんが孤立しちゃった。
「今名前が出てた人、何人か今日の番組にも呼ばれてるんですよ。」
「へえ、誰?」
「ゲストに教えるわけにはいかないので、内緒です。」
「じゃあなんで今言ったんだよ」
倉持さんに雑に突っ込まれながら、今日の番組のレジュメを確認する。出演者は成宮さん、真田さん、美馬さん。番組は『今、会いたい人』という番組名で、各界の有名人を招き、その人が会いたい人をゲストとして招く、というもの。ちなみに光はこの番組にゲストとして呼ばれるのは、番組史上最多でもう5回目、10人以上に指名されている。…モテモテ。
そして今回…この3人が指名したのが、光というわけだ。うーん、また波乱の予感…。
「あ、光。そろそろ準備お願い。」
「はーい」
「俺らは?ここにいていいの?」
「観客席を用意してますよ。」
「え…なんで?」
観客席と言えば、カメラに映ることもある、スタジオのすぐ前に設けられた場所。何度かテレビ出演経験のある二人は、何かを察知して身構えた。
「ほらほら、もう撮影始まるのでね!移動お願いしますよ!」
「なに、この、ギャラももらってないのに出演者以下の雑な扱い…。」
「牧瀬テメー、何か隠してるだろ。」
「テメーですって?光臣に言って倉持さんは御幸家出禁にしますよ?」
「…横暴だ」
***
「さあ始まりました、『今、会いたい人』。」
「本日のゲストは、今女性からも大人気の、こちらの3名です。」
司会の上品な女性アナウンサーが指し示し、カメラがゲストを映し出す。真田さん、成宮さん、美馬さんの3人…いや、成宮さん以外のふたりは、ちょっと緊張した面持ちでお辞儀をした。成宮さんは元気よくピースをしている。
「ゲストの方には、事前にアンケートで「今会いたい人」を3人までお答えいただいております。ですので本日、どなたが来ているのかは、ゲストの方々もまだわかりませんが…。」
「この面子をご覧になって、いったい誰が来ているのか、見当はつきますか?」
「えー?全然わかんない!」
「……。」
「……。」
真田さんと美馬さんが成宮さんをちらりと見、苦笑いして俯く。
「おふたりは予想がついていそうですね?」
「え、いや、わからないですけど…、俺は美馬さんとは初対面なんで、予想がつかないというか。」
「…同じくです。」
真田さんが言うと、美馬さんが同意して頷く。
「…ただ…、」
真田さんは頭を掻いて、ちょっと顔を赤くした。
「…成宮さんの…あの…アレは、有名なんで。もしかしたら…ってのはありますけど。」
「……そうなのか?」
「えっ、俺?つーか、美馬さん、今のでわかったんすか?誰のことなのか?」
「……いや、」
「いやいやいや、えっ、…もしかして」
「……。」
「…美馬さんも、あの人?」
「…成宮選手から連想したのであれば…多分…、おそらく…」
「もーっ、ごちゃごちゃうるせえ!何言ってんのか全然わかんないし!俺を挟んで喋るなよ!」
成宮さんがしびれを切らして声を上げる。まどろっこしいのは嫌いらしい。
「それでは、本日お呼びしている方について、ゲストの方々に熱意を聞いたVTRがありますので、見てみましょう。どうぞ!」
モニターに映像が映し出される。トップバッターは美馬さんだ。インタビュアーと向かい合って座っている映像が映し出される。
『この方に実際お会いしたことはありますか?』
「…ありません。」
『この方を知ったのは?』
「高校3年の時…友人が動画を見せてきて」
はっ、と美馬さんが口元を押さえた。誰か来ているのか、さすがにわかったらしい。
『この方に会いたい理由は?』
「…ずっと原動力になっていたので。いつも勇気をもらって…憧れていました。」
『この方に会えたらどうしたいですか?』
「……。…とりあえず、握手を。それから…。…わかりません、きっと、頭が真っ白になるので…。」
VTRが終わり…、美馬さん、顔が真っ赤になってる。その様子を見て、真田さんはちょっと察したように、だけどまだ確信がないように、つぎのVTRを待ってモニターを見た。映像が切り替わり、次は真田さんのインタビューだ。
『この方と実際にお会いしたことは?』
「一度だけ、ありますよ。電話は何度かしたことあるんですけど、もう何年も前です。」
「…あ。」
真田さんは照れたようにはにかんで顔を押さえた。早くも気付いたらしい。
『この方と出会ったのは?』
「高校の時、この人の学校に練習試合で行ったんです。トイレ借りようと思って歩いてたら、見かけて…思わず声かけちゃいました、ハハハ」
『この方に会いたい理由は?』
「理由は特にないっすけど…しいて言えば、もう一度実物が見たい、みたいな。はは。」
『この方に会えたらどうしたいですか?』
「そうだな〜…、どこまで大丈夫っすか?なんて、ははは。…ハグとか…あ、ダメっすかね?」
「うわ〜…」
真田さんが悶えるように顔を覆って俯いた。そりゃそうだ、これ、本人にも見えてるもん。
ここまできても、成宮さんは誰のことなのか見当もつかないようで、退屈そうにふたりのインタビューを見流している。そしてやっと、成宮さんの映像が始まった。
『この方と実際にお会いしたことは?』
「あるよ、もちろん!」
『この方と出会ったのは?』
「高校の時。」
「えっ!!」
成宮さんが声を上げて立ち上がった。…めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしている。もう誰かわかったようで、インタビュー映像なんか見ちゃいない。
『この方に会いたい理由は?』
「好きだから!」
『この方に会えたらどうしたいですか?』
「え〜〜…、カメラの前じゃちょっと言えないかな!あはは」
「うわー!マジで!?マジで来てんの!?」
VTRも終わらないうちに、成宮さんが興奮気味にまくし立てる。司会者が笑いながら頷く。
「はい、では成宮さんも待ちきれないようですので…」
「早く早く!」
「さっそくご登場いただきましょうか。本日のゲスト、真田選手、成宮選手、美馬選手が今、会いたい人は…この方です!」
音楽が流れ、幕が上がって白煙が吹き、3人の男性が期待に満ちた顔で覗き込んだ階段の上に…光がはにかんだ笑顔で登場した。真田さんは嬉しそうにはにかんで光を見つめ、成宮さんはおおはしゃぎして、美馬さんはちょっと赤面して俯いている。
「よっしゃー!!やっぱ光ちゃんだ!!」
「う、うるせえ〜」
真田さんが苦笑いするのをよそに、成宮さんは勝手に立ち上がって、今階段を下りてきた光に駆け寄った。
「………めっちゃ綺麗!!!」
「あはは…ありがとうございます。」
上から下まで無遠慮にじろじろ眺めて言う成宮さんに、光も苦笑する。
「はい成宮さん、席にお戻りくださいね。」
「というわけで、本日のゲストが会いたい人は、玉城光さんでした。」
「もうこの番組に何度もお越しいただいていますね。」
「あはは…。」
「それでは玉城さんにはこちらの招待席にお座りいただきましょう。」
白いアンティーク調のクッションの椅子が用意され、光はそこに上品に腰掛ける。こうしていると、本当にお花の妖精か、お姫様みたい…。
「玉城さんは、本日の3名のゲストの方のことはご存知でしたか?」
「はい、夫と、野球の話はよくするので…。皆さんの話もよく聞いてます。」
「え!?一也俺のことなんて言ってるの?」
「え…。」
「最高のピッチャー?サウスポー最強とか?」
「えっと…。」
光は困ったように苦笑いを浮かべる。
「なるべく近づくなって言ってんだよ。」
突然観客席から上がる声。成宮さんが振り向き、えっ、と目を丸くする。
「…なんで一也がここに居んの!?」
「嫁の晴れ舞台を見に来たんじゃねーか」
「は〜!?一也がいたら光ちゃん口説けないじゃん!」
「いなくても口説けねーよ」
どっと笑いが起こる。成宮さんと御幸さんが揃うとおなじみの光景で、特に野球ファンの間では有名だ。
「何と本日は、玉城さんの夫で野球選手の、御幸一也さんもお越しいただいていました。」
「倉持洋一選手もご一緒ですね。」
「御幸選手と仲がよろしいんですよね。」
「いや、別に仲良くはないです」
御幸さんが冷静に答えて、倉持さんがチョップを落とす。だからかえって、「仲良いですね〜」と笑いを誘ってしまった。
「それでは、ゲストの方々から玉城さんへのお願いを聞いてみましょう。」
「まずは美馬選手から。美馬選手は…玉城さんと握手をしたい、というお願いです。玉城さん、よろしいですか?」
「はい、もちろん。」
光が立ち上がると、美馬さんは戸惑いながら立ち上がって、光の方に歩いていく。そして手を差し出す光に、赤面しながら手を出して、その手を両手で包まれると、一層顔を赤くした。…なんか、純情でかわいいな、美馬さん。
「美馬さん、玉城さんとの握手がかなって、今の心境はいかがですか?」
「…感動しています。」
「握手はどうでしたか?」
「…え、」
また顔が赤くなった。
「…や、柔らかくて…」
「……。」
「…いいにおいが」
「ちょっと、イメージ崩壊しそうだけどいいの?」」
成宮さんの突っ込みで美馬さんは口を噤む。それから笑いに包まれながらやっと席に戻り、手を握りしめて感動を噛みしめるように硬直した。
「それでは次は、真田選手から玉城さんへのお願いです。」
「真田選手からのお願いは…玉城さんから告白されてみたい。」
「…ちょっとはずいんすけど…。」
真田さんはそう言うけど、この番組に何度も呼ばれている光は、この手のことはもう何度もやっている。慣れた様子で席を立った光に、司会者が歩み寄る。
「よろしいですか、玉城さん?」
「はい。」
「ではこちらが台本になりますので…、」
「はい。」
ちょっと目を通して、真田さんも別の司会者から渡された台本に目を通すと、光はスタジオの中心へ、真田さんはスタジオの袖へスタンバイした。
「それでは、お願いします!」
司会者の合図で、スタジオ全体が薄暗くなり、光が立っている辺りに桜の花びらが舞うライトが当たる。真田さんが袖から歩いて出てきて、光の傍までやって来ると立ち止まり、光が振り返った。
「真田先輩。」
名前を呼んだだけなのに、先輩、という言い方にやられたのか、真田さんはちょっと口元を緩める。
「来てくれて、ありがとうございます…。」
光はちょっと俯いて、はずかしそうにしてみせる。演技派だ。
「先輩、私…。」
「……。」
「ずっと、先輩のことを見てました。」
「……。」
「野球をやってる時の先輩は、すごくかっこよくて…、私…」
「……。」
「私…、真田先輩のことが、好きです。」
「……っ」
「…真田選手、どうしました?」
突然口元を押さえて悶える真田さん。司会者の声が入ってきて、光の演技も桜の演出も台無しだ。
「ちょっと…タイムお願いします」
「どうかしましたか?」
「ちょっと、あの…胸が苦しいっす…」
「でも、セリフもあと少しですから。終わりにしちゃいましょう。」
「玉城さん、続きお願いします。」
「は、はい。」
司会者ふたりのごり押しにより、再び演出が始まった。光は苦笑からすぐに表情を作り、まだ照れを隠し切れない真田さんを真っすぐに見つめる。
「先輩は…野球が恋人だって、わかってますけど…」
「……。」
「でも…明日で、先輩は…引退だから…」
「……。」
「だから…今度は…私を、先輩の恋人にしてくれませんか?」
「…っ、う、うん…」
「…真田選手、セリフが違いますが…」
「時間もないので以上です。」
満身創痍の状態で席に戻る真田さん。羞恥心と引き換えに天国を見たか…。
「え〜、いいなぁ今の。俺もやりたーい」
成宮さんがそういうのを無視し、司会者はカンペを捲る。
「それでは最後に、成宮選手から玉城さんへのお願いです。」
「成宮選手のお願いは…正式なお付き合い、です。玉城さん、よろしいですか?」
司会者も読み上げながら笑っている。光も笑いながら、首を横に振った。
「…だめです。」
「えーっ、なんで俺だけだめなの!?」
「当たり前だろ」
観客席の御幸さんが突っ込むと、成宮さんは不服気に口を尖らせた。
「外野は黙っててよ!」
「外野じゃねーよ思いっきり当事者だ。」
「そこは外野席なんだよ!」
「席は関係ない。」
「はい!埒が明かないので本日はここまでとしましょう。」
「皆さんお元気で!また来週〜」
強引に音楽を流し、番組は締めくくられたが、成宮さんと御幸さんは撤収の合図の中でもにらみ合って火花を散らしていた。
『街頭インタビュー!あなたの好きな野球選手は?』
「やっぱり御幸一也選手で〜す!イケメンだし、愛妻家で一途だし、よく他の選手をおちょくるちょっとヤンチャなところも可愛くて…」
「成宮鳴選手が好きです!イケメンなのはもちろん、俺様なところが最高です!私の王子様です!」
「真田俊平選手かな〜…。格好良いし、ワイルド系なのに意外と面倒見もよくて…ぐいぐいリードしてくれそうで、素敵です…。」
「降谷暁選手!格好良くて可愛いんです!すごく天然で…色々教えてあげたいでーす!なんちゃって!」
「小湊春市選手、可愛いですよね〜。でも意外と気が強くて…やるときはやる、男らしいところもあるんです。そんなギャップが最高です。」
「あんまり目立たないけど…東条秀明選手!私、中性的な顔がタイプで…。あと、いつもにこにこしてて、爽やかイケメンなので!」
「断然!美馬選手ですよ!クールな美形で…一目惚れです!」
「やっぱり結城兄弟ですよ!あの男らしさ…一生ついていきたいです〜!」
「すげえ…誰一人プレーについて語ってねえ…」
御幸さんが引きつった顔で呟くのを、倉持さんが睨んでいる。…名前出なかったからな…。
「何見てるの?」
そこへメイクを終えた光がやって来た。春だから、菜の花の刺繍がされた、透け感のあるクリーム色のワンピース。
「…妖精…。」
「え?」
「光、美しすぎる…」
「あはは、ありがとう。」
私の感動を軽く笑って流す光。はぁ、笑顔が眩しい…。
「で…何見てたの?」
「ニュース。野球特集っつーから見てみたけど…全然野球関係ないわこれ。」
「そうなの?」
椅子に座ってふたりでタブレットを眺め始める御幸夫婦。あーあ、倉持さんが孤立しちゃった。
「今名前が出てた人、何人か今日の番組にも呼ばれてるんですよ。」
「へえ、誰?」
「ゲストに教えるわけにはいかないので、内緒です。」
「じゃあなんで今言ったんだよ」
倉持さんに雑に突っ込まれながら、今日の番組のレジュメを確認する。出演者は成宮さん、真田さん、美馬さん。番組は『今、会いたい人』という番組名で、各界の有名人を招き、その人が会いたい人をゲストとして招く、というもの。ちなみに光はこの番組にゲストとして呼ばれるのは、番組史上最多でもう5回目、10人以上に指名されている。…モテモテ。
そして今回…この3人が指名したのが、光というわけだ。うーん、また波乱の予感…。
「あ、光。そろそろ準備お願い。」
「はーい」
「俺らは?ここにいていいの?」
「観客席を用意してますよ。」
「え…なんで?」
観客席と言えば、カメラに映ることもある、スタジオのすぐ前に設けられた場所。何度かテレビ出演経験のある二人は、何かを察知して身構えた。
「ほらほら、もう撮影始まるのでね!移動お願いしますよ!」
「なに、この、ギャラももらってないのに出演者以下の雑な扱い…。」
「牧瀬テメー、何か隠してるだろ。」
「テメーですって?光臣に言って倉持さんは御幸家出禁にしますよ?」
「…横暴だ」
***
「さあ始まりました、『今、会いたい人』。」
「本日のゲストは、今女性からも大人気の、こちらの3名です。」
司会の上品な女性アナウンサーが指し示し、カメラがゲストを映し出す。真田さん、成宮さん、美馬さんの3人…いや、成宮さん以外のふたりは、ちょっと緊張した面持ちでお辞儀をした。成宮さんは元気よくピースをしている。
「ゲストの方には、事前にアンケートで「今会いたい人」を3人までお答えいただいております。ですので本日、どなたが来ているのかは、ゲストの方々もまだわかりませんが…。」
「この面子をご覧になって、いったい誰が来ているのか、見当はつきますか?」
「えー?全然わかんない!」
「……。」
「……。」
真田さんと美馬さんが成宮さんをちらりと見、苦笑いして俯く。
「おふたりは予想がついていそうですね?」
「え、いや、わからないですけど…、俺は美馬さんとは初対面なんで、予想がつかないというか。」
「…同じくです。」
真田さんが言うと、美馬さんが同意して頷く。
「…ただ…、」
真田さんは頭を掻いて、ちょっと顔を赤くした。
「…成宮さんの…あの…アレは、有名なんで。もしかしたら…ってのはありますけど。」
「……そうなのか?」
「えっ、俺?つーか、美馬さん、今のでわかったんすか?誰のことなのか?」
「……いや、」
「いやいやいや、えっ、…もしかして」
「……。」
「…美馬さんも、あの人?」
「…成宮選手から連想したのであれば…多分…、おそらく…」
「もーっ、ごちゃごちゃうるせえ!何言ってんのか全然わかんないし!俺を挟んで喋るなよ!」
成宮さんがしびれを切らして声を上げる。まどろっこしいのは嫌いらしい。
「それでは、本日お呼びしている方について、ゲストの方々に熱意を聞いたVTRがありますので、見てみましょう。どうぞ!」
モニターに映像が映し出される。トップバッターは美馬さんだ。インタビュアーと向かい合って座っている映像が映し出される。
『この方に実際お会いしたことはありますか?』
「…ありません。」
『この方を知ったのは?』
「高校3年の時…友人が動画を見せてきて」
はっ、と美馬さんが口元を押さえた。誰か来ているのか、さすがにわかったらしい。
『この方に会いたい理由は?』
「…ずっと原動力になっていたので。いつも勇気をもらって…憧れていました。」
『この方に会えたらどうしたいですか?』
「……。…とりあえず、握手を。それから…。…わかりません、きっと、頭が真っ白になるので…。」
VTRが終わり…、美馬さん、顔が真っ赤になってる。その様子を見て、真田さんはちょっと察したように、だけどまだ確信がないように、つぎのVTRを待ってモニターを見た。映像が切り替わり、次は真田さんのインタビューだ。
『この方と実際にお会いしたことは?』
「一度だけ、ありますよ。電話は何度かしたことあるんですけど、もう何年も前です。」
「…あ。」
真田さんは照れたようにはにかんで顔を押さえた。早くも気付いたらしい。
『この方と出会ったのは?』
「高校の時、この人の学校に練習試合で行ったんです。トイレ借りようと思って歩いてたら、見かけて…思わず声かけちゃいました、ハハハ」
『この方に会いたい理由は?』
「理由は特にないっすけど…しいて言えば、もう一度実物が見たい、みたいな。はは。」
『この方に会えたらどうしたいですか?』
「そうだな〜…、どこまで大丈夫っすか?なんて、ははは。…ハグとか…あ、ダメっすかね?」
「うわ〜…」
真田さんが悶えるように顔を覆って俯いた。そりゃそうだ、これ、本人にも見えてるもん。
ここまできても、成宮さんは誰のことなのか見当もつかないようで、退屈そうにふたりのインタビューを見流している。そしてやっと、成宮さんの映像が始まった。
『この方と実際にお会いしたことは?』
「あるよ、もちろん!」
『この方と出会ったのは?』
「高校の時。」
「えっ!!」
成宮さんが声を上げて立ち上がった。…めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしている。もう誰かわかったようで、インタビュー映像なんか見ちゃいない。
『この方に会いたい理由は?』
「好きだから!」
『この方に会えたらどうしたいですか?』
「え〜〜…、カメラの前じゃちょっと言えないかな!あはは」
「うわー!マジで!?マジで来てんの!?」
VTRも終わらないうちに、成宮さんが興奮気味にまくし立てる。司会者が笑いながら頷く。
「はい、では成宮さんも待ちきれないようですので…」
「早く早く!」
「さっそくご登場いただきましょうか。本日のゲスト、真田選手、成宮選手、美馬選手が今、会いたい人は…この方です!」
音楽が流れ、幕が上がって白煙が吹き、3人の男性が期待に満ちた顔で覗き込んだ階段の上に…光がはにかんだ笑顔で登場した。真田さんは嬉しそうにはにかんで光を見つめ、成宮さんはおおはしゃぎして、美馬さんはちょっと赤面して俯いている。
「よっしゃー!!やっぱ光ちゃんだ!!」
「う、うるせえ〜」
真田さんが苦笑いするのをよそに、成宮さんは勝手に立ち上がって、今階段を下りてきた光に駆け寄った。
「………めっちゃ綺麗!!!」
「あはは…ありがとうございます。」
上から下まで無遠慮にじろじろ眺めて言う成宮さんに、光も苦笑する。
「はい成宮さん、席にお戻りくださいね。」
「というわけで、本日のゲストが会いたい人は、玉城光さんでした。」
「もうこの番組に何度もお越しいただいていますね。」
「あはは…。」
「それでは玉城さんにはこちらの招待席にお座りいただきましょう。」
白いアンティーク調のクッションの椅子が用意され、光はそこに上品に腰掛ける。こうしていると、本当にお花の妖精か、お姫様みたい…。
「玉城さんは、本日の3名のゲストの方のことはご存知でしたか?」
「はい、夫と、野球の話はよくするので…。皆さんの話もよく聞いてます。」
「え!?一也俺のことなんて言ってるの?」
「え…。」
「最高のピッチャー?サウスポー最強とか?」
「えっと…。」
光は困ったように苦笑いを浮かべる。
「なるべく近づくなって言ってんだよ。」
突然観客席から上がる声。成宮さんが振り向き、えっ、と目を丸くする。
「…なんで一也がここに居んの!?」
「嫁の晴れ舞台を見に来たんじゃねーか」
「は〜!?一也がいたら光ちゃん口説けないじゃん!」
「いなくても口説けねーよ」
どっと笑いが起こる。成宮さんと御幸さんが揃うとおなじみの光景で、特に野球ファンの間では有名だ。
「何と本日は、玉城さんの夫で野球選手の、御幸一也さんもお越しいただいていました。」
「倉持洋一選手もご一緒ですね。」
「御幸選手と仲がよろしいんですよね。」
「いや、別に仲良くはないです」
御幸さんが冷静に答えて、倉持さんがチョップを落とす。だからかえって、「仲良いですね〜」と笑いを誘ってしまった。
「それでは、ゲストの方々から玉城さんへのお願いを聞いてみましょう。」
「まずは美馬選手から。美馬選手は…玉城さんと握手をしたい、というお願いです。玉城さん、よろしいですか?」
「はい、もちろん。」
光が立ち上がると、美馬さんは戸惑いながら立ち上がって、光の方に歩いていく。そして手を差し出す光に、赤面しながら手を出して、その手を両手で包まれると、一層顔を赤くした。…なんか、純情でかわいいな、美馬さん。
「美馬さん、玉城さんとの握手がかなって、今の心境はいかがですか?」
「…感動しています。」
「握手はどうでしたか?」
「…え、」
また顔が赤くなった。
「…や、柔らかくて…」
「……。」
「…いいにおいが」
「ちょっと、イメージ崩壊しそうだけどいいの?」」
成宮さんの突っ込みで美馬さんは口を噤む。それから笑いに包まれながらやっと席に戻り、手を握りしめて感動を噛みしめるように硬直した。
「それでは次は、真田選手から玉城さんへのお願いです。」
「真田選手からのお願いは…玉城さんから告白されてみたい。」
「…ちょっとはずいんすけど…。」
真田さんはそう言うけど、この番組に何度も呼ばれている光は、この手のことはもう何度もやっている。慣れた様子で席を立った光に、司会者が歩み寄る。
「よろしいですか、玉城さん?」
「はい。」
「ではこちらが台本になりますので…、」
「はい。」
ちょっと目を通して、真田さんも別の司会者から渡された台本に目を通すと、光はスタジオの中心へ、真田さんはスタジオの袖へスタンバイした。
「それでは、お願いします!」
司会者の合図で、スタジオ全体が薄暗くなり、光が立っている辺りに桜の花びらが舞うライトが当たる。真田さんが袖から歩いて出てきて、光の傍までやって来ると立ち止まり、光が振り返った。
「真田先輩。」
名前を呼んだだけなのに、先輩、という言い方にやられたのか、真田さんはちょっと口元を緩める。
「来てくれて、ありがとうございます…。」
光はちょっと俯いて、はずかしそうにしてみせる。演技派だ。
「先輩、私…。」
「……。」
「ずっと、先輩のことを見てました。」
「……。」
「野球をやってる時の先輩は、すごくかっこよくて…、私…」
「……。」
「私…、真田先輩のことが、好きです。」
「……っ」
「…真田選手、どうしました?」
突然口元を押さえて悶える真田さん。司会者の声が入ってきて、光の演技も桜の演出も台無しだ。
「ちょっと…タイムお願いします」
「どうかしましたか?」
「ちょっと、あの…胸が苦しいっす…」
「でも、セリフもあと少しですから。終わりにしちゃいましょう。」
「玉城さん、続きお願いします。」
「は、はい。」
司会者ふたりのごり押しにより、再び演出が始まった。光は苦笑からすぐに表情を作り、まだ照れを隠し切れない真田さんを真っすぐに見つめる。
「先輩は…野球が恋人だって、わかってますけど…」
「……。」
「でも…明日で、先輩は…引退だから…」
「……。」
「だから…今度は…私を、先輩の恋人にしてくれませんか?」
「…っ、う、うん…」
「…真田選手、セリフが違いますが…」
「時間もないので以上です。」
満身創痍の状態で席に戻る真田さん。羞恥心と引き換えに天国を見たか…。
「え〜、いいなぁ今の。俺もやりたーい」
成宮さんがそういうのを無視し、司会者はカンペを捲る。
「それでは最後に、成宮選手から玉城さんへのお願いです。」
「成宮選手のお願いは…正式なお付き合い、です。玉城さん、よろしいですか?」
司会者も読み上げながら笑っている。光も笑いながら、首を横に振った。
「…だめです。」
「えーっ、なんで俺だけだめなの!?」
「当たり前だろ」
観客席の御幸さんが突っ込むと、成宮さんは不服気に口を尖らせた。
「外野は黙っててよ!」
「外野じゃねーよ思いっきり当事者だ。」
「そこは外野席なんだよ!」
「席は関係ない。」
「はい!埒が明かないので本日はここまでとしましょう。」
「皆さんお元気で!また来週〜」
強引に音楽を流し、番組は締めくくられたが、成宮さんと御幸さんは撤収の合図の中でもにらみ合って火花を散らしていた。